2023 年 69 巻 3 号 p. 3_11-3_20
本稿は中国遼寧省北鎮市における民居「平房」の建設過程とその内包された文化的特質を明らかにすることを目的としたものである。調査・考察した結果,以下が明らかになった。(1)平房の建設過程と手順は人びとに周知され,図面などの資料は用いられなかった。(2)建設資材は現地での調達が優先され,効果的な材料の組み合わせに工夫を凝らし,材料を巧みに用いた。(3)地産材の制限に応じて,建造物の細部が適宜調整された。(4)人びとの互助行動は自発的に行われており,その関係は生活の交流において構築された。(5)職人と手伝人の年齢構成から地域的な建設の知恵が継承されていた可能性が示唆された。(6)建設過程においては建設に関する事象は家主が担当し,賄いに関する事柄は女主人が受け持つ「男主外,女主内」という家族秩序が表出された。(7)建設過程からは人と神との共生を尊重する観念がみられた。