間質性肺炎は慢性進行性の疾患であり,病勢進行によって生じる呼吸困難や不安感の増大に対する症状を緩和することは重要な課題であるが,有効な薬剤についての検討や報告は少ない,そこで当院で間質性肺炎に対して入院で緩和ケアを導入された28例について後方視的に検討を行った.呼吸困難に対してモルヒネ経口投与が9例,モルヒネ経口投与+抗精神病薬15例,モルヒネ経口投与+抗うつ薬3例,モルヒネ経口投与+抗精神病薬+抗うつ薬1例に導入され,介入前後のIPOSスコア平均値は3.0から1.61と改善を認めた.また不安に対して抗精神病薬9例(60%),抗精神病薬+睡眠導入剤4例(26.7%),抗うつ薬1例(6.7%),抗うつ薬+睡眠導入剤1例(6.7%)が導入されIPOSスコアの平均値2.91から1.27と改善が認められた.短期間での検討においてモルヒネ経口内服及び抗不安薬は間質性肺炎患者の呼吸困難や不安感の改善に寄与した.
間質性肺炎は慢性進行性の疾患であり,悪性腫瘍と同等の予後となることも多く,病勢進行によって生じる呼吸困難や不安感の増大に対する症状を緩和することは重要な課題である1).しかし間質性肺炎に対する緩和ケアは肺癌と比較し半数程度と少なく,終末期の話し合いも頻度が少ないとされる2).特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis: IPF)では死亡する約2年前から息切れを始めとする肉体的,精神的に明らかなQuality of life(QOL)低下が出現するとされており3),早期の緩和ケア導入が必要と考えられる.しかし,間質性肺炎の呼吸困難や不安感に対する薬物療法の有効性についての報告は少ない.今回当院で間質性肺炎の呼吸困難,不安感に対して薬物療法を行った症例について後方視的に検討した.
2021年5月から2023年11月の期間に,主治医の判断で入院により緩和ケアを導入した症例について後方視的に検討した.症状はIntegrated Palliative care Outcome Scale(IPOS)(図1)で評価を行い3,4),治療介入の1週間後にIPOSで再評価が可能であった28症例の呼吸困難,不安感に対する薬物療法の有効性について検討を行った.当院では間質性肺炎の呼吸困難に対する緩和ケア薬物療法のプロトコールを作成している(図2).本検討ではプロトコールに則り,薬物療法の介入はIPOSスコア2以上の症状を有する患者に対して介入を行った.またモルヒネは速放製剤を用い,1回 5-10 mgを1日2-3回の分割で経口投与を行った.抗精神病薬や抗うつ薬,睡眠導入剤については精神科医師の診察の上で,投与が必要な症例に対して経口投与を行った.本研究は倫理委員会で慈山倫理4-第2号「終末期間質性肺炎患者におけるオピオイド製剤および向精神薬の有効性」の承認を得た.

緩和ケアの導入を行った患者の背景は(表1),年齢平均値75.7歳,緩和ケア導入時の間質性肺炎のJRS重症度分類では重症度4度が最も多く14例(50.0%),重症度3度が11例(39.3%)と進行例での導入を多く認めた.重症度1度では特発性上葉優位型肺線維症2例,線維性過敏性肺炎1例に対して導入を行っており,軽症にも関わらずいずれの症例もIPOSで呼吸困難が2以上と強い症状を有していたため導入を行った.体格指数(body mass index: BMI)平均値は14.4とやせが多く,在宅酸素療法は24例(85.7%)で導入されていた.疾患内訳ではIPFが最も多く11例(39.3%)で,ついで特発性上葉優位型肺線維症9例(32.1%)であった.間質性肺炎の治療は抗線維化薬5例,ステロイド,免疫抑制剤などの抗炎症療法が4例,抗線維化薬と抗炎症療法の併用が12例,緩和ケアのみが7例であった.28例全例が呼吸困難の症状に対して薬物療法が導入された(表2).モルヒネは全例経口投与で導入された.薬物療法の内訳はモルヒネ経口投与が9例(32.1%),モルヒネ経口投与+抗精神病薬15例(53.6%),モルヒネ経口投与+抗うつ薬3例(10.7%),モルヒネ経口投与+抗精神病薬+抗うつ薬1例(3.6%)であった.モルヒネの投与量の平均値は 17.5 mg,併用した抗精神病薬はペロスピロン11例,オランザピン3例,リスペリドン2例,併用した抗うつ薬はミルタザピン2例,トラゾドン1例であった.抗精神病薬は疾患に対する不安感による呼吸困難が疑われる場合に併用を行った.抑うつや不安といった陰性症状が主体の症状にはペロスピロンを選択する場合が多く,認知機能低下が目立つ症例や食欲不振を合併している症例についてはオランザピン投与が検討された.陽性症状が主体な症例についてはリスペリドン投与が選択される傾向にあった.有害事象は便秘5例(17.9%),口腔乾燥2例(7.1%),眠気2例(7.1%),嘔気1例(3.6%)でいずれもCommon Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)Grade 1 であり,モルヒネの減量や中止には至らなかった.治療介入による症状変化は介入前後でIPOSスコアの平均値3.0から1.61と改善が認められた,また28例中15例(53.6%)がIPOSスケール2以上の不安を認めており,抗精神病薬9例(60%),抗精神病薬+睡眠導入剤4例(26.7%),抗うつ薬1例(6.7%),抗うつ薬+睡眠導入剤1例(6.7%)が導入された(表3).治療介入により,IPOSスコアの平均値2.91から1.27と改善が認められた.使用薬剤は抗精神病薬としてペロスピロン10例,オランザピン2例,リスペリドン1例,抗うつ薬としてミルタザピン1例,トラゾドン1例,睡眠導入剤としてレンボレキサント4例,ラメルテオン1例であった.緩和ケア導入後の経過では,18例(64.3%)が自宅退院後に外来通院,4例(14.3%)が在宅医療を導入し自宅へ退院,5例(17.9%)が転院,1例(3.6%)が疾患進行により死亡された.
