2026 年 1 巻 p. 15-24
本稿では、トリスタン・ミュライユ《砂丘の精神》(1994)を理論的参照点とし、その内部に見られるスペクトル書法を拡張した、共振的書法(resonant writing)を提案する。これまでスペクトル書法は音響モデルの構造操作として理解されてきたが、リアルタイム処理や物理的再共鳴を含む今日の制作環境では、その運動的側面を捉え直す必要がある。先行研究を踏まえ、《砂丘の精神》における素材生成と時間設計を、「構造(Structure)」「過程(Process)」「共鳴(Resonance)」の三層の枠組みとして整理し、その三層を音響モデルや時間と単純に対応する概念ではなく、書法を内部で作動させる要素として位置づける。この定式化にもとづき、本稿では、スペクトル書法を分析・変換・現前を内包する生成的運動として再定義し、時間的な生成および物理的な再共鳴を含む変換の連鎖を記述する共振的書法として拡張する。最後に、本書法の実装例として、自作《レゾナント・デプス》(2025)を事例に、分析・変換・現前が相互に移行し続ける生成連鎖が制作過程において再帰的に作動することを示し、三層の枠組みを実践的に検証する。