抄録
高分子素材企業の研究開発費については、企業としての支出額は下限販売単価に逆比例するが、個々の製品種に対する研究開発費はそれぞれの販売単価には殆ど依存しない。これは研究開発費に関して、低価格製品群のゆとりをもって高価格製品群の不足分を補っている結果であるとし、それを可能にしている条件を求めた。その条件は、下限販売単価が一定値以下であること、および製品種数の価格分布形状に対し一定の制約があることであり、それぞれを定量的に明らかにした。高分子素材企業全般についてはなお未調査であるが、石化系高分子素材企業群についてはその発展過程に起因する偶然の帰結として、これらの条件はほぼ充たされることを示した。研究開発費と入力/出力の関係にある限界利益の販売単価依存性についても考察し、各製品種の限界利益はその販売単価に依存しないことを推論し、企業の実績値によりそれを検証した。限界利益と研究開発費の比率によって定義される成人度指標の経年変化は、各製品種について未成年期では系統的で製品種ごとのデータのばらつきが比較的小幅であるのに対し、壮年期ではそのばらつきが年とともに顕著になり、市場の寡占化が著しい製品ほどこの指標値が大きくなることを示した。その上で寡占化製品の割合の増加を、企業として新製品開発活動の強化拡充に直結させ得る方法を示した。最後に既報内容の一部を改訂した。