非がん性呼吸器疾患の難治性呼吸困難に対して最大限の標準治療に緩和的非薬物療法を上乗せしても症状が持続・悪化する場合には緩和ケアとしての薬物療法としてモルヒネや抗不安薬(ベンゾジアゼピン)の使用を検討する.非がん性呼吸器疾患の難治性呼吸困難に対するオピオイドの効果については過去に多くのランダム化比較試験が行われてきたが未だ一致した結論はなく,ベンゾジアゼピンについては有効性のエビデンスはない.モルヒネを使用する際には対象患者(患者条件)を慎重に検討し,速放性モルヒネを低用量から開始し1日用量 30 mgを超えない範囲で調整し,治療効果が確認できなければ使用を中止する.
第32回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会 シンポジウム3
非がん性呼吸器疾患による呼吸困難については過去に多くの報告がある.進行した慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)患者の90%以上,特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis: IPF)では診断時の90%以上に認められること1).呼吸困難は終末期COPD患者に最も高頻度(約2/3)に認められる症状であり,非がん性呼吸器疾患患者にとって最大の苦痛でその頻度と持続時間は肺がんを凌ぐことが報告されている2,3).我が国からも桂らがCOPD終末期の対応に苦慮する症状の中で最も多く認められ(84%),その頻度は肺がんを凌ぐことを報告している4).
本稿では非がん性呼吸器疾患の難治性呼吸困難に対する薬物療法について緩和ケア的薬物療法であるオピオイドを中心にこれまでの主なエビデンスと現状について解説する.
COPD患者の難治性呼吸困難に対しては先ずガイドラインに沿った最大限の治療を試みる.その中には長時間作用型気管支拡張薬の吸入を主とした薬物療法の他に呼吸リハビリテーションと在宅酸素療法が含まれる.ガイドラインに沿った最大限の治療を行ってもなお呼吸困難が持続・悪化する場合には緩和ケアとしての非薬物療法を上乗せする.この中にはコンディショニングを主体とした緩和的リハビリテーションや看護ケア,高流量鼻カニュラ(high flow nasal cannula: HFNC),非侵襲的陽圧換気療法(non-invasive positive pressure ventilation: NPPV)が含まれる.緩和ケア的非薬物療法を上乗せしても症状が持続・悪化する場合には緩和ケアとしての薬物療法としてモルヒネや抗不安薬(ベンゾジアゼピン)の使用を考え,許容できる呼吸困難レベルを目指すこととなる(図1)5).日本呼吸器学会のガイドラインにも終末期COPDの呼吸困難への対処として,標準的治療が完全に行われていても呼吸困難が持続・悪化する場合には症状緩和のための非薬物療法を上乗せすること,それでも呼吸困難が改善されない場合にはオピオイド(モルヒネ,コデイン)や抗不安薬(ベンゾジアゼピン系薬)の使用が考慮されることが明記されている6).

IPF終末期においても呼吸困難は生活の質を規定する最も重要な因子であり,最終末期のエンドオブライフケアではオピオイドとベンゾジアゼピンの併用,モルヒネの持続皮下注,ミタゾラムによる鎮静が考慮されるべきことが我が国のガイドラインにも記載されており実臨床で広く使用されている7,8).
進行した気管支拡張症における緩和ケアでは膿性痰・排痰困難・繰り返す気道感染に対する治療が主体となるため,薬物療法の主体もマクロライド系抗菌薬と喀痰調整薬,気管支拡張薬となる.薬物療法に非薬物療法を組み合わせた気道クリアランスが緩和ケアの中心となり,呼吸困難に対するオピオイド投与に関してエビデンスはなく実臨床でも経験が乏しい7).
モルヒネによる呼吸困難緩和のメカニズムについては十分解明されていないが,①呼吸ドライブを抑制し呼吸回数や分時換気量を減少させる,②中枢での呼吸困難の閾値を変化させる,③低酸素血症・高二酸化炭素血症に対する換気応答を低下させる,④不安感を軽減させる,といった作用が仮説として挙げられている7,9).
非がん性呼吸器疾患の呼吸困難に対するオピオイドの効果については過去に複数のランダム化比較試験が行われているが,その結論は一致していない.EkströmらはCOPD患者の呼吸困難と運動耐容能に対するオピオイドの有用性について16論文のメタ解析を行い,オピオイドは呼吸困難を緩和するが運動耐容能については改善しないことを報告した10).その後Abdallahらは進行したCOPD患者20名を対象にモルヒネ速放製剤の運動耐容能に対する効果を検討し,20名中11名でプラセボに比べて呼吸困難と運動耐容時間が改善したことを報告した11).Currowらは修正MRCスケール(modified British Medical Research Council: mMRC)2以上の慢性時呼吸困難を有する患者284名(6割がCOPD)を対象にモルヒネ 20 mg/日もしくはプラセボを7日間投与し呼吸困難の改善効果を検討した多施設ランダム化比較試験を行ったが,主要評価項目である呼吸困難のvisual analogue scale(VAS)の変化量については両群で有意差を認めなかった12).VerberktらはmMRC 2以上の呼吸困難を有するCOPD患者111名を対象にモルヒネ徐放製剤 20 mgもしくはプラセボを4週間投与し,COPDアセスメントテスト(COPD Assessment Test: CAT)とPaCO2を主要評価項目としたランダム化試験を行い,モルヒネはプラセボに比べCATスコアを有意に改善しPaCO2については両群間で有意差を認めないことを報告した.副次評価項目である呼吸困難のnumerical rating scale(NRS)に関しては両群間で有意差を認めなかったが,mMRC 3以上の群ではモルヒネ投与群で呼吸困難のNRSは有意に改善した13).Kronborg-Whiteらは線維化を伴う間質性肺炎患者36名を対象に速放性モルヒネ製剤1回 5 mg 1日4回(計 20 mg)もしくはプラセボを7日間投与し比較検討するランダム化比較試験を行った.主要評価項目である1週間服用後の呼吸困難VAS変化量は両群間で有意差を認めなかった14).
