2026 年 35 巻 2 号 p. 121-126
摂食嚥下障害は栄養摂取障害および誤嚥性肺炎の原因となり,生命予後および生活の質を低下させる重要な病態である.特に高齢者や慢性呼吸器疾患患者では,全身サルコペニアや咳嗽反射低下,喉頭挙上不全などが複合し,摂食嚥下障害発症リスクが高まる.本稿では摂食嚥下のメカニズムから病態,評価,治療の要点を整理し,呼吸リハビリテーションが嚥下の安全性確保および誤嚥性肺炎予防に果たす役割を概説する.近年は口腔ケアを含む多職種による介入や,咳嗽介助,体位排痰法,離床促進などの呼吸理学療法的介入が,誤嚥性肺炎の抑制に寄与することが示されている.また呼気筋トレーニングは咳嗽能力や嚥下筋活動を改善し,嚥下機能改善に有望な介入として注目されている.本稿は総説として摂食嚥下障害に対する呼吸リハビリテーションの臨床的意義と今後の展望を提示する.
第9回呼吸ケア指導スキルアップセミナー 座学3
摂食嚥下障害は,脳血管障害,神経筋疾患,精神・認知機能低下,加齢,活動性低下,慢性炎症,栄養不良など多因子が重なって発症する1).摂食嚥下障害は誤嚥性肺炎や窒息などの致死的合併症につながるのみならず,低栄養・脱水・サルコペニア進行・ADL低下といった生活機能全般に影響を及ぼす.特に高齢者や慢性呼吸器疾患患者は,脳血管障害や神経筋疾患と同様に摂食嚥下障害のハイリスク群であり,誤嚥性肺炎再発を反復する重要な背景因子として位置づけられている1,2).
摂食嚥下障害の管理は,これまで主に言語聴覚療法領域を中心として発展してきた.一方で,嚥下は呼吸機能と密接に連動する生理現象であり,呼吸筋力,咳嗽能力,体幹・頸部運動性,気道クリアランス能,姿勢制御などの呼吸関連要素は,嚥下の安全性と効率性に強く影響する.近年,高齢者や慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)患者においては,全身性サルコペニアに伴う嚥下関連筋群の筋力低下や,誤嚥後の分泌物排出不良による肺炎リスク増大など,呼吸障害と嚥下障害が相互に影響し合う病態構造が注目されている3,4).
本稿では,摂食嚥下の機能解剖・神経生理および病態生理を概説したうえで,摂食嚥下障害を局所的な嚥下機能障害としてではなく,呼吸・栄養・活動性と相互に影響し合う全身性機能障害として捉え,呼吸機能に着目したリハビリテーション(以下,リハ)が摂食嚥下障害の評価および治療において嚥下の安全性を支える生理学的基盤をどのように補完し得るかについて整理する.
嚥下動作は随意的開始と反射的運動の複合であり,口腔期・咽頭期・食道期から成る5).口腔期は形成された食塊が舌運動によって口腔内から咽頭入口部へと移送され,嚥下反射が惹起されるまでの期間を指す.咽頭期では舌骨上筋群を中心とした筋活動による喉頭挙上と喉頭閉鎖が生じ,気道を保護しながら咽頭収縮運動によって食塊が食道へ送られる.食道期は食道蠕動および下部食道括約筋の弛緩・開大によって成立する5).
延髄の孤束核は嚥下感覚の中枢であり,疑核は咽頭筋の運動制御を担う5).central pattern generator(CPG)は嚥下反射のリズムを形成し,呼吸中枢と密接に結びついている5).このため,呼吸障害が存在すると嚥下行動のタイミング異常が生じやすい.さらには,この統合性はわずかな筋機能低下,神経入力の変調,感覚鈍麻などによっても破綻しやすい.これらの嚥下制御機構は,中枢神経疾患によって障害されることがあり,球麻痺や偽性球麻痺に代表される病態では特徴的な嚥下障害を呈する.詳細については次章で述べる.
摂食嚥下障害は慢性疾患患者や高齢者でしばしば認められ,誤嚥性肺炎,低栄養,脱水など多面的な問題を引き起こす.嚥下機能の低下は初期には自覚に乏しく,臨床現場で見逃されやすいが,症状が顕在化する頃には誤嚥や栄養障害がすでに進行していることも少なくない.
