2026 年 35 巻 3 号 p. 190-197
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は進行性かつ全身性の炎症性疾患であり,呼吸困難や運動耐容能の低下によりQOLが著しく損なわれる.近年,鍼治療がCOPDにおける補完的治療として注目され,呼吸困難や運動耐容能の改善に関する有効性が国内外の臨床研究やシステマティックレビューにより報告されている.また,COPDに対する鍼治療の基礎的研究も進んでおり,鍼治療の抗炎症効果に起因する栄養指標の改善も分かってきている.鍼治療は安全性が高く,薬物療法と併用可能である点も利点であり,COPDにおける新たな治療選択肢としての可能性が期待される.
第32回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会 シンポジウム3
慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)は高齢化社会に伴い急速に増加している疾患であり,厚生労働省の調査によれば受診者数は36.2万人と報告されており,統計的予測値との乖離があるため潜在的なCOPD患者がいることが推測されている.
日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版では,管理目標として「現状の改善(①症状およびQOLの改善,②運動耐容能と身体活動性の向上および維持)」と「将来リスクの低減(①増悪の予防,②疾患進行の抑制および健康寿命の延長)」が上げられており,これまでの研究結果から多くの成果が報告されている.一方,COPDガイドラインで推奨されている標準的な薬物療法と呼吸リハビリテーションを行っても,労作時呼吸困難などの呼吸器症状は進行する可能性があり,これらの治療だけでは不十分なため,疾患管理を強化しながら疾患の進行を遅らせる対策が求められている1,2).
日本伝統医学の一つである鍼治療は古来より気管支喘息を始めとする呼吸器疾患にも用いられている.近年ではCOPDの呼吸困難に臨床応用が始まっており,COPDに対する鍼治療については1986年にJobstらが初めてLancetにrandomized control trial(RCT)を報告した3).この当時はCOPDの概念も確立されていなかったため,気管支喘息やその他の類縁疾患も対象患者に含まれていた.結果としては,プラセボ群と比較して鍼治療群ではvisual analogue scale(VAS)で評価した呼吸困難やsix-minute walk test(6MWT)におけるmodified Borg scale(MBS)の改善が報告された3).さらにJobstは呼吸器疾患を対象とした鍼治療の安全性について報告しており,RCTが実施された16論文から2,937名の患者を対象に検討した結果,安全性においては軽度の内出血や鍼治療直後の眩暈や倦怠感は認めたものの,生命を脅かす有害事象の発生は無かったと報告している4).その後,2000年代に入りCOPDに関する鍼治療の臨床研究が進み,臨床試験に加えてsystematic review(SR)/meta analysis(MA)なども報告されており,Luoらは17件のRCT研究から1,165人を対象に鍼治療群(鍼治療単独,鍼治療+標準治療を含む)と対照群(標準治療,標準的治療+sham鍼治療を含む)を比較した結果,鍼治療群は対照群と比較して1秒率において有意な改善を示した(weighted mean difference(WMD)=3.50%,95%CI:2.05 to 4.95,I2=83%).さらに,St. George’s respiratory questionnaire(SGRQ)およびCOPD assessment test(CAT)においても鍼治療群で有意な改善が認められていた(SGRQ: WMD=-8.25,95%CI:-11.38 to -5.12,I2=85%,CAT: WMD=-2.91,95%CI:-3.99 to -1.83,I2=71%)5).
当該研究は論文間での異質性は高いため結果の解釈には慎重を有するが,感度分析を実施しており類似結果が得られているので,データの頑健性は保たれているとしている.
筆者らはこれまでCOPDの労作時呼吸困難や運動耐容能に対して鍼治療を行い,その臨床効果を検討してきた6).今回はこれらの結果を踏まえてCOPDに対する鍼治療の意義について述べていきたい.
