2026 年 35 巻 2 号 p. 127-133
近年,集中治療の進歩に伴い,集中治療室(ICU)で管理される重症患者の生命予後は大きく改善した.一方で,ICUを生存退室した患者の多くは,その後の社会復帰が困難な状況が明らかとなり,長期的な死亡率や機能的予後,生活の質の悪化が注目されるようになった.このように,ICU退室や退院,自宅復帰を果たした重症患者では身体機能障害,認知機能障害,メンタルヘルス障害が長期的に残存,遷延する場合があり,これを集中治療後症候群(PICS)として包括する概念が提唱された.PICSの予防策としては,多職種からなる医療チームで取り組むABCDEFGHバンドルが推奨される.しかし,PICSを有する重症患者が社会復帰を目指すためには,急性期病院のみならず地域医療との連携が必要不可欠であり,今後は当該患者の長期的なフォローアップ体制の構築が急務である.
第9回呼吸ケア指導スキルアップセミナー 座学3
近年,集中治療の発展や標準化に伴い,集中治療室(ICU: intensive care unit)で管理される重症患者の生命予後は改善傾向にある1).一方で, ICUを退室した重症患者の約30%において6ヶ月後に何らかの機能障害が残存し,約50%は日常生活活動(ADL: activity daily living)に介助を要するレベルとなり2),職場復帰も困難であることが問題となっている3).そのため,最近では集中治療における重要なアウトカムも,生存率や治療期間といった短期的なものから,救命された患者の日常生活を見据えた長期予後,特に身体機能や生活の質(QOL: quality of life)の改善も重要なアウトカムとして認識されるようになり,いかに良好な心身機能状態での自宅退院,さらには復職を含めた社会復帰を目指すかが集中治療の最終的な目標となってきている.
前述のようにICU退室,退院を果たした重症患者では,身体機能や認知機能,メンタルヘルスさらにはQOLの障害が長期間にわたって遷延する場合があり,これらを集中治療後症候群(PICS: post-intensive care syndrome)として包括することが2012年の米国集中治療医学会において提唱された(図1)4).PICSは,ICU在室中あるいは退室後に生じる身体機能・認知機能・メンタルヘルスの障害を包含しており,ICUに在室した患者のみならずその家族のメンタルヘルスにも影響を及ぼす重大な問題とされている4).本邦の重症患者を対象とした多施設共同前方視的観察研究(J-PICS study)では,ICU退室6ヶ月後におけるPICSの合併率は63.5%と高率であり,身体機能障害は32.3%,認知機能障害は37.5%,メンタルヘルス障害は14.6%の患者に認め,これら2領域以上の障害を認めた患者は17.8%も存在し,PICSが単一的ではなく,複合的な障害であることを示している5).

急性呼吸窮迫症候群の生存患者を対象とした前向き観察研究では,ICU退室5年後の6分間歩行距離は予測値の平均76%,QOLの身体的側面も予測正常レベルまでの改善には至っておらず,長期間にわたって身体機能障害が遷延することを明らかにしている6).このようなICU生存患者における長期的な身体機能障害の背景には,ICU獲得性筋力低下(ICU-AW: intensive care unit-acquired weakness)という病態が存在している.ICU-AWとは,ICUで管理された重症患者に生じる全身的な筋力低下であり,急性疾患またはその治療以外にその原因が明らかでないものと定義され,ICUに入室する重症患者の43%に合併すると報告されている7).ICU-AWの合併は,人工呼吸器からの離脱遅延やICU在室日数および在院日数の延長といった短期的なアウトカムを悪化させるとともに,機能予後やQOLの低下,転院や退院後の死亡率の増加など,長期的なアウトカムにも影響を及ぼすことが示されており,集中治療領域における重大な合併症の1つとして認識されている.また,ICU-AWを合併した症例の身体機能の回復は,概ね数ヶ月を要し,プラトーに達するまでには1年程度も必要となることが示され,さらに回復の程度には個人差があり,機能障害が良好に改善する症例と残存する症例の存在が示唆されている8,9,10).
