2026 年 35 巻 2 号 p. 108-112
本稿は第9回呼吸ケア指導スキルアップセミナーの内容を一部抜粋してまとめた.2022年6月に日本呼吸器学会から慢性閉塞性肺疾患(COPD)診断と治療のためのガイドライン第6版が発刊された.ガイドラインの中で管理目標に「健康寿命の延長」が組み込まれた.COPDの早期発見・早期治療が「健康寿命の延長」に寄与すると期待されるが,まだエビデンスは無い.疫学研究と厚生労働省調査では推定COPD人口に対して診断・治療がなされているのはわずか5%で,一般の疾患認知度は30%に留まる.今後も早期診断への取り組みは継続的に強化されるべきである.診断された患者に対する適正な管理法はガイドライン第6版の遵守を推奨する.本ガイドラインでは初めて初期治療導入に関してシステマティックレビューによる高いエビデンスレベルに基づいた客観的評価と有識者の推奨度が追記されている.本ガイドラインがCOPD患者に対する福音になることを期待する.
第9回呼吸ケア指導スキルアップセミナー 座学2
COPDの認知度は一般社団法人 Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)日本委員会によるとインターネットを利用した一般市民を対象とした場合1),調査が始まった2009年の17.7%に比較して緩やかではあるが上昇傾向にある.2022年には初めて30%を超えたものの健康日本21が掲げていた認知度80%には遠く及ばない結果となった2).認知度が低いことで臨床上どのような弊害があるかについて知る必要がある.1993年の海外での全身麻酔管理を要した腹部手術の周術期肺合併症の検討によると,肺機能正常者に比較して軽症・中等症と重症・最重症COPD患者では,それぞれ術後肺炎が2倍と5倍,再挿管が3倍と6倍,死亡が1倍と10倍ほどにリスクが増加すると報告されている3).2013年久留米大学病院における全身麻酔管理下開胸あるいは開腹術を要した未破裂胸部および腹部大動脈瘤の検討では4),患者の53.2%がCOPD未診断で,非COPD患者とCOPD患者の比較において,開胸術で周術期の肺炎は0%と20%,無気肺は10%と40%,開腹術で肺炎は0%と10%,無気肺は0%と15%であった.Kroenkeらの報告3)と久留米大学病院との報告4)には20年の時代背景の差があり,医療の進歩が結果の違いに表れた可能性はあるが,COPDが認知されていないと周術期の肺合併症は増加する危険性を確認できる.症例提示では,久留米大学病院とかかりつけ医との共診を行っている最重症COPD例で,増悪時にかかりつけ医の100%酸素を流量 10 L/分のマスク管理下で久留米大学病院への緊急搬送の指示による動脈血ガス分析で高炭酸ガス(CO2)分圧(132 Torr)(CO2ナルコーシス)発症例を解説した.本セミナーではCOPD増悪時の高濃度および高流量酸素投与は禁忌であることの周知が徹底されていない現状を説明した.上記のことから一般市民のみならず非専門の医療従事者に対してもCOPDの認知度を向上させる必要がある.COPDの認知度は未だ低く,COPD患者の早期発見・早期治療には多くの課題があると考える.ただし2023年度から開始される健康日本21第3次におけるCOPDに対する新たな取り組みに大いに期待が持たれる5).
日本呼吸器学会から発刊された「COPD診断と治療のためのガイドライン第6版」6)の内容を解説しつつ,COPD診療における現状と課題を解説する.またCOPDに対する早期診断・早期治療の必要性を述べる.
日本呼吸器学会の「COPD診断と治療のためのガイドライン第6版」によると,COPDは「タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することなどにより生ずる肺疾患であり,呼吸機能検査で気流閉塞を示す.気流閉塞は末梢気道病変と気腫性病変がさまざまな割合で複合的に関与し起こる.臨床的には徐々に進行する労作時の呼吸困難や慢性の咳・痰を示すが,これらの症状に乏しいこともある」と定義される6).気流閉塞は呼気時間延長を来すことで吸気量に対する呼気量の相対的低下をもたらす.そのため肺内ではair-trappingを生じ,肺の過膨張を来す.肺の過膨張は横隔膜の緊張させることで呼吸運動を障害する.呼吸運動の障害は生活の質(QOL)や日常生活動作(ADL)を低下させる.患者は労作に伴う呼吸困難を避けるように身体活動性を低く保つようになる.身体活動性の低下は抑うつ状態の発症や増悪の悪化に関与するばかりでなく,肺機能の低下を来すようになる.いわゆる負のスパイラルである.骨格筋障害としてのサルコペニアや心身衰弱としてのフレイルをしばしば合併する6).