日本における鍼灸の歴史は飛鳥時代に百済から仏教とともに医術が伝わったことから始まっている.その後,1400年の歴史を経ながら日本独自の発展を遂げてきた.鍼というデバイスは9種類(切る,擦る,刺す,等)あり,最も一般的なものに毫鍼(ごうしん)がある.毫鍼は刺すタイプの鍼であり,日本の毫鍼は細いためガイドチューブが付いているのが特徴である(図1A).一方,諸外国の鍼は太いためガイドチューブが無い.日本の毫鍼は太さが 0.10 mmから 0.30 mmまでを利用しており,経穴のみを刺激する鍼のため先端が丸く加工されている.そのため,刺す際の痛みが少なく組織への損傷も軽度である(図1B).

図1A 日本で使用されている毫鍼
ガイドチューブ(鍼管(しんかん))が付いているのが特徴である.鍼の先端の色は太さを表している(緑 0.14 mm,赤 0.16 mm,黄 0.18 mm,水色 0.20 mm).
図1B 日本で使用されている毫鍼の鍼先
鍼先を表している.先端が丸く加工されているため,鍼を刺入した際の痛みが軽減できるように工夫がされている.
セイリン株式会社の許可を得て掲載.
図1C 疾患モデル動物の経穴感作
心負荷モデル動物にエバンスブルーを投与すると,心臓に関係する経絡と経穴(前足尺側)に染色スポットが発生した.
文献7より引用
図1D 疾患モデル動物の経穴感作
急性胃粘膜障害モデル動物において,胃と同レベルの神経支配領域の皮膚神経線維中のサブスタンスP や CGRP などの炎症性メディエータが賦活され,肥満細胞を介して経穴が感作を起こす.
文献8より引用
経穴は世界保健機構が標準経穴を定めており,経穴名称は361カ所である.左右に同名の経穴があるため,全身では670カ所の経穴が存在している.経穴は経絡(けいらく)という臓器の名前が付いている線上に配置されているが,なかには経絡上に配置されていない経穴もあるため,合わせせると約700カ所程度の経穴が人体には存在している.経穴は疾病や特定の症状が出現した際に反応を表す点であり,且つ,治療を行う場所として鍼灸診療では大切にしている.
近年,経穴に関する基礎研究が進んでおり,経穴が配置されている場所を解剖学的に検証すると凡そ主幹の神経や血管があり,組織学的には神経-血管の複合体が存在し自律神経が多く分布している.また,実験的に心負荷モデル動物を作成して動物にエバンスブルーを投与すると,心臓に関係する経絡と経穴(前足尺側)に染色スポットが発生する.この領域はC6からT3までのエリアで確認され,染色された経穴(前足尺側)と心尖部に逆行性トレーサを注入すると脊髄後根神経節(dorsal root ganglion: DRG)で内臓感覚ニューロンと体性感覚ニューロンが収束していることが明らかにされている7)(図1C).さらに,別の基礎研究ではラットの胃に塩酸を負荷して急性胃粘膜障害を作成したところ,胃と同レベルにある脊髄神経のDRGを活性化させており,軸索反射と脊髄反射により順行性および逆行性に末梢へ刺激が伝達される.その過程で胃と同レベルの神経支配領域の皮膚神経線維中のサブスタンスPやCGRPなどの炎症性メディエーターを賦活することで,肥満細胞が活性化される.活性化した肥満細胞は,いくつかの痛覚物質(ヒスタミンおよびセロトニン)を放出し,局所の経穴で痛覚過敏を引き起こすことが明らかとなった8)(図1D).
経穴にはこのようなメカニズムを有していることが多く,疾病により該当する経穴に感作が起こるため小径の鍼で刺激しても,多くの神経発火が起こる場所として認識されるようになった.
