2025 年 34 巻 3 号 p. 211-212
日々呼吸管理を実践していると患者が思いもよらない訴えをする場面に遭遇する.著者はそれらの訴えに注目し,持続陽圧呼吸(continuous positive airway pressure: CPAP)装置にバクテリアフィルター(以下フィルター)を装着することによる圧感覚や機器稼働記録の変化やCPAP装置やservo-ventilation(SV)装置を機種変更(Philips Respironics社製からResMed社製へ)することでの機器稼働記録の変化を検討した.結果,フィルター装着は,患者の圧感覚やCPAP治療に影響する可能性があり,CPAP治療やSVにおける機種変更は,無呼吸低呼吸指数のコントロールやアドヒアランスに影響する可能性があることが分かり報告した.以上の内容は,個々の症例に対応した形で呼吸管理を実践する上で重要となる新たなエビデンスの構築に寄与した.
Evidence-based medicine時代の現代において,質の高い前向き無作為化試験が重要視され,それらを基に打ち立てられたエビデンスに即した医療の実践が求められている.しかしながら,そういった医療を実践していく中で,患者が思いもよらない訴えをする場面にしばしば遭遇することがある.著者は,日々呼吸管理を実践する中で,そういった患者の訴えに耳を傾け(注目し),回路内にバクテリアフィルター(以下フィルター)を装着することや,持続陽圧呼吸(continuous positive airway pressure: CPAP)装置やservo-ventilation(SV)装置の機種を変更することが呼吸管理に及ぼす影響に関して,症例報告や後ろ向き研究の形ではあるが論文報告した1,2,3).
当院では,在宅でSVを使用している症例が入院し,機器を持参しておらず,機器に加湿器を併用していた場合は,院内で新しい機器を用意し,送気口にフィルターの装着及び加湿器を外付けのものへと回路変更していたが,SVの設定を在宅と同様にしていたにもかかわらず,圧が弱くなったと訴える症例を著者は経験した.著者はその原因の一つとしてフィルターの装着を想定した.2019年6月Philips Respironics(以下Philips)社は同社製CPAP装置において,装置内部に使用されている防音用部品から微細粒子や化学物質が発生し,患者が吸い込んだりすることにより,健康被害が生じる危険性があるとリコールを発表し,対応策の一つとして回路内にフィルターを装着することを推奨した.そこで,前述した症例経験から,回路内にフィルターを装着することで圧に対する感覚変化が生じると仮説を立て,Philips社製のCPAP装置を使用し,回路内にフィルターを装着することを承諾した症例において,フィルター装着がCPAP療法に及ぼす影響を後ろ向きに検討した1).合計160人の症例において,フィルター装着による圧感覚の変化は,非常に弱くなったが13人(8.1%),少し弱くなったが42人(26.2%),変化はなかったが103人(64.4%),少し強くなったが2人(1.3%)であり,非常に強くなったと回答した人はいなかった.また非常に弱くなったと回答した13人中5人(38.5%)がフィルターの使用を中止した.そしてCPAP機器稼働記録を取得できた129人の症例では,フィルター装着前後で平均CPAP圧は5.8(5.0-6.7)cmH2Oから5.9(5.1-7.2)cmH2Oへと有意に上昇したが,平均無呼吸低呼吸指数(apnea-hypopnea index: AHI)や1日あたりの平均機器使用時間や機器使用日数は変化しなかった.以上より,フィルター装着は,患者の圧感覚やCPAP治療に影響する可能性があり,注意が必要であることがわかった.
