日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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症例報告
関節リウマチ・気管支拡張症のある患者に対する大切な活動と役割に向けた外来作業療法
佐野 菜緒子 吉岡 和哉本村 直紀山崎 直也中村 速松本 学
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2025 年 35 巻 1 号 p. 76-79

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要旨

慢性呼吸器疾患患者は息切れによる行動制約によって日常生活活動の低下をきたし,役割,趣味,生きがいの喪失を幾度も体験すると言われている.今回,呼吸困難により臥床傾向で家庭の役割を喪失していた関節リウマチ合併の気管支拡張症患者の「家族に迷惑をかけたくない」という思いに寄り添い,外来作業療法でクライエント中心の可能化のカナダモデル(Canadian Model of Client-Centered Enablement; CMCE)を用いた.その結果,呼吸困難で諦めていた活動を再開でき,カナダ作業遂行測定(COPM)で目標とした活動の遂行スコアが2.3から8.3へ,満足スコアが4.3から8.0へと改善し,家庭の役割を一部獲得できた.地域在住呼吸器疾患患者に対してOTの専門性を活用した介入は,自分らしい活動や役割を再獲得できる可能性が示唆された.

緒言

慢性呼吸器疾患患者は息切れによる行動制約によって日常生活活動(activities of daily living; ADL)の低下をきたし,役割,趣味,生きがいの喪失を幾度も体験する1

作業療法(occupational therapy; OT)の主要なゴールは人々が日常生活の活動に参加できるようにすることであり2,作業療法士(occupational therapist; OT)の中核となる能力は,作業をできるようにする「可能化」であると言われている3.可能化に必要な技能を示すモデルとして,クライエント中心の可能化のカナダモデル(Canadian Model of Client-Centered Enablement; CMCE)が開発された(図13,4,5.OTは対象者にとって目的や価値を持つ活動ができるように,CMCEを用いて対象者と協働する.

図1 CMCEと作業の可能化の技能

文献3,4,5)より一部改変.CMCE(左図)は対象者とOTが流動的で多様な関係を保ちながら,対象者の作業を可能化していく状態を示している.それぞれの矢印の接点は,下が出会いの始まりとし,上が終わりを表している.作業の可能化のためにOTが持つべき10の技能の概要は右図に示す.

今回,在宅で臥床傾向だった関節リウマチ合併の気管支拡張症患者に対し,CMCEを用いた外来OTの結果,呼吸困難で制限されていた活動を再開し,家庭の役割を一部再獲得できたため報告する.

症例

1. 倫理的配慮

本報告に際し,本人・家族に説明し書面にて同意を得た.

2. 症例

70歳代女性.診断名:気管支拡張症,関節リウマチ(Larsen grade分類gradeIV).body mass index 16.0 kg/m2,修正MRC息切れスケールgrade 4.X-3年より在宅酸素療法を導入.近年ADLが低下し訪問診療を受けていたが,吸入薬(pMDI)は操作困難で自己中断していた.夫と同居し,食事やトイレは自立.入浴は娘らが週2回訪問し介助.屋内は独歩,屋外はサイドカーと車いすを併用.セルフケア以外は臥床し,家事は夫が担当.今回,呼吸リハビリテーション目的に来院し,X年Y月より外来OTを開始した.

3. 初期評価

安静時SpO2(saturation of percutaneous oxygen)98%(酸素同調 1 L/分).呼吸数32回/分.%肺活量は35.0%と拘束性換気障害を呈し,胸部X線画像では右肺野に浸潤影,左肺野に拡張不全を認めた(図2a).6分間歩行試験(six-minute walk test; 6MWT)は 110 mでSpO2 91%まで低下した.上肢は両肩・肘関節に関節可動域制限,手指MP関節尺側変形,母指Z型変形があり,握力は左右 2.0 kgであった.BI-d日本語版(Japanese Version of Barthel Index dyspnea; J-BI-d)ではセルフケアで強い息切れがあった.hospital anxiety and depression scale(HADS)は不安8点,抑うつ10点であった(表1).

図2 胸部X線画像の比較,作成した自助具

a:開始時の胸部X線画像

右上肺野と右下肺野に浸潤影を認めた.

左下肺野には多数の嚢胞影を疑う所見を散見した.気管支拡張症による炎症反応の影響で拡張不全を認めた.

b:3か月時点の胸部X線画像

開始時の画像と比較すると右下肺野の浸潤影に改善を認めた.左下肺野は以前と比較して拡張不全の改善を認めた.

c:作成した自助具

市販のヘッドブラシを症例が使用しやすいように長柄に取り付けた.