COPDにおける鍼治療の意義は,薬物治療やリハビリテーションなどの現代医学の補完的役割と考えられる.鍼治療における治療的な強みは,東洋医学的な証からのアプローチに加えて鍼という物理的刺激による皮膚や筋肉への直接的な効果が期待できる点である.さらに,鍼治療は非薬物療法のため薬剤との併用が容易であり,安全性も高いため利用しやすいことが上げられる.加えて,呼吸困難のみならずCOPD特有の栄養障害や全身性炎症などにも効果が認められているため,今後本分野の研究が発展することで,COPDに対する新たな治療法になり得る可能性に期待を寄せている.
特に,鍼は筋への直接的アプローチが可能なデバイスであるため,筋に対して大きな影響を与えることができる.伊藤ら,Kawakitaらは,ヒトを対象とした実験において,筋への過剰負荷を与えることで筋疲労や筋痛を発生させると,当該筋は筋電図で自発的な放電が認められる.当該筋に鍼刺激を与えると脊髄反射(Ia-Ib抑制)が起こり,自発的な筋放電が消失し疲労感や疼痛が軽減することを報告している9,10).これは筋の自発的な収縮によって,筋内の血流低下がおこりプロスタグランディンや乳酸などの疲労物質や発痛物質が蓄積することで疲労感や疼痛が発生するが,鍼刺激により筋弛緩がおこることで各物質の代謝が進むと考察されている.
加えて,最近の知見では鍼刺激により筋萎縮を予防できることが分かってきている.筋萎縮にはいくつかの原因があるが,その一つに筋内のミオスタチンの発現がある.既知の通りであるが,ミオスタチンはヒトではMSTN遺伝子によってコードされるタンパク質であり,筋細胞によって産生および放出されるミオカインの一種で筋肉細胞に作用して筋肉の成長を阻害する11).
Takaokaらは,動物を用いてラットの尾を懸垂し後肢を非重力下とすることで筋委縮モデルを作成した.懸垂下垂にてラットの後肢は筋委縮を起こすが,萎縮筋内(ここではヒラメ筋)ではMSTN遺伝子が増加しているのに対して,懸垂時点からヒラメ筋に鍼通電刺激を行っていると,MSTN遺伝子発現が抑制できることを報告している.同時に鍼刺激により筋が微細な障害を受けると筋周囲でマクロファージが集簇することで,マクロファージを監視しているサテライトセルの発現が起こり,ミオスタチンは抑制される12).従って,鍼刺激には筋緊張緩和だけでなく,萎縮を予防していく効果が期待できる.
一方,COPD患者は換気障害に伴い,呼吸筋(補助筋も含む)の筋疲労について報告されており,呼吸困難の要因として上げられている.さらに,栄養障害も加わることで異化作用によって筋は萎縮していく.従って,COPDにおける呼吸筋の疲労改善や筋萎縮に対して鍼治療が有用である可能性が考えられる.
COPDの呼吸困難に対する鍼治療については,先行研究で有用性が示されている13).
von Trottらの報告では,COPDの呼吸困難について鍼治療群(経穴指圧を含む)とsham鍼治療群(経穴指圧を含む)を比較したところ,鍼治療群で有意な改善が認められた[standardized mean difference(SMD)=-2.53,95% CI:-4.07, -0.99,I2=91%]13).
筆者らの行ったRCTでは,標準治療に加えて週1回12週間の鍼治療もしくはプラセボ鍼治療を行い,dyspnea on exertion(DOE)を6MWTの際のMBSにて評価をした.その結果,ベースライン値から12週間後の評価では,鍼治療群は5.5±2.8 unitから1.9±1.5 unitであったのに対して,プラセボ群では4.2±2.7 unitから4.6±2.8 unitと鍼治療群で有意な改善(mean difference(MD)=-3.58, 95%CI: -4.27 to -2.90)が得られた14)(図2A).

図2A 鍼治療期間前後における6分間歩行試験後の労作時呼吸困難(Modified Borg Scale(MBS))の変化
ベースライン値から12週間後の評価では,鍼治療群は5.5±2.8 unitから1.9±1.5 unitであったのに対して,プラセボ群では4.2±2.7 unitから4.6±2.8 unitと鍼治療群で有意な改善(Mean difference(MD)=-3.58, 95%CI: -4.27 to -2.90)が得られた.