誤嚥性肺炎は嚥下障害と密接に関連し,高齢者の死亡原因の上位を占める6).摂食嚥下障害を有する患者では肺炎発症リスクが約3倍,不顕性誤嚥を伴う場合は11倍に達すると報告されている7).不顕性誤嚥は咳反射の低下や嚥下感覚の鈍麻により生じ,特に脳血管障害患者で頻度が高い8).誤嚥性肺炎を反復することで身体機能の低下や長期入院を招き,生命予後にも影響を及ぼすため,早期の評価と介入が重要である.
摂食嚥下障害の原因は単一ではなく,中枢神経障害,サルコペニア,呼吸器疾患,活動量低下,栄養障害,口腔機能低下など,多様な背景因子が相互に関与して生じる.以下に代表的な病態別の特徴を示す.
1) 脳血管障害における摂食嚥下障害脳血管障害は摂食嚥下障害の最も代表的な原因の一つであり,急性期から多様な嚥下機能の破綻を引き起こす.嚥下は大脳皮質,皮質延髄路,延髄嚥下中枢,末梢神経,嚥下関連筋群の協調によって制御されており5),これらのいずれかが障害されても嚥下動作の安全性と効率性が損なわれる.
脳血管障害による代表的な病態として球麻痺と偽性球麻痺が挙げられる9).球麻痺は延髄の嚥下中枢が直接障害されることで生じ,嚥下反射の惹起遅延,声門閉鎖不全,喉頭挙上不良,上部食道括約筋開大不全など,重度の咽頭期障害を呈する9).咳嗽反射も低下し,不顕性誤嚥から誤嚥性肺炎を反復しやすい.一方,偽性球麻痺は大脳皮質から延髄へ至る皮質延髄路の両側性障害により生じる9).嚥下中枢は保たれているものの,随意運動の協調が障害され,舌運動不全,食塊形成の困難,喉頭挙上不十分などが認められる.情動失禁や口腔反射亢進を伴うことも多く,誤嚥リスクを高める要因となる.
脳血管障害後の摂食嚥下障害は誤嚥性肺炎の主要な危険因子であり,急性期の転帰や長期的な生活機能に大きな影響を与える.そのため,急性期からの嚥下スクリーニング,適切な食形態・姿勢調整,リハ介入が重要となる.
2) サルコペニアと摂食嚥下障害の相互関係サルコペニアは,加齢,慢性炎症,低栄養,身体活動量低下など多様な要因により骨格筋量および筋力が低下する病態であり10),その影響は四肢筋に限らず嚥下関連筋群にも及ぶ.特に舌骨上筋群や咽頭収縮筋の筋力低下は,喉頭挙上の減弱や嚥下圧低下,嚥下反射惹起遅延を招き,咽頭残留や誤嚥リスクの増大につながる.
高齢者や慢性疾患患者では舌圧低下や咽頭期機能低下が報告されており,サルコペニアが摂食嚥下障害の重要な背景因子として認識されている11,12).こうした背景から,全身性サルコペニアを基盤として摂食嚥下障害が発生する病態を「サルコペニアの摂食嚥下障害」と捉える診断枠組みが提唱されている13).この概念は,摂食嚥下障害を局所的な機能障害としてではなく,全身の虚弱性や栄養状態と関連づけて理解する必要性を示している.
サルコペニアと摂食嚥下障害の関係は高齢者に限らず,担癌患者や慢性呼吸器疾患患者など,慢性炎症や活動性低下を背景とする集団にも共通して認められる点が特徴である.
3) 呼吸器疾患における嚥下障害の特徴呼吸器疾患では,呼吸パターンの変化,胸郭可動性の低下,慢性炎症,低酸素血症などが複合的に影響し,摂食嚥下障害が生じやすい.嚥下と呼吸は通常,嚥下時の一時的な呼吸停止(嚥下性無呼吸)と嚥下後の呼気再開によって協調しているが,呼吸器疾患では浅速呼吸や呼吸困難によりこの協調が破綻しやすい.
