2023 年 37 巻 5 号 p. 23-28
算数科教育の歴史においては,第一期国定算術教科書いわゆる黒表紙教科書にかかわる論争が確認される.それは「直観主義」に対する「数え主義」の図式が存在している.しかしその一方で,その対立においては子どもに提示される掛図,すなわち実物として動きが表現されない教具に対して自由に操作できうる実物といった教具,それぞれ二種の異なる具体物の捉え方の相違が背景にあると考えられる.
本稿では,藤澤利喜太郎(1986)の『數學教授法講義筆記』を辿り,第一期国定算術教科書における「数え主義」において利用されたと考えられる具体物に焦点を当て,「数え主義」にかかわる具体物として数図を取り上げ,現在使用されている教科書において掲載されている数図に対して,心理学的な側面から検討していく.