2026 年 35 巻 3 号 p. 225-228
呼吸不全に関する在宅ケア白書2024によると,患者の要望として「呼吸療法に知識のある理学療法士・作業療法士による訪問リハビリテーションの充実」が多く挙げられている.当院では地域の研究会を立ち上げ,呼吸ケアの質の向上を図ってきた.7回の研究会でHOT受け入れ施設が17施設増え,この活動が呼吸器疾患の受け入れ先拡大につながっている.また,同白書では27%の患者が現在の要介護認定に不満を抱えており,当院の調査でも重度の呼吸困難があるにもかかわらず適切な要介護度が得られないことが示された.現行の要介護認定基準が動作やADLを重視するため,呼吸器疾患患者は低く評価されやすい.このため必要なサービスが提供されていない可能性がある.NPPV使用者には医療保険下の訪問サービスが可能であるが,HOTのみでは介護保険が優先され,必要なサービスが受けられないため,申請をためらうケースも課題である.
第34回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会 共同企画3
慢性呼吸器疾患に対する呼吸リハビリテーションは,呼吸困難の軽減,生活の質(quality of life;以下,QOL)の改善に有効な治療介入である1,2).しかし,呼吸リハビリテーションを中断するとその効果は12ヶ月で失われるため3),導入から終末期まで生涯にわたり継続することが推奨されている4). さらに,その継続においては非監視下に比べ監視下で行うことで高い効果を得ることが報告されている3).そのため,医療者側は監視下で呼吸リハビリテーションが継続できる環境を提供していくことが重要である.本邦では,医療保険もしくは介護保険を利用して呼吸リハビリテーションを実施することが多い.しかし,医療保険の疾患別リハビリテーションにおいて,呼吸器リハビリテーション料は算定日数の上限が90日と定められており,一部の条件を除いて長期的に継続できる制度とはなっていない.そこで,医療保険外で呼吸リハビリテーションを実施するために,介護保険制度は重要な役割を担っている.
慢性呼吸器疾患を含む慢性疾患に罹患している患者は,健常者に比べ日常生活活動(activities of daily living;以下,ADL)が低下しており5),疾患の進行に伴いADLにおいて何らかの介助が必要となる.さらに,慢性呼吸器疾患患者のADL低下は介護者の身体的・精神的,経済的な負担や社会的孤立などにもつながる6).そのため,患者の状態を評価し,ADLにおける負担を軽減させるとともに,介助者の介護負担の軽減を図るために適切な介護サービスを提案することも医療者の責務である.しかしながら,慢性呼吸器疾患患者に十分な介護サービスが行き届いているとは言い難い現状がある.
本報告では,慢性呼吸器疾患における介護保険制度の課題に対してこれまでの活動を踏まえ,今後,理学療法士としてどのような活動を展開していくのかを示す.
呼吸不全に関する在宅ケア白書2024におけるアンケート調査では,呼吸リハビリテーションを受けたことがあると回答した者は全体で46%,在宅酸素・人工呼吸器実施群で48%,非実施群で23%であり7),在宅酸素療法(home oxygen therapy;以下,HOT)や人工呼吸器を実施していても約半数はその恩恵を受けることができていない.呼吸リハビリテーションが普及しない原因として,環境面では「呼吸リハビリテーションを実施できる施設や設備がない」,「交通手段がない,場所が遠い」などが抽出されている8).さらに,同じようなリハビリテーション内容であれば,より点数の高い心大血管疾患リハビリテーションや運動器リハビリテーション,脳血管疾患等リハビリテーションを導入する傾向もある.また,医療者側の問題として,「呼吸リハビリテーションの知識が不足しているため実施できない・紹介できない」「紹介プロセスが複雑」などがあり,患者側の問題としては,「呼吸リハビリテーションに対する認知不足・理解不足」「モチベーションの低下」などがある9).当院で行なった調査でも,入院中に集中的な呼吸リハビリテーション行い,退院後に継続できた患者は26%であり10),近隣に実施できる施設がないことや,交通手段がないなどの理由で中断を余儀なくされている.さらに,北九州市とその近隣地域で行った地域住民に対するアンケート調査では「呼吸リハビリテーションを知っていますか」との問いに「はい」と回答したのは8.9%と非常に低く,ケアマネージャーに対する同様のアンケートでは「呼吸リハビリテーションにどんな効果があるかわからない」「介護保険制度で呼吸リハビリテーションという考えがなかった」など,認知度の低さが明らかとなった.今後は実施施設の拡充やスタッフの育成,認知度向上が急務である.
在宅生活を続ける患者のうち,療養生活に必要な知識や技術を教えてもらったことがあると回答したのは54%であり,約半数はそういった話を聞いたことがないと回答している.患者の要望として「呼吸療法に知識のある理学療法士・作業療法士による訪問リハビリテーションの充実」が多く挙げられており,患者はより専門性の高いケアやリハビリテーションを求めている7).
北九州市の介護保険施設を対象とした調査(有効回答92/630施設)では約70%の施設が「呼吸器疾患のケアに不安を感じる」という結果であった.その原因は知識の不足によるものであり,詳細はHOTに対する不安(57%)と疾患に対する理解が難しい(43%)という回答が多数を占めていた11).これまでに呼吸リハビリテーションを通所介護で提供することで,増悪を予防できる傾向や,医療費削減に寄与できることを当院から示してきたが12),適切な介入でなければ同等の効果が得られるかは不明である.この問題に関しては,地域の介護保険施設で同様の介入が行えるよう,知識・技術の共有が必要であると考える.