ICU-AWの病態生理はまだ完全には解明されていないものの,骨格筋や末梢神経における機能的および構造的変化であると報告されている.Vanhorebeekら11)は,ICU-AWの病態を筋萎縮の進行と筋機能の低下に分類し,それぞれのメカニズムを概念的な枠組みで説明している(図2).重症患者では過大侵襲による代謝亢進や炎症などが複合的に関与することで,異化作用が亢進し筋タンパク質の分解が急激かつ顕著となり,その合成も減少する.さらに不動や廃用症候群,負荷消失,人工呼吸管理,機能的脱神経なども相まって,骨格筋の消耗が亢進し筋萎縮が進行する.ICU患者を対象に大腿直筋横断面積の経時的変化を調査した報告では,ICU入室後の24時間以内に筋タンパク質の分解が生じ始め,その後1週間で平均12.5%も減少し,単臓器不全よりも多臓器不全でより急速に減少することが示されている12).また,筋生検では,筋線維の炎症や壊死の兆候,脂肪組織への転換,線維化が認められる.加えて,炎症や微小循環の変化による酸素供給や還流障害によって軸索変性や神経系の機能不全が生じ,さらに高血糖やフリーラジカルも相まってミトコンドリア機能不全によるATP産生の減少,不十分なオートファジー活性,イオンチャネル機能変化による神経筋接合部の興奮性低下が生じ,これらが複合的に関与することで結果として筋機能低下が引き起こされる.その他,ICU-AWのリスク因子として,修正不能な因子では重症疾患(重症度スコア,炎症,敗血症,多臓器不全,人工呼吸管理の長期化,重症疾患の長期化,高い血中乳酸値)および患者背景(女性,高齢者,肥満,併存疾患),修正可能な因子では高血糖や非経口栄養,薬剤(筋弛緩薬,ステロイド薬,カテコラミン製剤,特定の抗菌薬の投与),不動が明らかにされている11).

2000年代までの報告では,ICUに関連する筋力低下は,神経伝導検査や筋電図検査といった電気生理学的検査によって評価され,critical illness myopathy(CIM)とcritical illness polyneuropathy (CIP),critical illness neuromyopathy(CINM)という3つの病態に分類されてきた.しかし,これらにはさらに様々な名称があることで混乱を来しているとともに,電気生理学的検査は専門的な技術や機器を要するためにルーチンに評価することは容易ではなく,臨床的にCIPとCIM,CNIMを区別することは困難であることから,ICU-AWという用語でこれらを包括することが提唱された.このICU-AWの診断にあたっては,四肢の筋力を指標とし,その判定には,Medical Research Council (MRC) sum scoreが適用される13).これは上下肢のそれぞれ3つの関節運動に関与する筋群(肩関節外転,肘関節屈曲,手関節背屈,股関節屈曲,膝関節伸展,足関節背屈)における筋力を0(筋収縮が全くなし)から5点(正常)の基準にて合計60点満点で評価する徒手筋力検査である.透析用カテーテルや動脈カテーテルが留置され,関節運動が行えない場合には,反対側の同関節筋力を測定値の代用とする8).ICU-AWはMRCスコアが48点未満の筋力低下を認めた場合に診断基準の一つを満たし,36点以下では重症と判定される14).また,握力はMRCスコアと良好に相関することが示されており15),握力測定値(男性で 11 kg以下,女性で 7 kg以下)を指標とすることもできる16).いずれにしても,筋力評価には対象者の努力と協力が必要となるため,鎮静薬を中断するなど覚醒状態が必要となる.せん妄を来している状態では指示理解が困難であるため,正確な測定を行うために,事前にfive standardized questions17)やCAM-ICU18)にて指示理解やせん妄の評価を行う必要がある.
ICU-AWの予防策として,早期離床や運動療法を中心としたリハビリテーションの有効性が示され19),日本集中治療医学会から発表されたエキスパートコンセンサス20)に準じた早期からの介入が推奨されている.一方で,病態の解明においては未だ不明な点も多く,ICU-AWを合併する身体機能の回復促進のための特異的かつ有効な治療プログラムは確立されていないのが現状である.
