2026 年 35 巻 2 号 p. 116-120
ICUにおける重症患者の急性期呼吸リハビリテーションの実践とその意義について基本的な内容を概説する.集中治療後症候群(PICS)やICU関連筋力低下(ICU-AW)といった後遺症の予防・軽減のため,早期離床・運動療法を含む「ABCDEFGHバンドル」の実施が重要である.また,身体機能低下に対する対策として,リハビリテーションと栄養療法の両立が求められ,適切なエネルギー・タンパク投与と運動が筋機能維持に不可欠である.リハビリテーションでは,FSS-ICUなどの評価指標を用いた目標設定するなどICU退室後のフォローアップ体制の構築も今後の課題である.多職種連携を通じ,長期予後を見据えた包括的な介入が求められる.
第9回呼吸ケア指導スキルアップセミナー 座学3
集中治療室(intensive care unit: ICU)での急性期呼吸リハビリテーションは平成30年度の診療報酬改定時に早期離床・リハビリテーション加算となった背景もあり取り組んでいる施設も多いと思われる.ここでは重症疾患患者の急性期呼吸リハビリテーションというテーマでスキルアップセミナーにて講演した内容に関し基本的事項とリハビリテーションの流れについてまとめる.
ICUには生命維持装置の装着や持続的なモニタリングを要する重症疾患患者が入室する.治療後にICUを退室し一般病棟での療養を経て入院前の居住へ退院する流れになる中,入院前と同等の仕事に復職できない患者や日常生活に支障をきたす患者などがいる.これは集中治療後症候群(post intensive care syndrome: PICS)と呼ばれ1),退院後の身体機能や精神機能などが入院前の状態までに回復していないためである.ICUに入室中あるいはICU退室後に生じる身体機能,精神機能,認知機能による影響がある.またPICSはICUに入室した患者自身のみならず,患者家族の精神機能へも影響を及ぼすものとされる(図1).まず患者自身への影響として身体機能では動作時の呼吸困難感,筋力低下,歩行距離の制限などがあり,これにより日常生活の制限や身体介助が必要となることや,入院前に就いていた仕事内容に復職できないなどの活動制限を生じる.また精神機能については,不安・うつ病や心的外傷ストレス障害などがみられること,認知機能については記憶や注意の障害・遂行機能障害といった高次脳機能の障害が残存することがある.ICU入室を経て退院した患者を対象にしたPICSの発症頻度の調査では,対象者の約2/3にPICSがみられたという報告がある2,3).身体機能,精神機能,認知機能のそれぞれ単独の障害がみられるだけではなく,精神機能低下を伴った身体機能障害がみられるなどのように複数の機能低下が組み合わされる状況もある.また前述したように患者に関わる家族においてもpost intensive care syndrome family: PICS-Fと称される精神機能低下がみられることが指摘されている1).

身体機能低下に関してもう少し触れてみる.ICUに入室する重症疾患患者は筋力低下を併発するようが,この筋力低下の特徴としてびまん性,左右対称,弛緩性であり,どちらかというと体幹に近い筋肉(近位筋)の方が遠い筋肉(遠位筋)に比べ低下する傾向がある.このような筋力低下はICU-acquired weakness(ICU関連筋力低下:ICU-AW)と称される4).この原因として全身性の炎症に伴う蛋白異化亢進,血糖値上昇による末梢神経の微小循環障害,神経軸索障害,筋不活動によるものなどが考えられ,そのいくつかの要因が重なり生じる5).発症しやすい患者は,全身性炎症,多臓器不全,高血糖,ステロイドや神経筋遮断薬投与,ベッド上安静により筋活動が低下しているなどの特徴がある.