日本からの報告ではTakeyasuらが間質性肺炎終末期患者22名を対象にモルヒネ持続静注の効果を検証し,22名中17名(77%)で呼吸困難が改善したことを報告した15).Matsudaらは間質性肺炎終末期患者25名に対するモルヒネ持続皮下注の効果を検証し,呼吸困難NRSが開始4時間後に有意に改善することを報告した16).さらにMatsudaらはCOPD患者34名を対象にモルヒネ速放製剤を経口投与(1回 3 mg 1 日4回)し,投与2日後に夜間の呼吸困難NRSが有意に改善したことを報告した17).
Ekströmらは在宅酸素療法施行中の重症COPD患者に対するベンゾジアゼピンとオピオイドの安全性についてコホート研究を行い,経口モルヒネ換算で 30 mg/日以下の低用量オピオイドは死亡リスクに影響を与えないが,30 mgを超える高用量では死亡リスクを21%増大させることを報告した.またベンゾジアゼピンは低用量(18%)・高用量(23%)ともに死亡リスクを増大させた18).Bajwahらは間質性肺炎患者に対するベンゾジアゼピンとオピオイドの安全性についてコホート研究を行い,ベンゾジアゼピンは低用量では死亡リスクを増大させないが高用量では増大することを報告した.オピオイドは低用量,高用量ともに死亡リスクを増大させなかった19).Simonらは進行がん患者とCOPD患者を対象にベンゾジアゼピンの呼吸困難改善効果についてメタ解析を行い,ベンゾジアゼピンはプラセボと有意差を認めないことを報告した20).
非がん性呼吸器疾患患者の難治性呼吸困難に対しモルヒネを使用する際には,先ず対象患者(患者条件)を慎重に検討する必要がある.必須条件として,①原疾患が進行した状態であること,②標準治療が最大限おこなわれていること,③モルヒネの禁忌がないこと,④モルヒネ投与量に影響する因子(肝・腎・呼吸機能)の評価が行われていること,⑤事前に患者・家族への説明と同意が十分得られていること,が挙げられる.モルヒネ使用時のインフォームド・コンセントにおいては医療者側からの一方的な説明にならないよう配慮することが肝心である.「モルヒネは癌に使用する薬ではないのか?」,「もう助からないということなのか?」,「モルヒネを使うと寿命が縮まるのでは?」,「モルヒネで意識を飛ばすのか?」等,患者・家族はモルヒネに対して誤解や不安を抱えていることも多い.インフォームド・コンセントの場では患者・家族に寄り添い,彼らが抱えている心配や不安について十分傾聴した上で,正しい情報を提供しながら根気よく誤解や不安を取り除いていくことが必要である.「モルヒネは癌だけに使用する薬ではないこと」,「正しく使用すれば非常に安全な薬で,寿命を縮めることはないこと」,「モルヒネは眠らせたり,意識を飛ばす薬ではないこと」,「モルヒネを使用することで呼吸困難を緩和できれば体力を温存でき精神的安寧を図ることができること,そのことがQOLや生命予後の改善に繋がる可能性もあること」等,患者・家族の反応を観ながら繰り返し根気よく説明する.
実際の使用に当たっては,①速放性モルヒネを低用量から開始し1日用量が 30 mgを超えないこと,②治療効果はVASやNRSを用いて継続的に評価し,効果が確認できなければ漫然と使用せず中止すること,③有害事象(特に便秘と悪心・嘔吐)の観察を慎重におこない対処すること,④難治性呼吸困難に対してのみ投与を考えること,などに留意する.
図2に実臨床におけるオピオイド使用時のアルゴリズムを示す7).先ず初めにオピオイド使用条件を満たしているかを慎重に確認し,経口剤を使用する際にはモルヒネ速放性剤1回 2~5 mgから投与を開始し,効果と副作用をチェックしながら1日用量 30 mgを超えない範囲で用量調整を行う.また注射剤を使用する際にはモルヒネ注 0.25~0.5 mg/時から開始し,導入初期には30~60分おきに効果と副作用をチェックしながら調整を行う.

非がん性呼吸器疾患患者の難治性呼吸困難に対するモルヒネの効果については過去に多くのランダム化比較試験が行われてきたが未だ結論は一致していない.どのような患者にモルヒネが有効なのか,サブグループを明確化する必要がある.またいつから開始するのか,長期使用時の安全性と有用性についても検証されていない.保険適用上我が国で使用できるのは速放製剤であるモルヒネ塩酸塩水和物のみで欧米で使用されている徐放製剤の適用がない.神経内科領域では「筋委縮性側索硬化症(ALS)と筋ジストロフィーの呼吸困難時の除痛」に対してモルヒネ徐放製剤の使用が保険審査上認められている.呼吸器内科領域でも徐放製剤の使用に関して学会を挙げての取り組みが望まれる.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.