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 性別 (男/女) | 15/13 |
| 年齢[歳] | 75.7±8.4 |
| 特発性肺線維症/特発性上葉優位型肺線維症/二次性上葉優位型肺線維症/特発性分類不能型間質性肺炎/膠原病性間質性肺炎/線維性過敏性肺炎 | 11/9/1/3/2/2 |
| JRS新重症度分類(I/II/III/IV) | 3/0/11/14 |
| BMI[kg/m2] | 14.4±4.05 |
| KL-6[U/ml] | 1,004±609 |
| SP-D[ng/ml] | 268±102 |
| PaO2 [mmHg] | 69.9±12.1 |
| 在宅酸素使用(あり/なし) | 24/4 |
| 治療(抗線維化薬/抗炎症療法/抗炎症療法+抗線維化薬/未治療) | 5/4/12/7 |
平均値±標準偏差
| 使用薬剤 | 症例数(%) |
|---|---|
| モルヒネ内服 | 9例(32.1%) |
| モルヒネ内服+抗精神病薬 | 15例(53.6%) |
| モルヒネ+抗うつ薬 | 3例(10.7%) |
| モルヒネ+抗精神病+抗うつ薬 | 1例( 3.6%) |
| 使用薬剤 | 症例数(%) |
|---|---|
| 抗精神病薬 | 9例(60.0%) |
| 抗精神病薬+睡眠導入剤 | 4例(26.7%) |
| 抗うつ薬 | 1例( 6.7%) |
| 抗うつ薬+睡眠導入剤 | 1例( 6.7%) |
非がん性呼吸器疾患の経過は慢性持続性に進行する機能低下と,急性増悪による著しい機能低下の繰り返しが重複して進行する5).緩和ケアは症状を軽減させることで,患者および介助者のQOLを維持,改善を目的とし,終末期かどうかに関わらず全ての病期に対して適応されてよいとされる6,7).間質性肺炎においても,抗炎症療法や抗線維化薬といった現病の治療に加え,早期からの緩和ケアの導入によってQOL,ADLの維持が求められる.従って常に疾患挙動を注視しながら,緩和ケアの必要性について繰り返し評価する必要があるとされる8).
呼吸困難は「呼吸時の不快な感覚」と定義される主観的な症状であり,低酸素血症で定義される呼吸不全とは必ずしも一致しない.呼吸困難は死のイメージと結びついて精神的苦痛につながることも多く,そのことが闘病プロセスにおける重要な意志決定に悪影響を及ぼすこともあるとされる9).そのため,十分な酸素投与を行っても呼吸困難が残存する患者に対する薬物療法が必要である.
間質性肺炎の緩和治療における薬物療法の報告では,Matudaらが,終末期の間質性肺炎に対してモルヒネの持続皮下注射が開始4時間後の呼吸困難のnumeric rating scale(NRS)を有意に低下させたと報告している10).またCurrowらは間質性肺炎10例を含む慢性呼吸器疾患83例に対してモルヒネ徐放製剤 10 mg/日から投与を開始し,効果が乏しければ 30 mg/日まで漸増する第二相用量漸増試験では,83例中52例で呼吸困難VAS/視覚アナログ尺度(visual analogue scale: VAS)が10%以上改善したと報告している11).一方でKrong-Whiteらは修正MRC息切れスケール(modified Medical Research Council dyspnea scale: mMRC)3以上の間質性肺炎36症例に対しモルヒネ速放製剤1日 20 mg(1回 5 mg,1日4回)の前向きプラセボ対象比較試験を実施し,モルヒネ群でベースラインからのVASの改善はあったが,プラセボ群と比較してVAS変化量に有意差を認めなかったと報告している12).また抗うつ薬については,間質性肺炎,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)またはいずれも有し,mMRC3以上の呼吸困難を有する患者にミルタザピンまたはプラセボとの2群を比較した国際多施設共同第3相並行群間二重盲検ランダム化プラセボ対照試験で,治療開始後56日時点の過去24時間の最悪の呼吸困難をNRSで評価した結果,2群間に有意差を認めなかったと報告している13).本検討では,モルヒネと抗精神病薬や抗うつ薬を併用することで,短期間での評価ではあるが,呼吸困難や不安感を軽減させることが可能であり,重篤な有害事象も認めなかった.がん患者において呼吸困難と不安などの心理的要因の関連性については報告されており14,15,16,17,18),非がん性呼吸器疾患においても不安感のコントロールが呼吸困難を緩和させるために重要であると考え,当院では精神科医師の協力のもと,科科連携を行うことで良好な結果が得られたと考える.
本検討では入院による緩和ケアを導入し,退院まで1週間毎にIPOS評価を行った.多くの症例は1週間で退院を行ったため,今回の検討では1週間後の効果判定で有効性を評価した.今後長期的な安全性や有効性については外来診療においても継続的な評価を行う必要がある.
本検討の限界点は単施設での検討であることや,後方視的な検討であること,長期的な有効性や安全性については検討できていないこと,緩和ケア対象患者を主治医が選択していることが挙げられる.今後さらなる症例集積と,長期間の有効性,安全性について検討が課題と考える.
本論文の要旨は,第33回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2023年12月,宮城)で発表し,座長推薦を受けた.
杉野圭史;講演料(ベーリンガーインゲルハイム)