抄録
19世紀初頭に活字化されたサンセリフ体は、産業革命期における需要から美しさよりも広告・ディスプレイ書体としての誘目性が重視されいた。1920年代には、セリフのない書体設計に直線や円弧を多用する幾何学的な構造が持ち込まれることにより、「グロテスク」や「ゴシック」といった古く怪奇な形態から脱したシンプルかつ明快な「機能美」が見出され、30年代にかけて広く普及した。第二次世界大戦後には、グロテスク書体を復刻・改刻した「ネオ・グロテスク」と称されるサンセリフ体が20世紀後半の一世を風靡するが、実際には並行して「ヒューマニスト」と呼ばれる特徴をもつサンセリフ体もまた、独自の発展を遂げた。第二次大戦後における幾何学的なモダン・サンセリフ体活字の低迷を起点とし、単調かつ均一なストロークを排除して、太さの抑揚を強調しながら文字の筆跡を残した。さらに古典的なローマン体の特徴を導入し、古さと新しさの融合に達した。設計を担ったデザイナーは、その多くが芸術的なカリグラファーでもあり、手書き文字を極めた技能と美意識が本文としての読みやすさを獲得したといえる。