呼吸不全に関する在宅ケア白書2024では,現在の要介護認定に不満のある人は27%という結果であった7).こちらでは不満の原因について詳細は調査されていないが,2013年に発刊された在宅呼吸ケア白書では,介護保険を利用しているにもかかわらず,介護状況が「変わらない」「悪くなった」と回答した理由として,「希望より低い認定結果でサービスが使えない」「息苦しさをわかってくれない」といったものが挙げられていた13).
当施設で要介護認定を受けている慢性呼吸器疾患患者41名を対象に行った調査では,要支援・要介護1が73%と多数を占めていた(図1).また,修正Medical Research Council(MRC)息切れスケールがgrade 4の重度の呼吸困難があるにもかかわらず,要介護2に止まっているという結果であり,要介護認定結果が低く見積もられていることを報告した14).さらに,要介護認定を受けている慢性呼吸器疾患患者を対象に,多施設で行った要介護認定結果に対する満足度の調査では,現在の要介護度に不満があると回答した者は32%であった.不満の有無に関連する因子として長崎大学呼吸日常生活活動息切れスケール(Nagasaki University respiratory ADL questionnaire;以下,NRADL)が関連していることを報告した15).この結果より,慢性呼吸器疾患のADL障害として特徴的な労作時の呼吸困難などが要介護認定に反映されていないことが示された.これまでにもfunctional independence measure(FIM)などの包括的ADL評価では呼吸器疾患の重症度は反映されないことを報告してきた16).しかし,現在の要介護認定は動作ができるか,できないかのロジックしか組み込まれていない.呼吸困難により動作に時間がかかることや,休憩を要することなどは考慮されていないため,慢性呼吸器疾患の要介護認定が低く見積もられていることは現在の介護保険制度の問題点であると考える.

介護保険制度で呼吸器疾患患者をケアしていくためには介護を提供する側の知識不足,呼吸ケア・リハビリテーションを提供できる施設の不足,認知不足,要介護認定までのロジックが問題であると考えた.これらの問題点に対して,当院の行ってきた活動を報告する.
介護提供者の知識不足,介護保険下で呼吸ケア・リハビリテーションが実施できる施設の不足においては当院が中心となり研究会を立ち上げた.研究会には3つの目的を掲げた;1)地域における呼吸ケアの質の向上,2)地域のネットワークの構築,3)呼吸器疾患の受け入れ先拡大である.研究会の開催にあたり,北九州市の介護保険課に協力を依頼し,快諾を得ることで北九州市内の全介護保険施設(630施設)に案内を送り,多数の参加者を動員することができた. 研究会の内容は事前にアンケートを実施し,各施設から希望の多かったものや困っている内容から行った.研究会終了時には理解度に対するアンケートを行い,毎回90%以上の参加者が講演内容に対して「大変理解した」「理解した」と回答しており,一つ目の目的である地域における呼吸ケアの質の向上に対して効果を認めていた.また,研究会の案内時に名刺の持参を呼びかけることで,研究会開催時には積極的な名刺交換が行われており,二つ目の目的である地域のネットワークの構築が図れていた.これに関しては,他施設のケアマネージャーやスタッフ,患者も利用できるようなネットワークとしていくことが今後の課題である.さらに,研究会開催前のアンケートにて,HOT利用者の受け入れが可能な施設を調査していたが,7回の研究会終了時点にはHOT利用者を「受け入れ可能」と回答した施設が17施設増え,三つ目の目的である呼吸器疾患の受け入れ先拡大につながる活動であることが確認された(図2).

介護保険下における呼吸ケア・リハビリテーションの認知度向上においては,先述した研究会もケアマネージャーや介護保険施設のスタッフに対する認知度向上につながるが,一般市民に対する認知度の向上も必要であると考える.多くの人が介護保険下における呼吸ケア・リハビリテーションを知ることで,自ら行動を起こすきっかけとしてもらいたい.そこで,北九州市の近隣地域である行橋市の地域福祉課に市民公開講座を打診し,一般市民に対する周知の場を設けた.市民公開講座前のアンケートでは慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease;以下,COPD)の認知率24.3%,呼吸リハビリテーションの認知率8.6%と非常に低かったため,周知の場としては非常に有効であった.また,市民公開講座に合わせて肺機能検査を用いた肺年齢測定会を実施した.この測定会は大変好評であり,多くの市民の動員にもつながった.市民公開講座後には相談会の場を設け,直接相談に来た方の中から受診につながったケースもあり,行動を起こすきっかけにもなっていた.市民公開講座でもある程度の効果は認めていたが,もっと広く一般の方へ呼吸ケア・リハビリテーションを認知してもらう必要がある.そこで当院ではYouTubeやSocial Networking Service(SNS)を用いて呼吸ケア・リハビリテーションの情報を発信している.呼吸リハビリテーションで行う評価,運動療法,コンディショニングや訪問看護で行う呼吸リハビリテーションなどの様子を配信することで,具体的な内容を周知してもらうことができる.また,呼吸リハビリテーションを知らない方へ導入する際にも,説明用の資材として用いることができている.
要介護認定のロジックについては,介護保険制度そのものに関わるため容易な問題ではない.先述したように,呼吸器疾患患者の要介護認定は低く見積もられる現状があり,筆者が担当してきた患者にも要介護度が低く希望するサービスが使えないといった経験もある.介護保険を取得してしまうと医療保険よりも介護保険が優先されてしまうため,介護保険をあえて取得しないということもしばしば見受けられる.これらの問題点については,行動しなければ何も変わらない.患者の声を拾い,データとしてまとめて公表していくなど,我々にできることを考えながら行動していくしかないと考える.まず,現状の医療制度に合わせながら理想とする医療を構築する,それに対して医療保険適応が後追いでついてくるのは,呼吸リハビリテーションの歴史を見ても明らかであり,厚生労働省と連絡を密にして,慢性呼吸器疾患に対する介護体制を整備していくことが望まれる.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.