19世紀末から20世紀末までの英国の庶民家庭における据え置き型風呂を対象として、その発展・普及の過程、デザイン変遷の経緯を探り、その背景となった諸要因について考察した。庶民家庭に風呂を設けることは、国民の健康向上をめざす政府主導の住宅改善の動きに端を発し、第1次大戦後の公共住宅の多くには給湯式風呂が設置された。20世紀初頭から1960年代までの間、給湯設備として、その場で沸かす直火型、キッチンレンジ接続のバックボイラー、衣類用煮洗い釜、瞬間ガス湯沸かし機などが併存しつつ推移した。風呂の急速な普及の要因としては、板金・陶製から鋳物への浴槽の材質転換によるコストダウン効果があげられるが、より大きな社会背景として衛生観念の変化があった。労働者住宅にも独立した浴室が設置されていく1930年代になると中産階級住宅において「モダンスタイル」の浴室が現れ新たな差別化がはかられた。このような風呂の社会的・文化的位置づけの変化が各時代の風呂のデザインに反映されてきた。