抄録
本稿では,政府統計による詳細な企業データを用いて,2003年度に新たに導入された試験研究費の総額に係る税額控除が,企業の研究開発投資の増加に寄与しているのかどうかを分析した。推計結果では,優遇税制を利用した企業と利用していない企業とを比較して,利用企業の研究開発費が導入前後で有意に増加したとは言えないことが明らかとなった。この結果は,利用企業と未利用企業の間のセレクションバイアスをコントロールしても変わらなかった。以上の結果は,新制度の導入が直接企業の研究開発投資の増加に寄与していないことを示しており,今後さらなる制度の改善が必要であることを示唆している。