呼吸-嚥下協調の観点からは,嚥下と呼吸相の時間的関係によりいくつかの嚥下パターンが知られており,嚥下後に吸気が開始される「嚥下-吸気型(SW-I型)」や,嚥下前後ともに吸気を伴う「吸気-嚥下-吸気型(I-SW-I型)」は,咽頭残留物の誤吸引を招きやすく,誤嚥性肺炎のリスクが高いとされている(図1)14).特にI-SW-I型は,呼吸器疾患患者において出現頻度が高く,注意を要する嚥下パターンである.

嚥下と呼吸は通常,嚥下時の一時的な呼吸停止(嚥下性無呼吸)を挟み,嚥下前後に呼気が出現するE-SW-E型を示し,これは生理的で誤嚥リスクが低い嚥下パターンである.一方,呼吸器疾患などにより呼吸-嚥下協調が破綻すると,嚥下前後に吸気を伴うI-SW-I型が出現しやすく,咽頭残留物の気道内吸引を招くことで誤嚥リスクが最も高い嚥下パターンとされている.なお,嚥下後に吸気が再開されるSW-I型など,嚥下前後に吸気を伴う他の異常パターンも誤嚥リスクの上昇と関連することが知られている.
また,呼吸器疾患では胸郭の硬化や呼吸補助筋の過活動により喉頭挙上や舌骨運動の自由度が低下し,咽頭期嚥下動態が不安定となる.加えて,慢性炎症,低栄養,活動量低下は全身性サルコペニアを進行させ15),嚥下関連筋の筋力低下(舌圧低下,咽頭収縮力低下)を通じて嚥下効率をさらに低下させる.
呼吸器疾患の代表例として COPD が挙げられるが,摂食嚥下障害は COPD に限らず,間質性肺疾患や他の慢性呼吸不全,肺炎罹患後,気管切開例や人工呼吸管理例など,さまざまな病態で認められる.特に気管切開患者では声門閉鎖不全や気道内圧変化の影響により誤嚥が生じやすく,慎重な評価と対応が求められる.
以上のように,摂食嚥下障害は脳血管障害,サルコペニア,呼吸器疾患といった多様な背景病態の影響を受けて発症・増悪する.これらの病態に共通して,摂食嚥下障害を契機とした摂取量低下は,低栄養や筋力低下,全身状態悪化を招き,さらに嚥下機能の低下や誤嚥リスクを高めるという悪循環を形成しやすい.すなわち,摂食嚥下障害は局所的な嚥下機能障害としてではなく,全身性機能障害として捉える視点が重要である(図2).この悪循環を理解したうえで,摂食嚥下障害を早期に捉え,栄養管理やリハを含めた多角的な介入を行うことが,誤嚥性肺炎の予防および全身機能の維持において重要である.

摂食嚥下障害は,局所的な嚥下機能障害にとどまらず,低栄養,サルコペニア,活動性低下,呼吸機能低下などと相互に影響し合い,全身機能の悪循環を形成する.摂取量低下は低栄養や筋力低下を招き,サルコペニアや活動性低下を介して呼吸機能の低下を助長することで,嚥下の安全性をさらに損なう要因となる.誤嚥性肺炎はこの悪循環の一つの表現型であり,摂食嚥下障害を全身的視点から評価・介入する重要性を示している.
摂食嚥下障害の診療において,適切な評価体系を構築し臨床判断を行うことは極めて重要である.摂食嚥下障害は多因子により発症し,その病態は口腔期,咽頭期,食道期のいずれか,あるいは複数が関与する複雑な構造を持つ.さらに,患者背景(脳血管障害,サルコペニア,呼吸器疾患,認知症など)が異なるため,画一的な評価では病態の本質を捉えることは難しい.したがって,摂食嚥下障害の評価は「多層的・包括的」である必要があり,病歴,身体所見・神経学的所見,症状の把握,スクリーニング,専門的検査などを統合して判断することが求められる16).
摂食嚥下障害の評価体系は一般に,①リスク評価,②スクリーニング評価,③臨床嚥下評価,④精査,⑤関連機能評価の段階に整理される16).まずリスク評価では,病歴,基礎疾患,薬剤,栄養状態,生活状況などを総合的に把握し,摂食嚥下障害や誤嚥性肺炎の可能性を予測する.高齢,脳血管障害後,呼吸器疾患,サルコペニア,長期臥床,抗精神病薬・鎮静薬の使用などは,嚥下機能に影響する主要なリスク因子である.これらの情報を把握することは,次段階の評価の解釈に不可欠である.