呼吸困難は安静時と労作時呼吸困難がある.おそらく後者は息切れと表現される.米国胸部疾患学会では呼吸困難を3つに分類している7).すなわち①空気飢餓感(air hunger),②努力性呼吸(effort breath),③胸部不快感や胸痛(chest discomfortやchest pain)である.①は患者が吸気時に呼吸困難を感じると訴え,空気を“吸っても・吸っても”息苦しさが改善しないと表現される.これは低酸素血症と過換気に分類される.低酸素血症があれば,肺胞低換気,拡散障害,換気血流不均等,シャントを考慮する.低酸素血症が無く,むしろ動脈血ガス分析で酸素分圧が正常より高く,CO2 分圧が低下しているとなれば過換気症候群で肺疾患は否定的であろう.②は息をするにも一苦労のような(呼吸運動量増加)状態で,健常人でも走ったり,階段を上ったりすると感じる呼吸筋を過度に用いたときの呼吸困難に酷似する.COPDでは吸気時に比較して呼気時に呼吸筋を過度に稼働させるときに感じる呼吸困難である.喘息発作時も同様である.③胸痛と言えば心臓や冠動脈疾患を連想させるが,喘息発作時の胸部不快感や胸痛は肺の過膨張に伴うとされている.つまりCOPDの呼吸困難は安静時の呼吸筋の過度な運動と労作時に伴う呼吸筋負荷と動的過膨張が依存するとされ,低酸素血症に依存しないと考えられている.
さてCOPDの診断をどのように進めるか.前述したようにCOPDの認知度が低いうえ,患者は自身の症状を訴えないことが推測される2,6).さらにスパイロメトリーは患者努力を要するため人気が高い検査とは言い難い.やはりCOPDの診断には医療従事者側がいかにCOPDを“疑う”かが肝要であろう.日本のCOPD患者は,おおむね喫煙関連が原因で,ほぼ男性で,高齢かつ痩せ型の体型であると推察される.他の疾患で医療機関を受診した際も上記の特徴でCOPDを“疑う”ように心がける.疑えばスパイロメトリーで確認することが望ましい.もちろん慢性的な咳嗽や喀痰,あるいは労作時呼吸困難や喘鳴でCOPDを“疑う”もありで,COPD-PSなどの診断ツールを用いて“疑う”もありである6,8).“疑う”ことでCOPD患者の早期診断に期待する.
安定期COPDの重症度に応じた管理安定期管理は薬物療法と非薬物療法を組み合わせる(図1)6).管理介入にあたってはガイドライン第6版のシステマティックレビューの結果に基づく重症度に応じた治療を選択する6).

・COPD患者は症状を過小評価しがちで,しばしば増悪を報告しないこともあるので詳細な聴取が重要である.質問票を用いて具体的に評価する.
・臨床像の評価は,初期治療導入時のみならず,病状の変化や治療の変更に合わせて,繰り返し重症度を評価することで,個別化最適医療の実現を目指すべきである.
・鑑別疾患を含めて肺合併症や全身併存症の予防・管理には,他科や多職種との連携は不可欠である.特に喘息(あるいは喘息病態)の合併は,薬物療法の選択のうえで重要である.
・喘息病態非合併患者で,ICSを追加した際の効果判定は重要である.安易なICSの追加を避ける.無効あるいは副作用発症患者は中止を検討する.末梢血好酸球増多の目安として300/μL以上が用いられることが多い.喘息病態合併患者では,喘息病態が軽症の段階からLABDsにICSを追加・継続する.LAMAが使用できない場合はLABA/ICS 配合薬を使用する.
・LAMA,LABAやICSの長期管理薬使用中の増悪時にはSABA(あるいはSAMA )を頓用する.また,長期管理薬を2 剤以上使用しても増悪が頻回であればマクロライド系抗菌薬を追加する.ただし,本邦でマクロライド系抗菌薬はCOPDに保険適用はなく,クラリスロマイシンが好中球性炎症性気道疾患に保険収載されている.
・非薬物療法の禁煙,ワクチン,身体活動性の向上や維持は,疾患進行予防の観点からできるかぎり早期からの導入を検討すべきである.軽症COPDに対する早期呼吸リハビリテーション導入意義のエビデンスは乏しい.
