コーチングの基本は「人が求める答えは,その人自身の中にある」と考えることから始まる.真摯な傾聴と本質的な問いかけにより,相手が自ら考え,気づき,行動することを支援する.医療現場においては,患者さんに対して「ティーチング」ももちろん重要だが,特に慢性期疾患の場合においては「コーチング」の要素も加えていくことで,日々の診療における対話が更に充実したものとなり,患者さんの行動変容につなげやすくもなる.また,医療機関は常に多職種連携で成り立っている組織である.従って,普段から多職種間における円滑なコミュニケーションが取れるようにすることで,医療事故等をできる限り起こさないようにするためにも,コーチングというコミュニケーションスキルを経営層の医療者を含めた多くの医療スタッフが学び,普段からお互いに活用できるようにすることが,結果的にはクオリティの高い医療を提供し続けることに繋がっていく.
第9回呼吸ケア指導スキルアップセミナー 座学1
これまでの医療現場におけるコミュニケーションの多くは,ティーチングあるいはコンサルティングが主流であった.その理由として「医療のプロフェッショナルである医療職と一般市民である患者側の持っている情報の格差が歴然としてある」ということがあった.
しかしながら,特に慢性疾患においては,ティーチングの姿勢ばかりで接してしまうと,患者側との認識のギャップが生じてくる場合がある.近年,患者側の医療に対する価値観は多様化しており,患者中心の医療や共同意思決定支援(Shared decision making)などについても大きく注目を浴びるようになっている.このため,医療提供者側で一定の価値観を押し付けるのではなく,患者の望む医療を理解した上で,コーチング手法等を活用しながら,より良い望ましい状態にもっていくかを考えていく時代となってきている.
コーチングは「人が必要とする答えは,その人自身の中にある」1)という考え方を基本理念とする.人は無限の可能性を持ち,自分自身の力で答えに辿りつけるようになることを信じ,相手の問題点よりも強みに着目し,今できていなくても「本来はできる可能性のある人」と捉えて関わることになる.この考え方に基づいて,相手と支援的かつ対等な関係性を築き,また自分自身に対しても常に「今できることは何か」と問いかけることが「コーチング」の基本的な姿勢となっている.
このコーチング手法を医療の中においても上手に活用すれば,相手の話を聴いて(傾聴),納得のいく話ができる関係性を築き,相手との信頼関係(ラポール)を形成していくため,医療コーチングは実臨床において非常に役立つと考えられる.
コーチングによる対話の構成は大きく「傾聴」と「質問」と「フィードバック」という大きく3要素から成り立っている.これら3要素を順に活用しながら,クライアントの潜在的な考えや感情を引き出していく(図1).コーチ役に求められているのは,そのサポートであり,各要素におけるポイントについて,紹介していくこととする.

単に「話を聞く」というと,簡単なことのようにも思われるが,意識的にこれを行うことは案外難しい.なぜなら,人は,自分のことを聞いてくれないと,相手の言うことも受け容れられないことも多い.このため,まずは「聴くこと」の意味をしっかりと理解し,実践していくことが,基本的な信頼関係と親密度を構築するために非常に重要である.また通常,我々は,人の話を聞きながら相手の言うことを先読みして「その考えには賛成・反対だ」と判断したり,「しかし,こんな考え方もあるのではないか」などと思考を巡らせたりする.つまり,人の話を聞きながらも,つい自分自身と対話してしまいがちである.一方でコーチングにおいては,ニュートラルな状態で「聴くことに集中」し,日常的に気楽に「相手の話を聞く」のとは,かなり異なる態度が求められる.
さらに,「傾聴する」ために大切なポイントの一つとして,「ペーシング(pacing)」がある.
これは言葉の通り,相手が話しやすいように「相手のペースに合わせながら話を聴くこと」である.その手法として,「非言語的なペーシング」と「言語的なペーシング」などが知られている.「非言語的なペーシング」は端的に言えば,うなずきや聴くときの姿勢,呼吸のリズムなどを相手に合わせるということである.これによってクライアントはリラックスして,話がしやすくなる.他方の「言語的なペーシング」の代表例としては,相づちである.「そうなんですね」「こういうことなんですね」とうなずきながら相づちを打ってもらえることで,「自分の話を受け止めてもらっている」という印象を抱けるようになる.
