2010 年 57 巻 4 号 p. 67-76
中国では20世紀の初めに、伝統的な中国の建物に西洋の様式を取り入れた「中華バロック」と呼ばれる建築様式が盛んに建設された。このような「中華バロック」は従来により注目されてきたが、本格的な調査は少なく、その評価や保存の為にはなお詳細な調査・研究が必要である。そこで、中華バロックが集中するハルビン市「靖宇」街地区を取り上げ、この地区における中華バロック建築の成立過程、その建築的な特徴、現状、保存上の課題を研究した。その結果、この地区における中華バロック建築が、同時期にロシア人建築家の主導で形成されつつあった中央大街の影響を受けつつも中国人の手で生まれたこと、西洋的様式をそのまま用いることはなく独自のデザインコンセプトを有すること、このような正確な評価が乏しいまま安易な修理や模倣が行われ、オーセンティシティが失われつつあること、このような現状を修正するため、オリジナルのデザインを正確に調査・評価した上で改装が行われるよう制度を改めるべきことを明らかにした。