研究 技術 計画
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Print ISSN : 0914-7020
特集 研究インテグリティの新たな展開:安全保障上の要請と科学研究活動における大学の自律性
新たな研究インテグリティの要請とアカデミックコミュニティーの対応:米国の事例
遠藤 悟
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2023 年 38 巻 1 号 p. 69-85

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抄録

研究活動における「integrity」は,捏造,改ざん,盗用の問題を中心にアカデミックコミュニティーの間で長年検討が加えられてきたが,米国においては,トランプ政権期において中国の経済的,軍事的な伸長を米国に対する経済的・軍事的脅威として捉え,安全保障上の要請に対応した新たな「integrity」が求められることとなった(本稿ではこの安全保障上の要請に対応した「research integrity」について「研究インテグリティ」の訳語を用いる)。この研究インテグリティの要請は,連邦政府研究開発資金を受領する者における,海外への不適切な情報の流出等に関する利益相反や責務相反の問題が主なものであったが,ファンディングエージェンシーは研究インテグリティの向上に向け,研究機関や研究者に呼びかけを行うとともに,独立科学助言グループJASONに検討を依頼するなどした。

このような状況に対し,アカデミックコミュニティーは積極的に声を上げるとともに,安全保障上の要請に応えつつ,オープンな知識や人材の交流という学術研究の基本的な価値を護る取り組みを行った。その事例には,大学協会における外国政府の介入に関する行動の原則と価値に関する文書の策定,ナショナルアカデミーズによるラウンドテーブルにおける検討,そして,司法省のチャイナ・イニシアチブの問題に対する批判等が含まれる。

本稿は,これら事例を報告することにより,日本における検討に資することを目的としたものである。

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2023 研究イノベーション学会
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