文献14を引用改変
図2B 鍼治療期間前後における6分間歩行距離の変化
ベースライン値と比較して12週間後では,鍼治療群373.2±115.2 mから436.7±101.0 m,プラセボ鍼治療群405.2±111.2 mから385.8±118.3 mと鍼治療群で有意な改善が認められた(MD=78.68 m, 95%CI: 54.2 to 103.2).
文献14を引用改変
運動耐容能については,鍼治療の臨床試験では6分間歩行試験を評価として用いていることが多く,Fanらの報告(SR/MA)では896名を対象にコントロール群と比較して鍼治療群で有意な6MWDの延長が認められている(WMD=45.48 m,95% CI: 28.21 to 62.16,I 2=94%)15).また,筆者らの行ったRCTでは,6MWDはベースライン値と比較して12週間後では,鍼治療群373.2±115.2 mから436.7±101.0 m,プラセボ鍼治療群405.2±111.2 mから385.8±118.3 mと鍼治療群で有意な改善が認められた(MD=78.68 m, 95%CI: 54.2 to 103.2)(図2B).
鍼治療における歩行距離の改善について臨床的メカニズムを明らかにするため,筆者らは因果媒介分析を用いて検討を行った結果,鍼治療による歩行距離の延長を説明する因子として,DOEの改善が88.1%,下肢疲労の改善が42.1%であり共同媒介因子の影響は107.0%であった16).この結果の解釈は,鍼治療によって歩行距離が延長した要因として88.1%がDOEの改善が関与しているということである.
COPDの臨床試験の多くは8週間から12週間程度の介入を比較した試験であるが,長期的な効果を調べた研究は無かったため,筆者らは52週間の介入効果を検討した.鍼治療群(標準治療+鍼治療)と標準治療群の2群間比較では,6MWT後のMBSはベースライン値と52週間後では,鍼治療群5.2±1.7 unitから1.8±1.6 unitであり,標準治療群5.7±2.5 unitから6.0±2.7 unitと鍼治療群で有意な改善が認めらた(MD=-3.8 unit, 95%CI: -5.3 to-2.2).また,6MWDは鍼治療群387.3±115.2 mから463.7±121.7 mであり,標準治療群366.2±126.0 mから331.0±137.0 mと鍼治療群で有意な改善が認めらた(MD=112.0 m, 95%CI: 62.0 to 162.0)17).
これらの報告はガイドラインで推奨されている標準的治療を受けている患者に対して鍼治療を併用しており,標準的治療の上乗せ効果として鍼治療が期待できると推察している.
一方,COPDにおける呼吸困難の発生については,複合的な要因で呼吸困難を発生していると報告されている.現段階で呼吸困難の発生機序には2つの説が有力視されおり,中枢-末梢ミスマッチ説とmotor command説がある18).
呼吸困難の発生において,鍼治療が効果を及ぼす機序について幾つか推察できる.1つは,機械的受容器から発生する呼吸困難であり,COPDの場合は肺過膨張とOver useに伴う呼吸補助筋の緊張により胸郭の可動域が制限されてることで,胸郭拡張差の低下によって呼吸困難が認められる.一方,COPD患者を対象とした鍼治療のRCTでは,プラセボ鍼治療群の治療期間前後の胸郭拡張差は-0.1±1.5 cmであったのに対して,鍼治療群では治療期間前後は3.1±2.1 cm(MD=3.20 cm,95%CI: 2.28 to 4.12)と有意に胸郭拡張差の改善が認められている14).従って,鍼治療により胸郭の可動性が向上することに,中枢-末梢ミスマッチが是正され呼吸困難が軽減している可能性が考えられる.