これらPICSやICU-AWの予防・改善対策の1つとしてABCDEFGHバンドルが挙げられる.これは表1にあるような項目が示されており6,7),さまざまなケアや治療計画の実践を示した内容である.このバンドルの中で早期離床・リハビリテーションは“E”の“early mobility and exercise”として組み込まれている.人工呼吸器装着患者においてもICU入室の契機となった病態への治療が始まり循環や呼吸状態などが落ち着いた段階で,鎮静中断を標準的ケアに組込み理学療法士による自動運動や筋力強化練習,端坐位や車いす移乗などの運動療法を行い,段階的に離床やリハビリテーションを進める.日本集中治療医学会会員が勤務するICUを対象としたPICS対策に関する調査では,早期離床・リハビリテーションの実施が最も多く挙げられていた.続いて非薬理学的せん妄・睡眠ケア,そして,プロトコルの活用として鎮痛・鎮静,呼吸器離脱,栄養に関するものが示されている(図2)8).これらは表1に示しているABCDEFGHバンドルの内容が多く,PICS予防のための実践に多く含まれている.PICS対策を中心的に実施している職種は専門看護師または認定看護師,理学療法士,集中治療医,臨床工学技士や薬剤師などが挙げられており,ICUで勤務する多くの職種が連携してPICS予防の実践をすることになる.
| A | 痛みの評価・予防・管理 | Assess prevent, and manage pain |
| 気道管理 | Airway management | |
| B | 自発覚醒・自発呼吸評価 | Breathing trial |
| C | 鎮痛・鎮静薬の選択 | Choice of analgesia and sedation |
| コミュニケーション | Coordination of care and communication | |
| D | せん妄評価・予防・管理 | Delirium assessment, prevention, and management |
| E | 早期離床・運動 | Early mobility and exercise |
| F | 家族の関与 | family involvement |
| G | 良好な申し送り | Good handoff communication |
| H | PICSおよびPICS-Fに関する配布資料 | Handout materials |

(n=110:複数回答含む)
身体活動にはエネルギー供給が必要であるがICU入室患者も同様と考える.重症患者では安静臥床などによる活動低下に加え,前述した蛋白異化作用の亢進などの状態により栄養不足になるため筋量や筋力・機能低下がみられ,PICS/ICU-AWを加速させるとされるといわれている6).このような状況には栄養療法とリハビリテーションは不可欠な要素であり,ICU入室中に生じる身体機能低下への予防の基礎となる.このため早期離床による運動や離床の実施と合わせて,栄養療法の実施状況やエネルギー・蛋白量の投与状況なども念頭に入れておくことが重要である.
ICU入室患者の栄養療法に関し日本版重症患者の栄養療法ガイドラインにおいて,重症敗血症や広範囲熱傷,重症外傷などでは過大侵襲による視床下部-下垂体-副腎系を主とした神経-内分泌の賦活化や,サイトカインを中心とした免疫応答によって,代謝反応や異化亢進状態が急速に進展し,患者へ重度の栄養障害をもたらすとしている9).また,栄養障害(蛋白異化亢進)が進展すると,感染性合併症や死亡率の増加,在院期間の延長など予後を悪化させるため栄養療法を早期から行うことの重要性が挙げられている9).しかしICU入室直後の急性期からの栄養療法は過剰投与をするとオートファジーの障害を誘発する可能性がありICU-AWを悪化させることが指摘されている6).したがって,必要なエネルギー量の投与は急性期の初期1週間,エネルギー消費量よりも少なく投与しながら経過を追い4~7日後に目標量の目安(25~30 cal/kg/日)へ移行するような対応や,蛋白量においては 1.2~2.0 g/kg/日の蛋白量が喪失していることを考慮したうえで蛋白投与量を設定するとしている9).
エネルギーとともに十分な蛋白質の供給が必要とされるが,蛋白質の供給だけではPICSは減らないことが報告されており,適切な運動により筋蛋白質合成が最大化されるため,栄養療法だけでなく適切な運動やリハビリテーションとの組み合わせが重要と考えられている6).このように重症患者に栄養療法が必要ではあるものの,HeylandらのICU入室患者を対象にした栄養管理の調査報告では,エネルギーと蛋白量の投与量ともに低い状態であったとし医原性の低栄養を指摘している10).早期離床・リハビリテーションと栄養療法の両面を考慮した実施計画が大変重要である.
リハビリテーションを実施する際の目標として,意識障害や運動器疾患を伴う疾病や外傷を生じている場合はその残存機能や機能回復の状況に応じて設定することになる.一方でこのような運動器疾患を伴う疾病や外傷でない患者の場合,入院前の生活に戻ることを想定して目標を設定する.もともと歩行が可能であった患者がICUを退室する段階でどの程度回復していれば,急性期の病院を退院する時に入院前の日常生活活動に復帰できるのか?など退院後の状況を想定できると,ICU退室後の計画が立てやすく患者や家族への説明がしやすくなる.