また,コーチとしてクライアントの話を聴く中で「それは違う」などと思う場面があったとしても,相手に対する評価や自分の意見は一旦置いておくことを心掛ける.コーチングを行っている時間は「クライアントのための時間」であるので,あくまで相手の言葉を引き出すことに意識を向け,フラットな心で耳を傾けることが肝要である.
② 「質問する」 1) オープンクエスチョンコーチングで「質問する」と言えば,まずは「クローズドクエスチョン」と「オープンクエスチョン(オープン型質問)」が挙げられる.
クローズドクエスチョンは,まさに「はい/いいえ」でシンプルに答えられる質問で,「お昼ご飯はもう食べましたか?」といった内容のものがこれに当たる.思考投入をあまり必要とせず,単に事実を伝えればよい分,クライアントも即座に答えられるため,会話が活発化しやすいという効果が期待できる.これに対し「オープンクエスチョン」は,「はい/いいえ」では答えられない形式の質問で,「禁煙についてどう思うか?」「朝食には何を食べると良いと思うか?」といった質問がこれに当たる.クローズドクエスチョンに比べると,答えるためにしっかりと考えることが必要となり,回答内容にはクライアント自身の個性が出やすく,クライアントの考えを引き出すには必要不可欠な質問となる.
2) 未来型,肯定型の質問を心掛けるこの他にも,質問内容が「過去or未来に関する」ものか,または「否定的or肯定的な質問」なのかによって,回答する側の受ける印象は大きく変わってくる.
過去に関するものは「すでに事実としてある」ため,基本的には答えやすい.しかしながら,過去型かつ否定型の質問をされた場合,否定語句が含まれているため,「責められている」という感情が生じやすい.
このため,例えば「なぜ,先月は食べすぎてしまったのか?」ではなく,焦点を未来に向けた質問を行うことが有効である.確かに,未来に関する事柄は不確実性も高いし,自分自身の希望や意思も包含している可能性もある.しかしながら,「今日から,どのように食事療法をしようと思うか?」といった否定語句を含まない質問であれば,患者さんのやる気が生じやすくなる.
さらにオープンクエスチョンには「拡大質問」と「限定質問」というものもある.
「拡大質問」というのは,クライアントの思考が狭まっているときに,発想やアイデアを広げるために扱うもので,「もし,何の制限もなかったらどんなことがしたいか?」という内容のものである.もちろん,普段はそんなことを考えていないクライアントであれば,ここで思考の空白が生まれ,回答に時間がかかってしまうことがある.その際も焦らず相手のペースに合わせて,本人の内省をサポートしていくことが重要である.また,なかなか言葉にならないようであれば,「今,ふと思いついたことを,考えずにどんどん言ってみてください」と,答えやすくサポートする方法なども効果的である.
他方の「限定質問」とは,相手の話した内容に対して,「それはつまりどういうことか」と具体化を迫る質問である.抽象的であった価値観や意見を,より明確にする過程において,本人自身に思わぬ気づきがあったりするため,相手の内省を促すのに有効な質問だと言える.
以上のように,質問の投げ方によって,クライアントの話の方向性が大きく左右されることがある.普段さまざまな条件の下で身動きがとりづらくなっているクライアントとしても,「自分は本質的には何がやりたいのか」と改めて考えることができる.加えて,自分に対して問いを繰り返していく中で,本来やりたかったことや,好きなことに気づくこともある.単に「普段考えていることを聞く」だけではなく,クライアント自身が,自分の深層心理を探りに入って,普段の本人としては思いもよらなかったような答えを自ら導き出していく.そんな効果が「質問」にはある.このように,時には通常の枠を外した「理想」の状態をイメージしてもらうことによって,新たな自分を発見し,その理想に近づけるためには,どの様な選択肢があるのかを,コーチとともに未来に向かって具体的に考えていくことができるのである.
③ クライアントを一人の人間として尊重し「承認」するその人が今まで何十年と生きてきた人生においては,もちろん様々なことがあり,その経験が現在の本人を作っているのだと,一個人として尊重すること.すなわち,「クライアントの存在そのものを承認すること」がまずは大前提となる.
