抄録
コンセンサス標準におけるユーザーとサプライヤーの関係を考えた場合,どこまで技術をオープンにするのかという標準の範囲をめぐり,両者の間には構造的なコンフリクトが存在する。しかし,コンセンサス標準に関する既存研究では,参加企業間の互恵性は前提として扱われており,コンフリクトを乗り越えてコンセンサスが形成されるプロセスに関しては十分に検討されてこなかった。そこで,本稿では,このようなコンフリクトがあるにも関わらず,コンセンサスが達成された自動車産業における車載ソフトウェエアの標準「AUTOSAR」に着目し,探索的なケーススタディ分析を行った。その結果,ユーザーに有利となる標準を制定しても,サプライヤーは新興国ユーザー,補完市場での事業機会も考慮に入れることで,両者の間には互恵性が期待され.標準に対する合意が得られる可能性を示す。