スクリーニング評価では,反復唾液嚥下テスト,水飲みテスト,改訂水飲みテスト,食形態を用いた簡易嚥下テストなどが用いられ,嚥下障害の存在を迅速に確認することができる.また,咳嗽力測定や最大呼気圧など呼吸機能の指標は,誤嚥後の気道クリアランス能力を推測するうえで重要である.しかし,スクリーニングはあくまで「陽性なら詳細評価へ進む」ための入り口であり,誤嚥の有無や障害の部位・程度を特定するものではない.
臨床嚥下評価では,口腔機能(構音,舌運動,口唇閉鎖),嚥下のタイミング,嚥下後の湿った声,咳反射の有無などを観察し,どの段階で障害が生じているかを推測する.姿勢,頸部可動性,呼吸パターン,疲労度なども嚥下の安全性に影響するため,身体機能全体を視野に含める必要がある.呼吸リハの立場からは,呼吸-嚥下協調の破綻や咳嗽機能の低下を早期に捉えることが,誤嚥性肺炎予防に直結する.
精査として不可欠なのがVF(videofluoroscopic examination:嚥下造影検査)とVE(videoendoscopic evaluation:嚥下内視鏡検査)である.VF は嚥下動態の全体像を把握し,咽頭残留,食道期障害,上部食道括約筋の開大不全などを詳細に評価できる.一方 VE は声門閉鎖,喉頭侵入,誤嚥のタイミング,咽頭残留の性状などをリアルタイムかつ簡便に観察できる.これらの客観的データにより,嚥下障害が「どこで・なぜ」生じているのかを明確にし,治療手技(姿勢調整,嚥下訓練,食形態の調整など)の選択に不可欠な情報を提供する.
さらに重要な点として,嚥下障害の評価は「嚥下そのもの」だけでは不十分であり,栄養状態・筋量・呼吸機能を含めた包括的評価が必要である.低栄養やサルコペニアは嚥下関連筋の筋力低下をもたらし15),呼吸障害は呼吸-嚥下協調を破綻させる14).これらは嚥下障害を悪化させるだけでなく,誤嚥性肺炎の発症にも直接影響するため,臨床判断において必ず考慮すべき要素である.
摂食嚥下障害の評価体系は,多数の情報を整理し「その患者にとって最も安全な摂食方法は何か」「どの治療手段を優先すべきか」を導くための枠組みである.評価と臨床判断の質が治療効果や肺炎予防に直結するため,言語聴覚士や理学療法士を含む多職種が共通の評価軸を持ち,情報を共有することが重要である.
摂食嚥下障害の治療は,嚥下運動そのものへの直接的介入のみで完結するものではなく,嚥下が安全に遂行されるための全身的・生理学的条件を整えることが重要である.嚥下は呼吸と密接に協調した運動であり,呼吸パターン,呼吸筋力,咳嗽能力,体幹・頸部の運動性,姿勢制御,気道クリアランス能といった要素は,嚥下の安全性と効率性に大きく影響する.
前述したように,嚥下は呼吸と密接に協調した運動であり,呼吸器疾患などではこの協調が破綻しやすい.とくに,嚥下前後に吸気を伴う嚥下パターンは,咽頭残留物の気道内吸引を招きやすく,誤嚥性肺炎のリスクを高める要因となる.呼吸リハビリテーションは,こうした呼吸-嚥下協調の破綻を背景として,嚥下が安全に遂行されるための呼吸環境を整える役割を担う.
このような背景から,呼吸リハは,嚥下運動そのものを直接改善する介入というよりも,嚥下の安全性を支える生理学的基盤を補完・強化する役割を担うと位置づけられる.すなわち,呼吸-嚥下協調の安定化を通じて誤嚥を生じにくい状態を整えること,および誤嚥が生じた場合においても,咳嗽や排痰を通じて気道防御機構を補完することの二つの側面から,摂食嚥下障害の管理に寄与する(図3).なお,摂食嚥下障害に対する呼吸リハビリテーションでは,目的に応じて複数の介入が組み合わされて実施されており,その主な位置づけと代表的手段を表1に示す.

