2023 年 38 巻 3 号 p. 286-298
地域の創業エコシステムが近年,世界的に注目を集めている。そこでは特に,地方自治体や地域の支援事業者(商工会議所,商工会,地域金融機関等)の役割が重要であるが,地方自治体(市区町村)の創業支援のしくみについてはまだ研究の蓄積が乏しい。本稿は筆者自身のこれまでの調査・研究を踏まえて,日本の自治体による創業支援と地域の支援事業者の役割に注目し,創業支援の効果と課題を考察する。本稿は第一に,日本における創業支援の展開を概観し,2014年1月に施行された「産業競争力強化法」に基づく「創業支援事業計画」認定事業に注目する。これは地域の官民連携に基づく自治体独自の創業支援の策定と実施を促す,創業エコシステムの形成を支援する画期的な政策である。第二に,全国の市区町村のパネルデータを用いて,この認定事業の政策効果を検証する。この政策によって,特に人口が少なく事業所密度が低いなど創業に不利な地域(自治体)で開業率・開業数が有意に上昇したことが示される。第三に,筆者自身の全国自治体(市区)アンケート調査に基づいて,自治体の創業支援の全体像と自治体間の取り組み方の違いを示す。回答市区のほとんどが多様な創業支援事業を実施しているが,最も多いのが「創業セミナー・創業塾」と「個別の専門的助言」といったソフト支援である。これらの創業支援の多くが独自の「創業支援事業計画」に基づいて,地域の金融機関や商工会議所等と連携して運営されている。