2025 年 39 巻 4 号 p. 361-373
AGI(Artificial General Intelligence;汎用人工知能と訳されることが多い)は,近い将来に出現しうる,あらゆる知的タスクにおいて人間の能力と同等またはそれ以上を発揮し新たな状況に対応できる人工の一般知能である。一方,メタ・ネイチャー(Meta-Nature)は筆者らが提唱する概念であり,人間にとって自然が自動で動いているように,人工の環境も極度に自動化されることで新たな自然となるような状態を示す。当初は想定されなかった状況の出現にも対応しながら,環境自体が自律的に生産や分配といった動作を続けていく必要があるのだから,AGIはメタ・ネイチャーの前提となる。
道具や言葉の発明が示すように,技術革新は元々,自然の中の人間の営みから生まれた。同様の革新はメタ・ネイチャーの環境下でも起きていくと考えられる。本論文では,AGIやメタ・ネイチャーといった概念が研究という営みに既に与えつつある影響を概観し,研究や技術革新を取り巻く未来の環境として想定する「メタ自然選択(meta-natural selection)」の到来,あるいはその未達に向けて,今から準備すべきことを提言する。