2025 年 40 巻 2 号 p. 144-165
スター・サイエンティストとは,卓越した研究業績を残す少数のサイエンティストのことを指し,通常のサイエンティストに比べて,多くの論文を出版し,多くの被引用を集め,スタートアップ設立にも積極的である。米国のバイオテクノロジー分野においては,スター・サイエンティストと企業が何らかの形で関わると,それぞれ研究業績および企業業績が上がるという「サイエンスとビジネスの好循環」が成立している。本研究では,大規模データセットを構築し,日本のスター・サイエンティストの現状を分析した。日本には,スター・サイエンティストが196人存在し,その中で19人(全体の9.69%)はスタートアップに関わっている。更に,スター・サイエンティストが関わるスタートアップは,M&A,IPO,ベンチャー・キャピタルからの資金調達などの指標において正の影響が見られた。また企業と関わるスター・サイエンティストは,関与後により多くの高被引用論文を創出するなどの研究パフォーマンスの向上が観測された。以上から,「サイエンスとビジネスの好循環」は現在の日本に発生していることを示した。1995年からの日本のナショナル・イノベーション・システムの変革は,スター・サイエンティストのイノベーションの関与を大きく変え,スタートアップ創生が中核と位置付けられるようになった。また,スター・サイエンティストのメカニズムについて,日米に顕著な違いは見られなかった。