日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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共同企画
ライフコースアプローチによる肺の健康の維持
今野 哲
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2026 年 35 巻 3 号 p. 243-244

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要旨

人生100年時代を迎え,いかに健康で長生きするかが重要な命題となった.我々臨床医は,病気を発症した患者をいかに治療するか という観点に加え,いかに病気の発症を遅らせられるか いかに病気の発症を防ぐか という予防医学の重要性が議論される時代になったと.当科では,①子供が胎内にいる時 ②幼少時 ③大学生 ④疾患発症後 いずれの人生の時期におけるコホート集団を検討する機会があり,環境化学物質,大気環境(PM2.5など),喫煙,肥満等と慢性呼吸器疾患との関連性を検討してきた.人生どの時期においても,短期的,長期的両側面より,自身の健康維持に寄与できる方策があるものと考える.

 

第34回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会 共同企画6

はじめに

人生100年時代を迎え,いかに健康で長生きするかが重要な命題となった.我々臨床医は,病気を発症した患者をいかに治療するか という観点に加え,いかに病気の発症を遅らせられるか いかに病気の発症を防ぐか という予防的側面にも注視すべきである.新型コロナウイルスのパンデミックにより,ワクチンに注目が集まり,全ての疾患において,更に予防医学の重要性が議論される時代になったと言えよう.本稿では,北海道大学呼吸器内科学教室が関わってきた複数のコホート研究の内容の一部を紹介し,人生どの時期においても,将来発症しうる疾患と向かいあうことの重要性につき,特に,慢性炎症性肺疾患を中心に概説する.

慢性閉塞性肺疾患(COPD)の概念の変遷

本邦におけるCOPD診断と治療のためのガイドライン1)には,次のような記載がある.「タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入暴露することなどにより生ずる肺疾患であり,呼吸機能検査で気流閉塞を示す.以下略」しかし,世界のガイドラインであるGOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)2)では,興味深い疾患概念の変遷が見られる.2001年のGOLDガイドライン初回版では,「COPDは完全には改善しない気流制限を特徴とする疾患.気流制限は通常進行性で,窒素粒子やガスに対する異常な炎症反応と関連する」という記載であった.しかし,その後,長時間作用性抗コリン薬(LAMA)の登場により,2006年には「予防可能で治療可能な疾患」という記載が加わった.その後も各製薬会社が長時間作用性の気管支拡張薬を開発し,また,COPD患者の中にも吸入ステロイド(ICS)を使用したほうが,呼吸機能を改善し,増悪を予防できる群がいることも明らかになってきた.

その後,GOLDのガイドラインにおけるCOPDの疾患概念の大きな変化は2017年である.それまで「COPDは気道炎症による」という文言が入っていたのが,この年より消えたのである.更に2023年には「有害物質を長期に吸入暴露する」という文言も消えたのである.この変遷の意味するところは,そもそものCOPDの定義にあると考えらえる.COPDは,他の疾患を除外した上ではあるが,「気管支拡張薬使用後の1秒率が70%未満」とされている.

では,例えば70歳の方の1秒率が64%であったとして,そもそもなぜこの方は64%に至ったのだろうか という,その個人の人生の歴史を考える必要がある.Fletcherらが示したように3),従来のCOPDの概念では,あくまでも一定の呼吸機能に達した個人が,タバコ煙などの有害物質を長期に吸入暴露することで,呼吸機能が(FEV1)が低下する と言う人生の後半のphaseのみが注目されていた.しかしその後,生まれつきあるいは幼児/青年期において,何らかの理由で肺(FEV1)の成長が止まってしまった群もいるという事象に注目が集まり,近年,肺の成長に影響する因子に関する大規模研究の結果が続々と報告されている.よって現在は,COPDの定義に合う患者を診た時には,単にタバコ煙等による呼吸機能の低下 という側面に加え,その患者のライフコース(特に肺の成長)を振り返ることが重要である.

北海道スタディ

北海道大学環境健康科学研究教育推進センター(岸 玲子特命教授)では,2003年以降に北海道で生まれた子供及びその母親20,000ペアを登録し,特に,胎児期/幼少時期の環境要因が,子供の成長や疾患発症に与える影響を検討してきた4).本執筆者もこの研究班の一員とさせていただき,児童のアレルギー疾患の発症に関連する因子を検討している.特に,妊娠後期の母親の喫煙と,母親が妊娠する前の体重(BMI)に着目し,生まれてきた子供の喘息発症との関連を検討した.その結果,妊娠後期に喫煙している母親から生まれた児は,1,2,4歳での喘鳴(喘息)の有症率が高く,また,妊娠前にBMIが高かった母親から生まれた子供は,7歳時の喘息の有症率が高かった5).

北海道大学新入生(若年成人)を対象とした疫学研究

北海道大学呼吸器内科及び健診センターでは,2009年より,新入生を対象に,各種アレルギー疾患の有無に関する問診調査を継続している.これまで,2009年2010年の2年間を対象とした検討6)と,2011年より2016年までの6年間を対象とした7)2つの研究において,肥満(BMI)とアレルギー疾患との関連について検討した.その結果,BMIが高い群は,喘鳴(喘息)の有症率が高かったが,アレルギー性鼻炎(特に季節性アレルギー性鼻炎)は,BMIが高いほど有病率が低かった.肥満においてアレルギー性鼻炎の有病率が低かった詳細な機序は不明であり,今後の更なる研究が待たれる.いっぽうで,本研究結果は,肥満が喘息に与える正の影響は,単にIgEを介するアレルギー反応を促進する事ではなく,肥満によるメカニカルな呼吸機能への影響,気道過敏性に対する直接的な影響であることが示唆される.

おわりに

これまで当科が関与してきた複数のコホート研究を紹介し,将来の肺の健康の維持に寄与する因子の一部を紹介した.つまり,既に子供が胎内にいる時から,生涯の健康維持に寄与できる何らかの対応策があるということを意味し,今後は,各個人の介入により,健康寿命の促進に向けて取り組んでいく時代になると考えられる.現在,小学3年生より中学卒業までの同一個体の呼吸機能の変化を検討中であり,後には,大気環境(PM2.5など)との関連を検討予定である.また,北大新入生の調査については,更に観察研究を継続し,特に,新型コロナウイルス感染症のパンデミックが,各種アレルギー疾患の有症率にどう影響するか などについて,検討していきたい.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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