日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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スキルアップセミナー
COPDの在宅呼吸ケアのポイント
坂井 邦彦
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2026 年 35 巻 2 号 p. 113-115

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要旨

COPDの在宅呼吸ケアの目的は入院生活を減らし,患者と家族のQOL向上を目指すことである.社会の高齢化や家族構成の変化,医療提供体制の変化などのため,今後ますます必要性が高まっていくと推測される.在宅では患者自身の判断が重要であり,実地でのより具体的な指導を行なっていく.息切れを減らす日常生活動作では動作指導の他,道具や高さの工夫を提案する.パニックコントロールではポジショニングの他,同居者の声かけを指導することも有効である.増悪に早めに気づくには療養日誌の利用を促し,増悪後に訪問看護師との振り返りを行い,連絡するポイントを明確化していくことが重要である.在宅では患者の希望と支える側のバランスを考え,在宅で新たに生ずる想定外の問題にチームで試行錯誤していく柔軟性が大切である.

第9回呼吸ケア指導スキルアップセミナー 座学2

在宅医療の現状について

訪問看護・訪問リハビリの利用者数はここ10年で約2倍と増加傾向にあり,事業者数,従事者数,事業規模も増加・拡大傾向にある.訪問看護の利用者の疾患割合は介護保険では心不全,整形外科疾患,医療保険では脳血管疾患,精神疾患が多く,訪問リハビリの利用者は脳卒中や骨折が多い1,2.なお,呼吸器系疾患の割合は約5%である.

在宅医療が拡大傾向にある背景として社会の高齢化と家族構成の変化が挙げられる.高齢者は身体・認知能力低下のため,セルフマネジメントしながら,自立した生活を送ることは難しく,精神的にも不安を抱え易い傾向にある.また,独居,日中独居,老々世帯が増え,家族の協力を得るのが難しいケースが増えてきている.一方,医療提供体制をみると,病院の入院期間の短縮化で入院中に患者教育や環境調整に十分な時間が割けなくなってきている.このような現状から在宅医療の果たす役割は大きく,今後ますます必要性が高まっていくと推測される.

COPDの在宅呼吸ケアの目的

COPDの在宅呼吸ケアは,患者の意思や希望を尊重しながら,できるだけ入院生活の必要性を減らし,療養環境を整備して日常生活の自立を支援し,患者と家族のQOL向上を目指す医療である3.在宅では入院と異なり,医療者が常にいないので,患者自身の判断が重要である.そこで,退院時に申し送られた患者の問題点への指導を継続しつつ,実際に在宅の現場でより具体的な指導を行なっていく.

息切れを軽くする日常生活動作の工夫

在宅呼吸ケア白書によると,COPD患者が最も日常生活に望むことは「息切れを気にしないで生活したい」であり,療養生活についてもっと教えてほしいことは「息切れを軽くする日常生活動作の工夫」であった4

息切れが増強する動作には5つあり,以下に呼吸困難となる理由と具体例を添えて説明する.

1.運動負荷が強い(酸素需要の増大,例:階段昇降,重い物をもつ)

2.腕を上げる(呼吸補助筋の制限,例:洗濯物を高い所に干す,腕・肘を上げて服を着る・髪を洗う)

3.反復動作(動作が速くなり,呼吸リズムが乱れる,例:身体を洗う,窓やテーブルを拭く,掃除機をかける)

4.前かがみになる(横隔膜の動きが制限される,例:前かがみでズボンや靴下を履く,雑巾がけをする)

5.息こらえ(呼吸が止まり,リズムが乱れる,例:食事,洗顔,排便)5

そして,これらが複合すると呼吸困難がさらに強くなる.

日常生活動作の工夫には動作の工夫と道具や高さの工夫がある.前者は口すぼめ呼吸や動作前に大きく息を吸う,息を吐きながら動作を行う,動作前にゆっくりと休憩をとるなどがあり,ある程度の指導経験を必要とする.一方,後者の道具や高さの工夫は知識があれば,すぐに指導でき,在宅でこれらをアドバイスできると信頼関係の構築につながるので,大事なポイントとなる.実地での指導が効果的であり,具体的に歯磨きや洗顔,入浴,食事の場面で説明していく.

歯磨きや洗顔:椅子に座り,肘をついて腕を固定する.息こらえを避けるため,濡れたタオルを利用する.反復動作を避けるため,電動歯ブラシを提案する.上肢の過剰な動きを抑えるため,届きやすいところに物を置くように指導する.

入浴:着替えや洗体の際は,前かがみを避けるように適度な高さの椅子やシャワーチェアーを用意する.上肢の動きや反復動作を抑えるために長めのタオルや大きめのバスタオルを使用するようにする.洗髪で息こらえしないようにシャンプーハットの利用を提案する.

食事:椅子に座り,肘をついて食べる.椅子の高さは前かがみにならず,両足が床につく程度が良い.食事動作では食前に休息をとり,口すぼめ呼吸を行い,食事中の会話を減らし,ゆっくり食べるように指導する.場合によっては食前に気管支拡張薬を使用する.食事内容は本人の好みや状態に配慮しながら,より有効な提案をする.1回にたくさん食べられなければ,1回量を減らし,補助栄養食などを利用して,食事回数を増やす.炭酸飲料やサツマイモ,豆類などのガス発生食品は控える.脂質の利用は少量高カロリーであり,呼吸商が小さくCO2発生を抑えられるので推奨される.咀嚼に時間がかかり,呼吸苦が生じるようなら,咀嚼が簡単な軟らかいものを提案する.