表1 リハビリテーション開始時と3か月時点の各種評価結果

評価項目開始時3か月時点
呼吸機能
 肺活量(L)/%肺活量(%)0.83/35.01.04/43.9
 1秒量(L)/%1秒量(%)0.72/41.60.85/49.1
 一秒率(%)87.891.4
6分間歩行試験
 総歩行距離(m)110(座位休憩から歩行再開不可)160(2回の立位休憩を挟む)
 歩行前後脈拍数(回/分)108→15085→120
 歩行前後酸素飽和度(%)98→9198→90
 歩行前後呼吸数(回/分)32→4424→31
 歩行後修正Borg scale呼吸困難8/下肢疲労2呼吸困難4/下肢疲労0
HADS(点)18(不安8/抑うつ10)9(不安3/抑うつ6)
J-BI-d(点)5530
COPM
 洗面台で歯を磨く重要度10/遂行度1/満足度5遂行度8/満足度8
 一人で入浴する重要度9/遂行度5/満足度6遂行度9/満足度8
 店内を歩いて買い物する重要度8/遂行度1/満足度2遂行度8/満足度8
遂行スコア2.3/満足スコア4.3遂行スコア8.3/満足スコア8.0
ADLの状況食 事:準備や片付けは夫が介助食 事:食器を片付けることができた
歯磨き:ベッド上でうがい受けを使用
準備や片付けは夫が全て介助
歯磨き:うがい受けの片付けができる
時々洗面台で歯を磨く
入 浴:娘が洗体と洗髪を介助
一人で同日に洗体洗髪は困難
入 浴:ブラシを使って洗髪できる
同日に洗体洗髪は困難
買い物:店内は車いすで移動買い物:夫と店内を歩いて買い物した
その他:ピーマンの炒め物を作った
本人の語り「夫や娘達に迷惑をかけたくない」
「息苦しくて自分のこともできない」
「自分でできることを増やしたい」
「一人でできることが増えてきた」
「娘に足がしっかりしてきたって言われて嬉しい」

6MWTの酸素流量は同調式 1 L/minで実施した.

4. 目標設定

カナダ作業遂行測定(Canadian Occupation Performance Measure; COPM)を用いて対象者が問題として認識する活動を聴取した.症例は「夫や娘達に迷惑をかけないためにできることを増やしたい」と話し,その中で重要度が高い「洗面台での歯磨き」「一人で入浴」「店内を歩いて買い物する」を目標とした.

5. 経過

症例は呼吸困難や運動耐容能低下,上肢の関節可動域制限,筋力低下によりADLは制限され,家庭の役割も喪失していた.方針として,介入は週1回行い,目標の活動が可能となるようにCMCEの技能を用いた.介入で用いた技能を【 】で示す.

・吸入薬の変更

吸入薬について医師と相談してエリプタ®に変更し,手技にエラーがないことを確認した【相談/教育】.

・洗面台での歯磨き

初期は呼吸困難緩和に向けたコンディショニング【特殊化】,基本動作の呼吸と動作の同調練習から行った【適応】.また,自宅で座位での足踏み運動を伝え,介入毎に実践を確認した【実行/教育】.Y+1か月頃,「洗面台で歯を磨けた」と話し,自宅で「パンにバターを塗る」や「食器を片付ける」ようになった.さらに,外来OTを増やしたいと希望があり,週2回に変更した.

・歩いて買い物をする

買い物を想定し,歩行練習では歩行速度と休憩の調整を練習した【適応】.歩行中にSpO2が93%以下になると回復に時間を要したため,SpO2 95%程度で立位休憩を取るように練習した.Y+2か月頃,歩行距離が徐々に延長したため,以前との比較を伝えながら賞賛し【コーチ】,「コンビニなら歩けそうですね」と伝えた【結び付け】.翌週の介入では「ドラックストアで歩けた」と笑顔で話した.

・一人での入浴

Y+2か月頃,一人での入浴も挑戦したが髪は洗えていなかった.洗髪動作を確認すると頸部や体幹を前屈させても頭部へのリーチが困難だった.そのため,呼吸困難の軽減やリーチの補助を目的に長柄ヘッドブラシ(図2c)を作成し【デザイン】,自宅で使用するよう伝えた【適応】.自助具導入後は「一人で洗えた」と洗髪が可能となった.同時期には「ピーマンの炒め物の調理」にも自発的に挑戦していた.

6. 結果

Y+3か月で%肺活量は43.9%と改善し,胸部X線画像では浸潤影や拡張不全の改善を認めた(図2b).6MWTは 160 mとなり,J-BI-dでは階段・更衣以外で息切れが軽減した.HADSの不安と抑うつも改善し,発言も前向きになり,主体的な活動が増加した.COPMの遂行スコアが2.3から8.3へ,満足スコアが4.3から8.0へと有意な改善を認めた.

考察

今回,症例にとって大切な活動の認識を促して目標を設定し,CMCEの技能を用いた結果,制限されていた活動を再開し,家庭の役割を一部再獲得できた.

介入では【協働】を用いて目標に向けて協働しながら,【結び付け】【コーチ】を用いて活動の促しや賞賛を行った.Townsendらは,対象者は自分の強みや価値,達成したいことが明確になると自ら行動を始めると述べており3,目標やできる活動の認識を促したことが活動への動機づけとなったと考える.

呼吸器疾患患者は不安が強く活動に制限をかけている場合が多いと言われているが6,【デザイン】【特殊化】【適応】を用いた自助具の作成や機能訓練,呼吸困難を誘発しにくい動作指導による呼吸困難の軽減と家族の存在が安心感に繋がり,主体的な行動が増加したと考える.さらに,症例は外出に支援が必要だったが,夫の支援による外来OTの継続が運動耐容能や呼吸機能の改善に寄与し,身体活動量の増加に影響を与えたと考える.

先行研究ではCMCEを用いた支援は意味のある作業に結び付くことを可能すると報告しており7,本症例においても同様に,家庭での存在価値に繋がる買い物や調理の作業に結び付けることができた.

本症例より,地域在住の呼吸器疾患患者に対するCMCEの活用は自分らしい活動や役割を再獲得できる可能性が示唆された.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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