本稿は,民主的な社会を維持,発展させる上で重要な思考の一つとして「批判的思考」を捉え,数学教育における「批判的思考」の着眼点などを示した上で,これを中学校数学科の図形指導で具体化するものである。民主的な社会では,多様な価値観などを受容する態度が重要であると考えるが,ここでは,合意形成において,例えば,「~でなければならない」ではなく,「~の方がよい」とか「~でもよい」といった選択肢を創出し,その選択肢の妥当性について検討することが大切であると考えた。例えば,中学校第1学年の「垂線の作図」において,作図に不必要な点をとった場合,生徒はこれを批判的にみることができるのか,また,数学的には正しいとは捉えられないこのような考え方を,生徒は受容するのかといった点について授業実践を通して検討する。