ICU患者における認知機能障害は,30~80%に合併するとされ21,22),退院時から1年後には46%,2年後でも47%とほとんど改善することなく,長期的にその障害が残存することが報告されている23).これらの認知機能障害は,加齢に伴う認知症やアルツハイマー病などにみられるような進行性かつ不可逆的なものとは異なり,徐々に改善を示すものの,退院後の数ヶ月から1年以内に改善を認めない場合にはその後も障害が遷延すると考えられている.認知機能障害の遷延は,記憶力や注意力の低下,実行機能障害,認知処理速度の低下などによって日常生活に支障をきたし,患者のQOL低下や家族の介護負担が増大するために,社会問題となっている.重症患者における認知機能障害の発症は,患者要因,急性疾患,治療関連要因または環境要因がリスク因子(表1)24)となり,炎症などによる血液脳関門障害によって引き起こされる神経細胞のアポトーシスが発症機序と推察されている25).なかでも,せん妄はICU在室中から高率に発症し,長期的な認知機能障害と強く関連することが数多く報告されている.さらに,Pandharipandeら26)は,せん妄の罹患期間と長期的な認知機能障害との関連を調査し,せん妄期間が長い(5日間以上の持続)患者ほど,退院3ヶ月後,12ヶ月後の全般性認知機能障害および実行機能障害が認められたと報告している.つまり,これらの報告は,ICU患者に生じる認知機能障害が,せん妄による脳機能障害の後遺症であることを示唆するものであり,介入可能な危険因子として定期的なせん妄評価による早期発見や発症予防,さらに発症したとしても罹患期間の短縮に務める必要性を示している.
| 患者因子 ・高齢者 ・認知症の既往 |
| 急性疾患 ・敗血症 ・急性呼吸窮迫症候群 ・ICUせん妄 ・抑うつ症状 ・急性ストレス反応 |
| 治療関連因子 ・深鎮静 ・低血糖/高血糖 ・腎代謝療法 ・長期の人工呼吸管理 ・長期のICU滞在 |
| 環境因子 ・騒音 ・不眠 ・面会者の不在 |
せん妄の診断には,成人ICU患者に対する鎮痛・鎮静・せん妄管理ガイドライン改訂版,通称「PADISガイドライン27)」においてCAM-ICU(Confusion Assessment Method for the Intensive Care Unit)18)とICDSC(Intensive Care Delirium Screening Checklist)28)が簡便(2~5分程度)に評価可能であり,推奨されている.両評価法ともに日本語版が公表され,その信頼性ならびに妥当性も既に示されている.また,ICUにおける認知機能障害の診断には,ゴールドスタンダードな評価法が存在しないものの,実臨床では長谷川式簡易知能評価スケール29)やMMSE(Mini-Mental State Examination)30)が広く用いられる.しかし,これらの評価ツールを用いた評価は,ともに患者の全身状態が安定し,さらに十分に意思疎通が図れる必要があるため,ICUで行われるケースは限定的である.せん妄を軽減,さらには罹患期間を減少するためには,後述するABCDEFGHバンドルと呼ばれる,包括的アプローチが重要であることが既に確認されている.
ICU患者におけるメンタルヘルス障害は,抑うつ,不安,心的外傷後ストレス障害(PTSD: post-traumatic stress disorder)が主要な症状とされる.Hatchら31)は,ICUに入室した成人患者を対象にメンタルヘルス障害の有病率を前向きに調査したところ,抑うつは40%,不安は46%,PTSDは22%であり,これらの症状は1年が経過しても残存することを報告している.加えて,3つの主要症状を全て満たした患者が18%も存在し,これらの症状が高率にオーバーラップすることが明らかにされている.また,長期的なメンタルヘルス障害の発症要因に関しては,性別(女性)がPTSD発症の独立した因子であることに加え32),ICU入室前における抑うつや不安,PTSDの既往,低い教育歴,アルコール依存症が発症リスクを増加させると報告されている33).さらに,長期的なメンタルヘルス障害の合併は,患者のQOLを低下させ,復職を遅延させる独立したリスク因子であることも明らかにされていることから3),その早期発見と介入が重要となる.