そして,過去を否定する質問ではなく,オープン型で未来型・肯定型な質問を行うことを心掛けることで,患者達は自分で考え,自発的に行動し始める.そして,例えば「今回は体重が-1 kg減りましたね」といったような「承認」を,毎回必ず医療者が行うことで,患者達は「自分のことをきちんと診てくれている」という思いが高まり,そこからさらに行動変容が起こりやすくなっていく.
禁煙や服薬アドヒアランスについても,行動変容があってこそ,様々な前向きなアクションを起こすことになっていくので,単に「誉める」だけではなく,相手の「強み」「長所」「努力したプロセス」などを日頃から言葉にして伝え続けていく.つまり,結果そのものだけではなく,行動に焦点をあてて承認することも重要なポイントである.
人が最も辛いのは,「自分の存在を認められていない」ときであり,たとえば,無視することがパワハラに相当するのはこのためである.
一方で,日頃から肯定的に自分の存在や価値を認められていれば,そのことは自己実現のための大きなモチベーションとなり得る.具体的には,褒めることももちろんではあるが,励ます,勇気づける,任せる,微笑む,挨拶する,名前を呼ぶ,目を見る,うなずくといった,ほめる以外の行為で示すことも承認することとなる.こう書くと当たり前のように思えるが,普段の生活や業務において,どれほど実践できているだろうか.医療者みんなが,患者さんのことを一個人として日頃から尊重し,様々なことを承認すること.これが何よりも大切なのである.
④ 「伝えること」しっかり聴き,自分のために質問してくれた相手に対しては,話し手も「あなたの言うことなら,耳を傾けましょう」という気持ちになる.
また,「つまり,あなたが言いたいのはこういうことなのですね」と無意識に話した内容を,コーチが要約して伝えてくれたりすると,「この人は本当に話を聴いてくれている」と強い安心感を覚えるし,改めて自分の言葉を客観的に聴き直すことになるため,自分自身の潜在的な考えをまとめていくことにもつながる.そういったコミュニケーションの積み重ねが「心理的安全性」や「信頼感」を醸成していくことになる.
加えて,相手に「伝える」時にも,重要なポイントがいくつかある.例えば,相手に許可を求める枕詞を使うと,その後のメッセージの通りが非常によくなる.すなわち,「私から提案があるのですが,聞いてもらえますか?」「これから重要なことを説明しようと思います.よろしいですか?」といった枕詞がクッションとなり,会話の内容のショック具合も和らげることができる.
その他,相手にメッセージを伝える時に,「私は,あなたの取り組みを素晴らしいと思っている.」といった,「Iメッセージ」と呼ばれる「私」が主語となる話し方をすることはとても重要である.これにより,相手の行動や態度によって,自分にどのような影響を与えたか,自分がどんな気持ちになったかを率直に伝えることができる.つまり,主語が自分であるメッセージは,評価や断定という側面を持たないため,相手の心にそのまま届いてくれる誤解を招きにくい表現になるのである.
一方で,「あなたは~ですね」という「YOUメッセージ」であると,断定や評価をされていると感じられてしまう危険性あり,100%の真意が伝わりにくいこともあるので,注意が必要となる.
もちろん,コーチングの最後に「提案」や「要望」を伝えることもある.ただし,これらはあくまで「提案」や「要望」であるので,その意見をクライアントが取り入れるか否かは,クライアント自身の意思に委ねられることになることを,念頭に置いておく必要がある.そして,さらに重要なポイントとして,できる限り実際に確実に実行してもらうためには,1つ,多くても2つ程度に絞ってから「提案」や「要望」を行うことが大切である.
⑤ 「フィードバックする」コーチが質問を投げかけ,クライアントが話した内容に,さらにコーチが反応する場合に,大前提として,「クライアントの話を聴いた上で,感じたことを感じたまま伝える」ことと,「事実と感情を分けて伝える」ことが大変重要なポイントとなる.
例えば,クライアントが発した言葉について,その内容を要約したり,オウム返しにしたりして受け止めた上で,「あなたはこう言いました(事実).それに対して私はこう感じました(感情)」と,あくまでもそれがコーチ自身の考え・感情であることがわかるような形で伝えていく.