パニックコントロール

在宅でパニック発作になると,本人も家族も慌ててしまうので,パニックコントロール指導は大切である.ポイントは上体と腕を安定させ,楽な姿勢をとり,呼吸を整えることである.立位の場合,腰を壁にもたれかかるか,壁などに両腕を置いて,上体を安定させる.座位の場合,上肢を膝の上に置いて上半身を前に傾けるか,机の上に両手を重ね,上半身を預けるようにする.ベッド上の場合,クッションなどで上体を少し高くし,膝を軽く曲げ,楽な姿勢をとる.リラックスした状態で口すぼめ呼吸を行ってもらう5.同居の家族がいれば,楽な姿勢のとり方と声掛けを指導することも有効である.パニック発作で救急要請を繰り返す症例で配偶者に指導を行ったところ,救急搬送がなくなったことがある.

増悪に早めに気づく工夫

増悪に早めに気づくには安定した状態を自分で把握しておくことが大切である.そのために療養日誌を書く習慣をつけるように指導する.当院では療養日誌にCOPDアセスメントテスト(CAT)を用い,咳や痰,息切れなど8項目を6段階でチェックし,そこに体重や歩数を加えたものを用いている.習慣化を図るため,記載内容を一緒に振り返るようにしている.そうすることでスタッフとのコミュニケーションツールにもなっている.次に増悪に気づいたら,どのように行動するかのアクションプランを用意しておく.頓用薬は事前に渡しておくが,自己判断で使用せずに訪問看護師に連絡するように指導する.連絡先は自宅のわかりやすい場所に貼ってもらう.連絡を受けた訪問看護師は主治医と連絡をとり,判断をあおぐ連携体制を構築しておくと良い.

しっかりと準備しても,課題となるのは訪問看護師へ連絡するタイミングである6.不安感から頻回に連絡する方もいれば,タイミングが遅く救急搬送される方もいる.そのため,増悪が落ち着いてから,日誌をみながら振り返りを行うことが重要である.一度で身につけることは難しく,何度も話し合いを繰り返すこともある.そのようにして,その人に合った連絡するポイントを明確化し,スタッフと共有していく.

実際に身につけるのに難渋した症例を紹介する.少し体調が悪くても大丈夫だと思い,「買い物に出かけて」,「競馬場に行って」,「冬支度を頑張って」,増悪を起こし,入院を繰り返す症例であった.医師や訪問看護師と何度も振り返りを行い,自身の行動を見直し,数年後「ようやく分かってきたような気がする」と実感できるようになり,年4~6回の入院が年1回程度に減少した.

在宅呼吸ケアでの課題

「患者の希望」が「患者の能力」と「家族の協力」だけでは叶えられない場合に在宅ケアが必要とされる.在宅ケアのサポートは患者や家族の能力を見極め,過保護や過負荷にならないように注意する.また,サポート内容は依頼者の経済的な事情や支える側のマンパワーで決まり,有限なものである.そのため,両者のバランスを考慮しながら,持続可能なケアを考えていく必要がある.

患者の希望が大きい場合でも短期間で実現可能であれば,家族や医療・介護スタッフは多少無理をしてでも支えることができる.例えば,孫の結婚式に出たい,家族と温泉旅行に行きたいといった場合である.一方,実現に長期間を要する場合,支える側のサポートは有限であり,患者の希望と支える側のバランスを考え,患者や家族へ何らかの介入を検討することになる.頻回な痰吸引や人工呼吸器のアラーム対応,オムツ交換など在宅療養での家族の負担が大きい場合,レスパイト入院などを提案し,家族の負担に配慮する.

患者の希望と現状に乖離がみられる場合,患者の思いを傾聴し,共感しながら,現状を説明し,理解を求める.また,クリア可能な小さな目標を設定し,ステップアップ法を用いて患者の能力が向上するように支援していくことも有効である.例えば,在宅酸素療法(HOT)を導入して退院となり,入院中のHOT指導では問題なかったが,在宅で酸素を外す症例を経験することがある.その場合,口頭で酸素をつけるように指導するだけでは無効なことが多い.まずはHOTに対する本人の思いや考え,困り事を傾聴する.その内容を踏まえつつ,HOTの必要性を書面にして説明する.操作に煩わしさを感じているようなら,具体的で簡便な装着方法を書面にして,よく見える所に掲示する.前述した日常生活動作での工夫を同時に指導し,息切れが軽減することを実感してもらえるとより信頼関係が深まり,行動変容につながりやすい.

退院時に在宅での課題を整理し,十分に準備したつもりでも,在宅療養で新たに想定外の問題が生ずることがある.例えば,HOTを導入して退院する際,暖房器具などを電気製品に変更し,家屋環境を確認して動線を考え,段差があれば,HOTを使用しながらの昇降訓練を行うことがある.退院後,電気使用量の増加に伴い,ブレイカーが落ちてしまう.コンセントの配置まで考慮していなかったことで,延長コードが必要になり,動線の邪魔となる.このような新たな課題に対し,実地での配線の工夫や動作訓練を追加する.また,外出に介助を要する状態であった方が,退院後ADLが改善し,一人で外出できるようになることがある.玄関に段差があれば,スロープや手すりを取り付ける住宅改修を提案し,外出時のHOTの付け替え方法が上手くできなければ,本人ができるように手順を簡便化し,指導していく.最近,独居高齢者が増えてきており,課題が複雑化し,クリアするのに一人ではいいアイデアが浮かばないこともあろうかと思われる.その場合,チームで相談し,試行錯誤して柔軟に対応すると良い.

おわりに

今後,在宅呼吸ケアのニーズはますます高まっていくことが予想される.在宅での課題は個別性が高いので,マニュアル化が難しく,科学的なエビデンスを当てはめにくく,判断に迷うことが多い.標準治療に基づきつつ,患者の希望と支える側のバランスを考え,在宅で新たに生ずる想定外の問題にチームで試行錯誤していく柔軟性が大切である.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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