呼吸リハビリテーションは,嚥下運動そのものを直接改善する介入ではなく,嚥下の安全性を支える生理学的基盤を補完する視点から位置づけられる.本図は,①呼吸-嚥下協調の安定性と,②誤嚥後の気道防御機構の補完という二つの側面から,呼吸リハが摂食嚥下障害の管理に関与する概念的枠組みを示す.
| 目的(位置づけ) | 介入カテゴリー | 代表的な具体手段 | 介入の狙い・着眼点 |
|---|---|---|---|
| 呼吸-嚥下協調の安定化 | 呼吸パターン調整 | 呼気延長, 嚥下前の呼気誘導 | 嚥下前後の呼気相を確保し,吸気再開パターンを回避する |
| 姿勢・体位調整 | 頸部前屈,体幹支持, 坐位調整 | 嚥下に適した呼吸・姿勢環境を整える | |
| 誤嚥後の防御機構強化 | 咳嗽練習・排痰介助 | 強制咳嗽, 段階的咳嗽練習, 体位ドレナージ | 誤嚥後の気道内侵入物を速やかに排出する |
| 呼気筋トレーニング | 呼気抵抗訓練 | 呼気筋力・咳嗽能力を高め,気道防御能を補完する 舌骨上筋群の活動促進 | |
| 基盤的機能の改善 | 離床・運動療法 | 早期離床,歩行練習, 軽負荷運動 | 活動性低下やサルコペニア進行を抑制する |
本表に示した介入は代表例であり,嚥下訓練の代替を目的とするものではない.呼吸リハビリテーションは,嚥下の安全性を支える生理学的基盤を補完する介入として,多職種連携のもとで実施される.
一方で,誤嚥を完全に防ぐことは困難であり,誤嚥後の対応が臨床上重要となる.咳嗽は主要な気道防御機構であり,咳嗽力の低下は分泌物や誤嚥物の気道内貯留を助長する.呼吸リハにおける咳嗽練習,排痰介助,体位調整などは,誤嚥後の気道クリアランス能力を補完する手段として位置づけられる.高齢者肺炎を対象とした摂食嚥下リハにおいても,これらの呼吸リハ的介入が誤嚥後の気道クリアランス確保や肺炎再発予防に寄与することが報告されている17).
近年,呼気筋トレーニング(expiratory muscle training: EMT)は,咳嗽能力の向上だけでなく嚥下機能の改善を目的とした介入として注目されている18,19,20).EMTは呼気筋群の筋力向上を通じて最大呼気圧や咳嗽時呼気流量を改善させ,誤嚥後の喀出能力向上が期待されるが,加えて舌骨上筋群の活動を介した嚥下機能への間接的影響も報告されている.そのため,EMTは嚥下訓練そのものの代替ではなく,嚥下の安全性を支える補助的介入として位置づけることが妥当と考える.高齢者肺炎に対する実臨床においても,EMTは咳嗽能力や嚥下関連機能の改善を目的とした補助的介入として,呼吸リハの一要素に位置づけられている17).
さらに,離床や運動療法による活動性の向上は,呼吸機能や換気効率の改善に加え,気道分泌物の貯留予防やサルコペニア進行の抑制を通じて,摂食嚥下障害の悪化防止に寄与する.活動性低下自体が誤嚥性肺炎のリスク因子となるため,日常生活における身体活動の確保は基盤的介入として重要である.
本稿では,摂食嚥下の機能解剖・神経生理および病態生理を概説したうえで,摂食嚥下障害を局所的な嚥下機能障害としてではなく,呼吸・栄養・活動性と相互に影響し合う全身性機能障害として捉え,呼吸リハが果たし得る役割について整理した.
摂食嚥下障害に対する呼吸リハは,嚥下運動そのものを直接改善する介入ではなく,呼吸-嚥下協調の安定化を通じて誤嚥を生じにくい状態を整えること,ならびに誤嚥後の咳嗽や排痰を通じて気道防御機構を補完することの二つの側面から,嚥下の安全性を支える基盤的介入として位置づけられる.
摂食嚥下障害の管理においては,嚥下機能のみならず,呼吸機能,咳嗽能力,姿勢・活動性といった要素を含めた包括的視点が重要であり,呼吸リハは多職種連携のもとで実践されるべき介入の一つである.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.