さらに,鍼刺激は末梢神経であるC線維を伝わり脊髄後角から中脳中心灰白質を経て,下降性疼痛抑制を起こすことが知られている.低頻度の持続的な鍼刺激はβエンドルフィンなどのモルヒネ様物質を放出することで強い鎮痛効果が得られる19) .一方,モルヒネは呼吸困難に対して効果が示されている.Aliceらは,COPD患者に対して経皮的経穴神経電気(transcutaneous electrical acupoint stimulation: TEAS)とプラセボTEAS(通電を行わないTEAS)を用いて呼吸器疾患に頻用される経穴(定喘穴)を 2 Hz,45分間刺激を行う治療を行った結果,プラセボTENS群と比較してTENS群では末梢血中のβエンドルフィン値の有意な上昇とdyspnea VASで評価した呼吸困難の改善を報告している20).また,動物実験では,β-エンドルフィンが β-アドレナリン受容体介在性気管支拡張を介して気管支運動緊張を調節することが示唆されてる21).
上記の知見から,COPDの呼吸困難に対して鍼治療は,末梢レベルでは呼吸補助筋の緊張緩和と筋疲労の改善により胸郭の可動性が向上し,十分な呼吸運動が担保されることで,呼吸困難が改善すると考えられる.また中枢レベルでは,鍼刺激によるオピオイドの賦活に加えて,気管支拡張を起こすことで呼吸運動が改善し中枢-末梢ミスマッチが是正され呼吸困難が緩和すると考えられる.
COPD患者は高頻度で栄養障害を有していることが知られており,体重やBMIが独立した予後因子である.さらに,栄養障害はCOPDの呼吸困難や運動耐容能に関連がある.
COPDにおける栄養障害の要因は,食欲不振やresting energy expenditure(以下REE)の増大に反映される代謝亢進が挙げられる.REE増大は閉塞性換気障害による換気効率の低下と呼吸筋疲労に基づく呼吸筋仕事量の増大に関連が認められている.加えて,COPD患者は増悪期のみならず,安定期でも血中のtumor necrosis factor-α(TNF-α)やinterleukin-6(IL-6)などの炎症性メディエータ―やCRPが増加しており,全身性炎症が認められ,炎症による栄養障害の他にも骨格筋機能障害などにも関連が認められる.
一方,筆者らの行ったRCTにおいては,プラセボ鍼治療群と比較して鍼治療群ではBMIの有意な改善が認められた14).この効果には2つの機序が考えられ,1つは胃の機能に関係している経穴(足三里穴)に鍼刺激を行うことで,胃運動の亢進が起こり胃排出能を改善することができるため,食欲不振の改善に貢献できる22) .2つ目は鍼治療による抗炎症効果が考えられる.Liuらは動物実験においてラットの腹部にlipopolysaccharide(LPS)を注入し腹膜炎を起こさせることで,TNF-α,transforming growth factor-β(TGF-β),monocyte chemoattractant protein-1(MCP-1)などの炎症性サイトカインが産生される.この状態で足三里穴(ST36)に鍼刺激を持続的に行うと,足三里穴直下にある前脛骨筋内に存在しているPROKR2受容体を介して,鍼刺激が脊髄後角神経節から延髄迷走神経背側運動核を経由して迷走神経遠心路から副腎に到達することで,副腎髄質よりドパミンが賦活される.ドパミンが賦活されると各種サイトカインの低下が起こり,モデル動物の予後が延長することが報告されている23).
筆者らはCOPDに対して1週間に1回12週間の鍼治療を行い,プラセボ鍼治療群と比較した結果,鍼治療群ではTNF-α,IL-6,高感度CRPなどの炎症バイオマーカーが有意に低下するだけではなく,プレアルブミン,トランスフェリン,レチノール結合タンパクなどの栄養マーカーの改善を認めた24).さらに,長期の臨床試験でも類似の結果を認めている17).
