竹久夢二による直筆原稿の分析から、氏の筆跡の特徴を明らかにし、これを基にした仮名書体の開発手法を探った。
まず、翻刻が存在し照合可能な資料として、「ベルリン日記」(昭和7年11月〜8年4月頃、縦書き、鉛筆)を選択し、平仮名を採字した(47音、計1,048字)。
次に、判読性が確保されながらも特徴的であること、正方形に対し収まりがよいことを条件に各文字2〜4文字に絞り込んだ後、骨格を抽出した。そして、抽出した骨格に対し、エレメントの付加及び各部調整を行い、平仮名書体の原型を試作した。
しかし、夢二の筆跡は時期により字体あるいは骨格の差異が認められる。従って、本研究で採択した晩年の時期に近いベルリン日記の筆跡をもって、夢二の代表的な筆跡と判断できるかについては疑問が残る。
また、本研究では書体への展開を想定し、正方形への収まりを絞り込みの条件に設定したが、逆に、夢二の筆跡の魅力を表現するためには平仮名本来のプロポーショナルな字幅を活かす方法が適している可能性がある。