2023 年 38 巻 1 号 p. 60-68
米国で,2018年頃から,海外政府・機関がアカデミアに不適切な影響をおよぼし研究インテグリティを損なう懸念が示されてきたのを受け,日本でも,令和3年に,内閣府から,競争的研究費の適正な執行に関する指針や「新たなリスク」対応が進められてきた。とはいえ,アカデミアの現場だけでなく組織運営を担当する部署でも,そもそも研究インテグリティをどう考えればよいのか,従来からある利益相反・責務相反マネジメントとどう関係するのか,「新たなリスク」とは何なのか,どう理解し対処すればよいのか,戸惑いが大きいのが現状である。本稿では,本家である米国における研究インテグリティと利益相反・責務相反マネジメントの背景の変遷,第6期科学技術・イノベーション基本計画における利益相反・責務相反リスクマネジメントの位置づけ,研究インテグリティと利益相反・責務相反マネジメントの定義・考え方,研究インテグリティを確保した研究活動の自律性の課題とありがちな誤解,について述べ,アカデミアの現場で把握すべきリスクとそのマネジメントについて考察した。