退院時の身体機能や転帰先の予測をする評価項目として身体機能評価であるfunctional status score for the intensive care unit(FSS-ICU)を用いた報告がある11,12,13).FSS-ICUは特異的な環境であるICUでの動作能力を評価することを目的に開発された.表2のように身体活動5項目(寝返り・起き上がり・端坐位・立ち上がり・歩行)の能力がどの程度の介助や監視が必要であるかを評価する.すべて自立の状態であれば最高得点として35点となる.相川ら12)は,48時間以上の人工呼吸器装着患者を対象に急性期病院から直接自宅へ退院するための身体状況として,ICU退室時のFSS-ICUのカットオフポイントを16点としている.また,宮澤ら13)の48時間以上の人工呼吸器装着患者を対象にした研究では,歩行が自立する関連因子を報告している.この研究では,歩行自立が年齢・functional comorbidity index(FCI)・ICU退室時のせん妄・ICU退室時のFSS-ICUの4項目と有意に関連していたとした.これらの変数のうちICU退室時のFSS-ICUのポイントとFCIが独立した関連因子であったとしている.この2つの関連因子のうちFCIは併存疾患指標とされ,併存疾患をどれだけ有しているかを評価するものである.ここでは併存疾患が少ない方が歩行自立に関与するとされている.一方,ICU退室時のFSS-ICUの値について,歩行が自立となるためのカットオフ値は24点としている13).
| 寝返り・起き上り・座位・立ち上り・歩行の5つの動作に対して以下の介助量により配点となる |
|---|
| 0点:身体的制限や治療状況のために遂行不可 |
| 1点:全介助 |
| 2点:最大介助(患者が25%以下の実施) |
| 3点:中等度介助(患者が26-74%以下の実施) |
| 4点:最小介助(患者が75%以上の実施) |
| 5点:口頭指示のみ |
| 6点:修正自立 |
| 7点:自立 |
*FSS-ICU: Functional Status Score for the Intensive Care Unit
各施設の役割や地域特性,患者の家族背景,患者の退院後の社会資源やサービスの利用などの状況により退院できる基準や入院期間は異なると思われるが,これらの指標を参考にICUを退室する際の目標をたて毎日のケアやリハビリテーションを実施することも大切である.
ICUから退室した患者は病棟が変わることで看護師やリハビリテーション担当者など関わる医療者も変更になることになる.このような状況からICU退室後にICUスタッフが他病棟へ訪問し診察や経過観察などのフォローアップを実施している施設もある.このフォローアップの目的は,患者の全身状態や機能障害の状況を観察することや,退室先でのリハビリテーションの実施状況を確認するなどが挙げられている8).退室後の患者の状況を観察することで,患者の身体・精神・認知機能の回復や機能障害を確認する.このように退室後の患者状況を確認することは,ICUで実施してきたケアやリハビリテーションの関わりについて良かった点や改善するべき点などを検討するきっかけになる.このような振り返る機会を得ることで,今後のICU入室する患者への対応を改善させることができる効果がある.また,部署間の連携強化や医療者へのPICSに関する理解の向上なども効果として挙げられている8).一方で,ICU退室後のフォローアップのための訪問について実施できない施設もある.その障壁として,マンパワーの確保,病院全体やICUスタッフの理解,ICUスタッフのPICSに関する知識不足などが挙げられている(図3)8).また,患者の退院後のフォローに関しICU退室後のPICS症状の診療を目的としたフォローアップ外来(PICS外来)を実施している施設もある14).このようなICU退室患者へのフォローについては,まだ一部の施設での実施とされており,マンパワーをはじめ,スタッフ理解,他科の理解など今後の課題も挙げられている.このようにICU退室後の入院中の他病棟への訪問や退院後のフォローアップ外来など実施が難しいところもあるが,ICUに入室していた重症患者は長期的に障害を生じる場合もあるためこのような体制を構築できることが望ましいと思われる.

(n=110:複数回答含む)
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.