抄録
七宝焼の立体作品である「立物」は、従来、鍛金やスピニングによって銅製の素地が成形されてきたが、高度な職人技と長い製作時間が必要で、量産や複雑な造形には限界があった。本研究では、電鋳七宝職人の経験知をもとに、デジタルファブリケーションを活用し、凹形状の母型を用いた立体的な電気鋳造による素地製作を試みた。アノード配置の工夫や電解条件の最適化により、凹部奥への銅の析出に成功し、得られた素地に銀メッキと釉薬焼成を施すことで七宝焼としての成立も確認できた。本手法により、従来困難であった複雑な立体造形や意匠を反映した七宝素地の量産が視野に入り、鍛金工程の一部代替や、他の伝統工芸分野への応用も期待される。本発表では、その技術的な工夫と今後の展望について報告する。