抄録
本稿では,1950年代の日本において提案された「学術情報所」設置要求及び「科学技術情報センター」構想について,前者が概算要求の段階に留まったのに対し,後者が日本科学技術情報センター(JICST)設立に至った要因を明らかすることを目的に,2つの政策案をめぐる経緯を当時の関連資料や関係機関の年史等の記述に基づいて分析した。その結果,2つの政策案が共に,科学技術情報への需要の高まりに相応した効率的な提供ができていないという課題に対し,科学技術情報報機関の設置を求めるという政策案を示しながら,後者については次の3つの点が見られたことが,政策案の実現に寄与したことを明らかにすることができた。1)科学技術情報に関する課題が科学技術振興体制の強化という大きな動きの中で検討されたこと。2)学術界及び経済界からの支援と理解,特に経済界からの強い支援がえられたこと。3)国立国会図書館との業務内容が調整され,相違がより明確にできたこと。また,科学技術情報機関の新設と国立国会図書館との調整の結果として二次情報の提供を主眼とするとしたことが,それぞれ,研究者コミュニティーとの連携の弱さと政策検討の対象範囲の限定化をもたらし,近年の科学技術情報に関する課題への対応の弱さにつながった可能性があることを考察した。