抄録
今日,半導体ユーザーである設計技術者の関心事が,個々の半導体デバイスに対してというよりは,自分達が機器に盛り込もうとしている機能・性能を実現する上で最適な半導体や部品の組み合わせ,いわゆるソリューション提供に移ってきていることで,半導体業界における付加価値の一部は,メーカーよりもユーザーに近い半導体商社の方にシフトしてきていると考えられる。大手半導体商社は,この顧客価値のシフトを,自社の付加価値として取り込めるような仕組み作りを行っている。公表されている半導体商社各社の経営方針や経営戦略の内容を見ると,ほとんどの企業が共通して技術商社を標榜し,顧客に対し提案型で営業を行うソリューション提供力の強化を掲げている。各社ともソリューション提供機能を強化するために開発要員を揃え,設計機能を強化し,メーカー系商社でさえも,仕入れ元の多様化,新規商材の開拓を経営目標の一つとして掲げている。各社ともほぼ同様のビジネスモデルを志向しているが,収益性を比較すると,収益性が相対的に勝っている企業は,メーカー系商社よりも独立系商社が多い。この要因としては,志向しているビジネスモデルはばぼ同様であっても,それを実行に移す上で必要な要件をどの程度備えているかで,結果として出来上がっているビジネスシステムに差が生じ,収益性に差が出ている一因となっていると考えられる。