抄録
本研究は、花瑶族の伝統的な葬儀とそれに関連する服飾を取り上げ、その使用状況によって形成された人間関係、家族関係などから、服飾の社会的役割を抽出することを目的とした。実物調査ならびに現地における聞き取り調査によって、花瑶族の葬送儀礼に用いられる174点の服飾を分類し、服飾と関連した所作を手掛かりに社会的役割を考察した。その結果、以下の知見を得た。(1)死装束、喪服、喪章の制作と使用は、孝悌の心を表し家族の連帯感を強化させる役割を果たしていた。(2)杯抱の燃やし、新婦服を死装束として死者に着せ、「来世」へ行っても、婚姻関係を継続する婚姻観を反映されるものと考える。また、生者の衣服から布を切り取って、死者の胸に置くことは、生者と死者は異なる境界にいても密接に繋がる。布を切り取った衣服は、死生観が反映され、生者と死者の絆づくりに欠かせない役割を担ってきた。(3)遺体にかける布や着せる死装束は、死者だけではなく、死者が代表する実家の尊厳と存在を表すものと考えられている。これらの服飾は、人や、家族との間に尊厳・存在を守り合う要求を表すものとして重要な役割を果たしていた。