「私はこう思う」というように,主語が自分であることを明確にして,感じた内容を伝えるものを「I(アイ)メッセージ」と言い,「Iメッセージ」を通じて,自分の発言へのリアクションを見たクライアントは,また新たな気づきを得て,思考をさらに深めていくことになる.
否定や評価をせず,相手の話を引き出していくと,クライアント自身が色々なことに気づくことになる.そして,「自分で気づいたこと」は,クライアント自身を突き動かす原動力となっていく.「その他の視点もあるのではないか」と,クライアントが新鮮な気持ちで内省できるような質問を意識的に投げかけていき,対話を通じて「クライアントの内面に起きている状態の変化」にもよく注意を払っていく.それらを繰り返すことによって,クライアント自身が今まで思いもよらなかったような思考へと自らを導いていくことになる.
以上,コーチングによる対話の要諦をまとめると,大まかなステップとして「聴く」「質問する」「伝える・フィードバックする」という流れとなる.その過程においては,一個人として相手を承認し,信頼関係を構築していけるように,常に心がけることが求められる.そして次に,これらの一連のステップの中で,クライアント自身の内省を促しながら,ゴールに向かって支援していくことが重要なポイントである.
「GROWモデル」という考え方は,Goal(目標の明確化),Reality(現状の把握),Resource(資源の発見),Options(選択肢の創造),Will(目標達成の意思)の5ワードの頭文字をとって名付けられたもので,この5つの要素をおさえた働きかけを行うことで,クライアントに対して「望ましい状態に向かって何をしていくとよいか」を考えてもらうことができる2)(図2).

前述のとおり,コーチングは「クライアントを,本人の望ましい状態に導いていくもの」である.そうは言っても,クライアント自身が「自身の望ましい状態」を自覚できていないというシチュエーションが往々にして存在する.このため,まずはこの「Goal」を明確に設定していくことが最も大切なポイントとなる.
② Reality(現実把握)Realityというのは,「現状の自分がどうなのか」という現実に対する評価である.言うなれば,理想のGoalに対して,現在の自分がどの程度の到達ポイントにいるのかを認識してもらうこととなる.
③ Resource(資源発見)自分の現状(Reality)を認識し,Goalに向かうための必要条件を把握することで,クライアントはその「ギャップ」を埋めるための方法を考えられる状態になっていく.そこで意識すべきなのが「Resource」である.つまり,望ましい姿に自分を近づけるために「使える資源(Resource)」に視点を向ける.ヒト・モノ・カネや情報から,さらには過去の経験や時間など,あらゆるものが資源となり得る.自分自身が使用できる資源とは何か.それをしっかり考えていくことで,クライアントはGoalに近づくための方法を具体的に考えられるようになっていく.
④ Options(選択肢)Resourceをしっかりと精査し,自分の周囲にある資源を見渡し,環境を客観的に把握できたら,次に取るべき選択肢(Options)を検討していく.Goalに向かっていくために,どんな方法を組み合わせていくのが効果的なのかを考えていく.
クライアントが自身の優先順位に則って,どのような選択を取るべきかを判断できるように支援することが,この段階では重要となる.
⑤ Will(意思)自分が取るべき選択肢が定まり,Goalまでの道筋が整ったとしても,強い意志(will)を持ってそれを実行しなければ,描いたプランは絵に描いた餅になってしまう.Goalに到達したい気持ちが十分なのかどうかを改めて問いかけて,そこでやる気が充実していることが確認できれば,クライアント自身の推進力は大きく強まっていく.そういった視点で,クライアントが確実にGoalにたどり着けるよう,根気強く向き合うことが非常に重要である.
GROWモデルに則ってコーチングを進める過程においても,クローズドクエスチョンとオープンクエスチョン,あるいは「過去に関する質問」と「未来に関する質問」等,様々なコーチングスキルを上手に組み合わせながら,活発な対話を重ねていくことが重要となってくる.
コーチングの一連のステップを日常業務中で発揮していくために,1 on 1と呼ばれる手法を取り入れていくのも効果的である.1 on 1 とは文字通り,1対1の形式で行われる個人面談のことである.
1 on 1 は日常的に行われることが多く,実際には月1~2回の頻度で,15~30分程度の時間をかけて行っていることが多い.普段から良好な関係にあれば,基本的にコミュニケーションの頻度は多いほど信頼関係は緊密になっていき,徐々に胸襟を開いて本音を話せるようになっていく.