従って,COPDの栄養障害に対する鍼治療は,食欲不振の改善だけでなく,全身性炎症を抑制することで,栄養状態の改善に寄与していると推察できる.
現在,COPDに対する鍼治療によって起こるメカニズムパスウェイに関しては,研究が進行しており本誌面では掲載しきれないため参考として表1にまとめたので,興味がある先生は参照して頂ければ幸いである25,26).
| Factor/Pathway | Direction | Factor/Pathway | Direction |
|---|---|---|---|
| 5-HT | ↓ | MyD88 | ↓ |
| ACTH | ↓ | NF-κB | ↓ |
| ACh | ↓ | NF-κB mRNA | ↓ |
| AChE | ↓ | NF-κB p65 | ↓ |
| AMPK | ↓ | NF-κB p65 mRNA | ↓ |
| AMPK mRNA | ↓ | NLRP3 | ↓ |
| ASC | ↓ | OX | ↓ |
| Ac-NF-κB p65 | ↓ | OX mRNA | ↓ |
| Annexin 2 | ↓ | OX1R | ↓ |
| Beclin1 | ↓ | OX1R mRNA | ↓ |
| Beclin1 mRNA | ↓ | OX2R | ↓ |
| CAP | ↑ | OX2R mRNA | ↓ |
| CD44 | ↓ | OXA | ↓ |
| CD63 | ↓ | OXB | ↓ |
| CD74 | ↓ | OXR | ↓ |
| CD86 | ↓ | OXR mRNA | ↓ |
| CGRP | ↓ | P2X3 | ↓ |
| CL | ↑ | PNECs | ↓ |
| CRH | ↓ | PPARγ | ↑ |
| Cdyn | ↑ | PPO mRNA | ↓ |
| Cndy | ↑ | RI | ↓ |
| Cort | ↓ | RL | ↓ |
| DA | ↑ | SIRT1 | ↑ |
| EGFR | ↓ | SIRT1 mRNA | ↑ |
| ERK1/2 | ↓ | SIRT1/NF-κB | ↑ |
| FRC | ↓ | STAT3 | ↓ |
| GR | ↓ | TGF-α | ↓ |
| HDAC2 | ↑ | TGF-β | ↓ |
| IL-10 | ↑ | TGF-β1 | ↓ |
| IL-10 mRNA | ↑ | TIMP-1 | ↓ |
| IL-17 | ↓ | TLR-4 | ↓ |
| IL-17R | ↓ | TLR-4 mRNA | ↓ |
| IL-17R mRNA | ↓ | TNF-α | ↓ |
| IL-1β | ↓ | ULK1 | ↓ |
| IL-2 | ↓ | ULK1 mRNA | ↓ |
| IL-23 | ↓ | caspase-1 | ↓ |
| IL-6 | ↓ | dopamine D2 receptor pathway | ↑ |
| IL-6 mRNA | ↓ | iNOS | ↓ |
| IL-8 | ↓ | lymphocytes | ↓ |
| IκB | ↓ | mTOR | ↑ |
| JAK2 | ↓ | mTOR mRNA | ↑ |
| JNK | ↓ | macrophages | ↓ |
| LC3II/LC3I | ↓ | monocytes | ↓ |
| MAN | ↑ | neutrophils | ↓ |
| MDA | ↓ | p38 MAPK | ↓ |
| MIF | ↓ | α7nAChR | ↓ |
| MMP-9 | ↓ | ||
| MUC5AC | ↓ |
Abbreviations: Ach: acetylcholine; AChE: acetylcholinesterase; ACTH: adrenocorticotropic hormone; AM: alveolar macrophage; AMPK: AMP-activated protein kinase; ASC: apoptosis-associated speck-like protein containing a caspase-1 recruitment domain; Beclin1: autophagy-related protein 6(ATG6); CAP: cholinergic anti-inflammatory pathway; CD: cluster of differentiation; CD44: cluster of differentiation 44; CD63: exosome marker CD63; CD74: cluster of differentiation 74; CD86: cluster of differentiation 86; CGPR: calcitonin gene-related peptide; CL: lung compliance; Cort: corticosterone; CRH: corticotropin-releasing hormone; CyDn: dynamic lung compliance; DA: dopamine; DT: diaphragmatic tissue; EGFR: epidermal growth factor receptor; ERK1/2: extracellular signal-regulated kinase 1/2; GR: glucocorticoid