メンタルヘルス障害の評価ツールとしては,不安・抑うつについてはHADS(Hospital Anxiety and Depression Scale)34),PTSDはIES-R(Impact of Event Scale-Revised)35)が多くの研究で用いられ,いずれの評価尺度も信頼性と妥当性が証明されている.HADSは不安7項目,抑うつ7項目を自己記入式質問紙で評価し,0~7点が不安または抑うつ症状なし,8~10点が疑診,11点以上が確診と判定される.同様に,IES-Rも自己記入式質問紙で侵入症状8項目,回避症状8項目,過覚醒症状6項目が評価され,PTSD症状が高い患者をスクリーニングする目的では,25点以上をカットオフ値とし要支援者と判定される.また,IES-Rは心理検査法として保険診療報酬対象の認可を得ている.
PICSは,重症疾患自体に起因する機能障害に加え,医療・ケア介入,ICU環境要因(アラーム音,光,閉塞空間,面会制限),患者の精神的要因(不眠をはじめとする種々のストレス,自分の疾患や経済面,家族の不安)などが相互かつ複雑に関連して発症すると考えられている36).これに対して,福家37)が指摘しているPICSの予防策としては,①「重症疾患」に対する適切な早期治療,②「医療・ケア介入」に関しては,根拠の乏しい侵襲的治療の回避,低侵襲治療,人工呼吸器からの早期離脱,ICU早期退室,せん妄予防,早期リハビリテーション,③「ICU環境要因」に対する環境整備,耳栓の使用,ICU関連感染症予防の徹底,④「患者の精神要因」に関しては患者や家族のメンタルケア,ICU日誌,面会時間の見直しなどが挙げられている.
加えて,PICSの予防・治療戦略として,日中覚醒,自発呼吸トライアル,鎮痛・鎮静薬の選択,せん妄の評価と管理,早期リハビリテーション,家族を含めた対応,次のケア提供者への引き継ぎ,PICSに関する情報提供などの包括的アプローチ,すなわち「ABCDEFGHバンドル」(図3)33)がある.これらを実現するためには,多職種で構成される医療チームで取り組む必要がある.Punら38)は,GHを除くABCDEFバンドルの遵守率と患者中心アウトカムとの関連を調査し,バンドルの遵守率が高いほど,生存率や人工呼吸器の使用,昏睡やせん妄,身体拘束の使用,ICU再入室,ICU退室後の転帰に関して,臨床的に有意な改善を認めたと報告している(図4).しかし,PICSによる影響は長期に渡って遷延するものであるため,ICU在室中のみならず退室後から転院あるいは退院後も継続して評価する必要があり,地域におけるシームレスな援助が必要と考える.

A=毎日の覚醒トライアル,B=毎日の呼吸器離脱トライアル,C=A+Bの実践,鎮静・鎮痛薬の選択,D=せん妄のモニタリングとマネジメント,E=早期離床・運動,F=家族を含めた対応,転院先への紹介状,G=良好な申し送り伝達,H=PICSやPICS-Fに関する書面での情報提供

現状の課題としては,PICSに対する認知度が低いことが挙げられる.日本集中治療医学会PICS対策・生活の質改善検討委員会が行った本邦の急性期診療現場におけるアンケート調査39)では,対象者全体(医師,看護師,理学療法士・作業療法士)におけるPICSの認知度は61%であった.一方,地域のかかりつけ医を対象としたアンケート調査では16%と更に低い結果であった40).本アンケート結果を踏まえ,隅田40)は,PICSに関する地域医療との連携と課題について,かかりつけ医へのPICSの啓発活動(勉強会の開催,パンフレットの作成),急性期病院とのPICSを含む患者情報の共有(診療情報提供書に詳細の記載,急性期病院の医療スタッフと地域医療施設の事例検討会),各専門職との連携体制(多職種でのフォローアップ),行政との連携(住み慣れた地域で療養できる環境作り,地域包括ケアシステム)を挙げている.ICU患者が社会復帰を目指すためにも医療者さらには一般市民によるPICSの認知度向上,介護や福祉との連携が必要不可欠であり,今後はPICSを有する重症患者の長期的なフォローアップ体制の構築が急務である.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.