著者は,これまで非侵襲的陽換気療法を行っている症例において,機種変更を行うことで,設定が同じでも変更後の機械の方が使用しやすいと訴える症例や経皮モニタリングデータを含めて呼吸状態の改善を認めた症例を経験し,呼吸管理における機種の違いの重要性を認識していた.前述のPhilips社のリコールを受けて,Philips社製からResMed社製へ機種変更を希望した症例が存在したため,機種変更前後の機器稼働記録を後ろ向きに調査した2).合計13人の症例において,平均AHIは4.4(3.1-10.7)回/時間から2.0(0.8-3.6回/時間)へと有意に低下した(p=0.022).さらに機種変更により平均AHIが低下した群と低下しなかった群で比較検討したところ,CPAP療法導入前の終夜ポリソムノグラフィー(polysomnography: PSG)検査で測定したAHIは後者と比較して前者では有意に高いことがわかった(43.0[28.1-49.7]回/時間 vs. 20.6[20.1-21.0]回/時間, p=0.030).またSV装置をPhilips社からResMed社製へ変更することで中枢性睡眠時無呼吸(central sleep apnea: CSA)コントロールが良好となった症例を経験し,論文として報告した3).症例は,僧帽弁閉鎖不全症,心房細動,肺腺癌,2型糖尿病の既往歴を有する73歳男性で,65歳時に僧帽弁閉鎖不全症に対して,僧帽弁形成術を施行された.以前より日中の眠気症状があり,66歳時に交通事故を起こしたため当院を受診した.Epworth Sleepiness Scale日本語版(JESS)は15点で,Pittsburgh Sleep Quality index日本語版(PSQI-J)は10点であった.PSG検査結果は,AHIは42.7回/時間であり,内訳は閉塞性無呼吸1.9回/時間,混合型無呼吸1.9回/時間,中枢性無呼吸12.1回/時間,低呼吸26.8回/時間であり,CSAと診断された.まずCPAP療法を導入したが,導入時,導入3か月後のPSG検査や機器稼働記録上もAHIが15回/時間以上が継続したため,Philips社製のSVへ変更した.変更時に行ったPSG検査ではAHIは3.5回/時間であった.以降機器稼働記録上AHIは安定していたが,変更約54か月後以降,AHIが10回/時間以上を呈するようになり,SVに対するアドヒアランスが低下し,睡眠の質の低下も訴えるようになった.そこでSV装置をResMed社製へ変更する方針とした.Split nightでPSG検査を行い,Philips社からResMed社製へ変更することでAHIが43.7回/時間から13.6回/時間へ改善した.以降SVに対するアドヒアランスの改善や,SV装置変更前後3カ月のJESSやPSQI-Jは各々8点から4点,10点から6点へ改善が認められ,日中の眠気症状や睡眠の質の改善が認められた.以上より,CPAP治療やSVにおける機種変更はAHIコントロールやアドヒアランスに影響する可能性があり,同一機種で治療に難渋する場合は,機種変更も考慮する必要があることが分かった.
このように著者は,個々の症例の訴えに注目し,個々の症例に対応した形で呼吸管理を実践する上で重要となる新たなエビデンスを構築してきた.
この度は,学会奨励賞を受賞できましたことを大変光栄に思います.呼吸管理だけでなく医療全般に言えることですが,個々の症例の訴えに耳を傾け(注目し)臨床を行っていくことは大変重要なことであり,さらにそれらを客観的な指標で科学的に証明することは臨床医の使命であると考えております.
このように論文発表し本賞を受賞することができましたのも,これまで私と一緒に働いてくださった数々の先生方や医療スタッフのおかげと考えております.特に独立行政法人国立病院機構北海道医療センター神経筋/成育センターの石川悠加先生,日本大学医学部内科学系睡眠医学分野睡眠医学・呼吸管理学講座/京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センター陳和夫先生,そして京都大学大学院医学研究科呼吸器内科学平井豊博先生のご指導には深謝しております.今後も本学会を通じ実地臨床に基づいた呼吸管理のエビデンスの更なる構築に尽力していきたいと考えております.
呼吸不全先進医療講座は帝人ファーマ株式会社との共同研究講座である.
濱田 哲;研究費・助成金(帝人ファーマ株式会社)