(文献6より引用)
前者の薬物療法では,まず症状が間欠的か持続的かを確認する.症状が間欠的な場合は短時間作用性β2刺激薬(SABA)や抗コリン薬(SAMA)の頓用を用いられるが,多くの場合症状は持続的である.したがって症状が持続的な場合には喘息非合併か喘息合併例かを見極める必要がある.喘息の合併を疑う所見は喘息とCOPDのオーバーラップの診断と治療の手引きの診断手順を参考にすると良い(表1)9).症状が持続的であれば喘息非合併例の初回薬物導入にはLAMA単独療法を選択する(プラセボに比較してエビデンスの確実性はAで強く推奨する).またLABAとLAMA単独療法との比較ではLAMA単独療法を優先する(エビデンスの確実性はBで弱く推奨する).軽度の気流閉塞例を対象にLAMAは1秒量の経年低下を抑制している.LAMAの早期治療介入の意義を示している.LABA単独療法はLAMA単独療法が無効あるいは狭隅角緑内障や排尿障害を伴う前立腺肥大でLAMAが使用できないとき選択される.LAMAまたはLABA単独療法でコントロール不良あるいは効果不十分と判断した場合にはLAMA/LABA併用療法に変更する(エビデンスの確実性はAで弱く推奨する).しばしば長時間作用性気管支拡張薬管理中に短時間作用性気管支拡張薬を併用(アシストユース)することがあるが,システマティックレビューではSAMA(日本では一般的にSABAを代替え薬として使用することになる)の併用は弱い推奨であった(エビデンスの確実性はAで弱く推奨する).LAMA/LABA併用療法中に増悪頻回(過去1年間の中等度増悪2回あるいは重度増悪1回以上)と判断された場合にLAMA/LABAにICSを追加しトリプル療法に変更する(エビデンスの確実性はAで弱く推奨する).とくに末梢血好酸球数が300/μL以上のときICSの追加効果が望めるとされる.ただしICSを追加することで副作用を認める,あるいは病勢悪化を来す場合はICSを中断する.日本人は海外の患者に比較して,年齢が高く,body mass indexが低く,肺気腫型が多く,もともとも肺炎発症のリスクが高いと考えられている10).LAMA/LABA併用療法を対象としたトリプル療法の肺炎リスク(オッズ比[95%信頼区間])における日本人とグローバル集団との比較では日本人が 3.38[1.58 to 7.22](P=0.002)11)で,グローバル集団が 1.52[1.16 to 2.00](P=0.003)であったとされる12).したがってICS追加で肺炎を繰り返すときもICSの中止を検討する.喘息合併例ではICS/LABA併用療法から治療導入し,増悪頻回例ではLAMAを追加してトリプル療法にする.喘息合併例では肺炎を来たしてもICSを中止できない事も多く,用量やステロイドの種類の変更を考慮する.
| 1,2,3の2項目あるいは1,2,3のいずれか1項目と4の2項目以上 | |
|---|---|
| 1 | 変動性(日内,日々,季節)あるいは発作性の呼吸器症状(咳,痰, 呼吸困難) |
| 2 | 40歳以前の喘息の既往 |
| 3 | 呼気ガス一酸化窒素濃度>35 ppb |
| 4-1) | 通年性アレルギー性鼻炎の合併 |
| -2) | 気道可逆性(1秒量≧12%かつ≧200 mLの変化) |
| -3) | 末梢血好酸球数>5%あるいは>300/μL |
| -4) | IgE 高値(総 IgE あるいは吸入抗原) |
(文献9より引用)
後者の非薬物療法(図1)6)では,喫煙者では禁煙を促す(エビデンスの確実性はDで強く推奨する).肺炎球菌ワクチン(エビデンスの確実性はD)や包括的呼吸リハビリテーション(エビデンスの確実性はA)は強く推奨される.栄養療法は重要であるが弱く推奨されるにとどまっている(エビデンスの確実性はD).低酸素血症を伴う安定期COPDに対して,酸素療法を行うことを弱く推奨し(エビデンスの確実性はC),高二酸化炭素血症を伴う安定期COPD患者に対して,非侵襲的陽圧換気(NPPV)実施を弱く推奨する(エビデンスの確実性はB).非薬物療法は薬物療法と異なり,無作為化プラセボコントロール研究の実施しにくいことが多く,システマティックレビューをまとめるにあたり該当研究やサンプルサイズが少ないことが予想される.そのためエビデンスの確実性に影響を及ぼすことがあり,システマティックレビューの結果の解釈に注意を要する.
日本は超高齢社会で平均寿命は延びたが,その一方で健康寿命は平均寿命を10年ほど下回るとされる.日本のCOPD人口も超高齢化の進展に伴いに増加が推察される.日本人の喫煙者は40歳代に約3%がCOPDを発症していると推察され13),COPDの死亡者平均年齢が79歳とすると40年近くも健康寿命が損なわれる患者が存在する可能性がある14).本稿を終えるにあたり,COPDが早期発見・早期介入され,ガイドラインの管理法6)の遵守率が向上することでCOPD患者の健康寿命が延長できると信じている.
本講演の機会を与えていただきました第9回呼吸ケア指導スキルアップセミナー実行委員長ならびに第32回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会会長の桂 秀樹先生と【座学2】COPD updateの座長を務めていただきました大平徹郎先生に感謝申し上げます.
川山智隆;講演料(アストラゼネカ株式会社,グラクソスミスクライン株式会社,日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社,サノフィ株式会社,ノバルティスファーマ株式会社),研究費・ 助成金(株式会社ヘリオス)