一般的な面談では,上司から部下に評価を伝えたり,訓示や激励を送ったりすることが多く,「上司のメッセージを伝えるためのもの」になりがちである.一方,1 on 1 においては,あくまで「部下のための時間」となることをあらかじめ肝に銘じておく.
つまり,部下の考えを引き出したりするために使われるという点で両者は大きく異なる.これは,通常の診療・外来においても同じことが言え,一方的に医師が話すのではなく,「患者のための時間」ととらえ,患者の考えを引き出すことに注力することで,禁煙や食事・運動療法が成功していくことに繋がっていくと考えられる.
コーチングは近年,医療機関内における組織や風土の改革を目的として導入される事例も増えてきている.その成功事例をヒアリングしていると,コーチングの活用手法に共通点があることが分かってきた3).
医療スタッフ全員にコーチングスキルを広めていこうと考えた時に,もし,その病院では今までに全くコーチングの土壌がなかった場合,その作業はかなりの大掛かりになることが予想される.
このため多くの病院では,まず初年度については,病院長や副院長・看護部長等の経営層数名(最大5~6名程度)がコーチングのトレーニングを受ける.そして,次年度にはそのコーチングのトレーニングを受けた経営幹部達が,各々に自分の直属の部下(管理職レベル)数名(最大5~6名程度)にコーチングを行う.その次の年は,前年コーチングを受けたこの管理職達が,彼らの部下にコーチングのトレーニングを行っていく.このように経年的に「屋根瓦方式」で院内スタッフ内でのコーチングを徐々に広めていっていることが多いことが分かった.それでももし5年間,この「屋根瓦方式」が継続されれば,その時点ではすでに相当数の医療スタッフが,コーチングのトレーニングを受けていることになる.
病院内の経営層から中間管理職までの多くの医療スタッフがコーチングスキルを習得することができると,現実として,多職種連携のコミュニケーションが円滑になり,それにより組織内の雰囲気がよくなり,「お蔭で,病院内のインシデント数が減り,このコロナ禍でも離職者数も少ないのですよ」と仰る病院長の先生方が多くおられるのが非常に印象的である.
「自分はコミュニケーションについては,昔から得意とするところで,あまり苦労を感じたことは無い」といった,いわゆるコミュニケーションにおけるカリスマドクター(医療者)もおられるかもしれない.しかしながら,こういったコミュニケーション能力の高い医療者が,あえてコーチングを学ぶことのメリットも大きい,その理由としては,これらのカリスマドクター達が,自らコーチングを学ぶことによって,理論的に自分のコミュニケーション手法を解説できるようになるからである.
「今の患者さんとのコミュニケーションは,なぜ上手くいったのか」,「どうして,これまでずっと手術を拒絶していた患者さんが,手術承諾を納得したのか」など,コミュニケーションの中に含まれている詳細な手法・テクニックを具体的に解説できることで,どんな医師でもある程度そのカリスマドクターに近いレベルで,多様な人達と上手にコミュニケーションを取れるようになる.
また,世代間の考え方が異なるがゆえに,コミュニケーションの掛け違いが起こる.そんなシーンをまざまざと感じることが多い昨今,「この人には,何を話しても大丈夫だ」とクライアントが思えるような,いわゆる「心理的安全性の高い」関係性を作っておくことが大切であると言える.クライアントとコーチが自由に対話を繰り返す過程で,クライアントの中にある答えを引き出すのがコーチングであるため,クライアント側が話せる状況に制限をかけて,コミュニケーションをスムーズに取れなくなるような状態にしないことが重要なポイントとなる.
このように,「コーチング」は部下をやる気にさせるためのコミュニケーション・ツールとして発展してきたため,「医師の働き方改革」にも非常に親和性があるのである.以上を踏まえ,改めてコーチングについてまとめると,コーチングとは「未来志向」であり,インタラクティブな対話などを通じて,クライアントが持っている「答え」を引き出すことが求められる.
CTやエコーといった「目に見える医療機器」と同様に,医師や医療スタッフにとって,このコミュニケーションスキルは「目には見えない」けれども,「有益な医療機器」と言えるのではないだろうか.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.