receptor; HDAC2: histone deacetylase 2; IFN: interferon; IL: interleukin; IL-1β: interleukin-1 beta; IL-6: interleukin-6; IL-6 mRNA: mRNA expressions of interleukin-6; IL-8: interleukin-8; IL-10: interleukin-10; IL-17: interleukin-17; IL-17R: interleukin-17 receptor; IL-17R mRNA: RNA expressions of interleukin-17 receptor; IκB: inhibitor of nuclear factor kappa B; JAK2: Janus kinase 2; JNK: c-Jun N-terminal kinase; LC3I/II: microtubule-associated protein 1 light chain 3 I/II; LFM: lateral femoral muscle; LT: lung tissue; MA: manual acupuncture; MAN: mean alveolar number; MAPK: mitogen-activated protein kinase; MDA: malondialdehyde; MIF: macrophage migration inhibitory factor; MMP-9: matrix metalloproteinase-9; mRNA: messenger ribonucleic acid; mTOR: mammalian target of rapamycin; MyD88: myeloid differentiation primary response 88; NF-κB: nuclear factor kappa B; NF-κB mRNA: mRNA expressions of nuclear factor kappa B; NF-κB p65: nuclear factor kappa B p65 subunit; NF-κB p65 mRNA: mRNA expressions of nuclear factor kappa B p65; NLRP3: NOD-like receptor protein 3; OXA: orexin-A; OXB: orexin-B; OX1R: orexin-1 receptor; OX2R: orexin-2 receptor; OX1R mRNA: mRNA expressions of orexin-1 receptor; OX2R mRNA: mRNA expressions of orexin-2 receptor; P2×3: purinergic receptor P2X3; PNECs: pulmonary neuroendocrine cells; PPE: porcine pancreatic elastase; PPARγ: peroxisome proliferator-activated receptor gamma; PPO mRNA: prepro-orexin mRNA; RI: inspiratory resistance; RL: lung resistance; SIRT1: sirtuin type 1; SIRT1 mRNA: mRNA expressions of sirtuin type 1; STAT3: signal transducer and activator of transcription 3; TGF-β: transforming growth factor beta; TIMP-1: tissue inhibitor of metalloproteinases 1; TLR-4: toll-like receptor 4; TLR-4 mRNA: mRNA expressions of toll-like receptor 4; TNF-α: tumor necrosis factor alpha; 5-HT: 5-hydroxytryptamine(serotonin); ↓: downregulate; ↑: upregulate.
COPDに対する鍼治療はガイドラインで推奨されている標準治療を行っても症状が残存している患者に適応が考えられる.そのため,COPDに対する鍼治療は現行医療の補助的役割として活用が期待できる.
また本項を読んで頂いた先生方で鍼灸と連携を行いたいという場合は,公益社団法人全日本鍼灸学会の認定鍼灸師が安全に連携を行えると考えられる.本邦では鍼灸師は13万人の有資格者がいるが,医療的知識が乏しい鍼灸師もいるため有害事象を発生させる危険性がある.前記の全日本鍼灸学会認定鍼灸師は認定研修を通じて医療知識を豊富に備えているため,COPD患者にも気胸のリスクを回避しながら安全に施術が行えると考えられる.また学会ホームページからも検索が可能なため,紹介しやすい利点がある(https://jsam.jp/roster.php).
本論文の要旨は,第32回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2022年11月,千葉)で発表し,座長推薦を受けた.
鈴木雅雄;奨学(奨励)寄付(セイリン株式会社)