2001 年 48 巻 4 号 p. 81-90
本稿では、台湾における博物館の歴史的変容を史実に基づいて整理し、次のことを明らかにした。(1)台湾の博物館の歴史は、日本植民統治時代、戦後の国民政府時代、戒厳令解除後の文化政策期に大きく大別できる。この歴史的流れのなかで、台湾の博物館は、中央政府に長期間いわば従属していた「中央型博物館」から、それぞれの博物館が存在する地域との連関を意図し、独自の文化的・社会的背景に立脚した「地域型博物館」へと、変容してきた。(2)日本植民統治時代の博物館は、台湾を殖産興業の基地とする日本政府の方針に基づいて殖産興業化を支援・誇示する博物館、ならびに、皇民化政策を支援・徹底するための博物館として機能した。(3)戦後の国民政府時代においては、中華思想を民衆に浸透・徹底するため、島民全員を同一的な中華民族に帰属させる意識高揚を果たす機関として、博物館が位置づけられた。(4)工業化が伸展し、戒厳令が解除されるようになって以降、台湾の博物館は、地域社会との結びつきを強めた運営への転換を志向し始めるようになった。