2004 年 50 巻 6 号 p. 57-66
本論文は、アイリーン・グレイ(Eileen Gray,1878-1976)が最小限住宅E.1027に用いたデザイン手法を明らかにする。彼女は「最小限の場所」に「最大限の快適生活」をもたらす住宅モデルとしてE.1027を設計し、「自然な動作や本能的な反応に最適な形を付与する」「住み手が建築の構築の中に自身を自覚する喜びを取り戻す」ことが重要と主張した。こうした考えが建築的にどのように解決されたかを探るため、グレイによる4つの複式図を分析した。複式図は、幾何学形態の一部を平行・回転移動させ、部屋や家具に複数の機能と形を生みだす操作を示している。それは狭さによって機能と形が限定される最小限住宅の難点を克服するために、空間に可変性を与える手法であった。考察の結果、これらの手法は他の建築エレメントや家具にも適用され、建築と家具を等価に扱っていることが明白となった。身体を建築と家具に連動させ、生活者が欲求に応じて能動的に住空間を変換・構築し「自身を自覚する喜び」を獲得するための一貫したデザイン手法がそこにみてとれる。