数学的理解過程において,学習者の困難性を伴うものに,数学的な表現の翻訳とでもいうべき問 題がある。そこで,本稿では数学的理解過程における様々な表現に焦点化し,これを記号論的に考察することで困難性の克服に向けた示唆を得ることが目的である。方法論として,S. Pirie & T.Kieren の超越的再帰理論に基づく数学的理解過程における8つの水準と,パースの記号論をベ ースにしたR. Duval の表現レジスターによる分析の枠組みを用いて,困難性の明確化を図る。結果として,数学的理解過程の第6水準において第4水準への「折り返し」による「転換」が起こりやすく,第7水準では「形式化」に伴う言説的レジスターへ収束することが分かった。また,学習者の困難性に対する解決策及び支援方法について考察し,指導者に必要な視点を示した。