日本科学教育学会研究会研究報告
Online ISSN : 1882-4684
ISSN-L : 1882-4684
37 巻, 5 号
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表紙・目次
発表
  • ―Lower Key Stage2を中心として―
    井戸川 拓真, 野添 生
    2023 年 37 巻 5 号 p. 1-4
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究の目的は,イギリスのLower key stage2(第3,4学年)における科学教科書や‘STEAM activity’の特長を明らかにすることである.そのため,STEAMの各要素とイギリスと日本の初等教育段階の教科の関係を整理した後,イギリス教育の指標である「National Curriculum科学」とLower key stage2(第3,4学年)における科学教科書との各単元の関係を示した.次に,教科書中に含まれている‘STEAM activity’を整理し,日本の初等教育の教科との関係を調査するとともに,教科と数の関係についても分析をおこなうこととした.その結果,イギリスの初等科学で扱われている‘STEAM activity’は,わが国では類を見ない科学(理科)授業内の活動であり,教科の枠組みを超えたものとなっていることや,子どもが楽しく学習に取り組める工夫,理論を視覚的かつ体験的に学べる‘STEAM activity’の特長が明らかとなった.

  • ―Upper Key Stage2を中心として―
    余宮 凛音, 野添 生
    2023 年 37 巻 5 号 p. 5-8
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本稿では,STEM/STEAM教育を先進的に行っているイギリス(イングランド)の教科書を分析し,その特徴を明らかにすることを目的とし,イギリスの初等教育段階のUpper Key Stage2(第5学年,第6学年)を中心に教科書を分析した.まず,各教科書にどんな‘STEAM activity’があるのかを調査し,特長的な‘STEAM activity’をそれぞれの学習プログラムから1つずつ取り上げた.その結果,Upper Key Stage2 の科学教科書の特長として,単元について一通り学んだ後に学習した知識を基に創作活動を行うという一連の流れがあることが分かった.また,その創作活動の中心である‘STEAM activity’では, 理科をはじめとして図画工作や家庭科,国語といった教科の要素を抽出できた.加えて,その多くが子どもたちの好きなように創作するものであり,具体的には学習した知識を基に自分たちで創作したり,学んだことを絵本にしたりする活動などを確認できた.

  • 牧野 治敏
    2023 年 37 巻 5 号 p. 9-12
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    幼児の自然認識はその後の科学認識の基礎であると同時に,生活上必要な身を守るための手段を身につける機会でもある.そのために幼児の体験のフィールドとして河川を選択し,自然に接する楽しさを体験させるとともに浅瀬での移動の困難さという自然災害への対応を含めた活動を実施した.河川公園と用水路の2種類のフィールドで防災への意識付けと,河川に親しむことを目的とした生きものの採集活動を実施した.2種類の河川での活動において,昆虫や魚への関心は強く生きものに親しむ活動に違いは見られなかったが,河川内での行動には川床の影響を大きく受ける様子が観察された.野生生物の扱い方への検討が必要であることが示唆された.

  • 薮井 将司, 久保田 善彦
    2023 年 37 巻 5 号 p. 13-18
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    我々は,日常生活の様々な場面で意思決定を行っている.その意思決定には,数値(量的データ)を基にすることもあれば,数値になっていないもの(質的データ)を基にすることもある.日常場面で質的データを量的データに変換し,数値を根拠に意思決定する,数学的な意思決定について考察していく.本研究の目的は,教材の開発と,開発教材の評価である.まず,小学校第6学年を対象とした「日光移動教室の行先を決めよう」の教材を開発し,授業実践を行った.小学生でも,価値観を外化,交流し,指標化や重み付け,数値化を適用して数学的な意思決定を行うことができた.次に,算数を生活や社会に活かそうとする態度の変容と学習の転移の調査を行った.数学的な意思決定の学習に取り組むことで態度が高まった.さらに,学習の転移とも関連があることが確認された.児童の感想から児童の身近なことに関する問題設定も,態度を変容させることがわかった.

  • 渡辺 信, 青木 孝子
    2023 年 37 巻 5 号 p. 19-22
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    教育問題を生涯学習の視点から眺めたい.生涯学習は『学び直し』『リカレント教育』として用いられているが,学習者の主体性を意識したOut Schoolの立場を明確にする.そのOut Schoolから生涯学習の在り方を考える.学習の目標と生涯にわたる学習の継続を前提とした生涯学習の在り方を問う.特に探究学習にはOut Schoolからは大いに評価したいが,Out Schoolへの継続としての関係・接続について考えたい.GIGAスクール構想のもとでだれもが情報機器を活用できる探究学習も始まるであろう.情報時代にふさわしい探究学習とは何かを数学教育から考える.この探究学習に期待したいことは生涯学習Out Schoolへとつながる道でもある.学校教育In Schoolの目標がOut Schoolとしての生涯学習であるならば,In Schoolを含めた生涯にわたる学習について期待したい探究学習を構築したい.

  • 石井 康博
    2023 年 37 巻 5 号 p. 23-28
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    算数科教育の歴史においては,第一期国定算術教科書いわゆる黒表紙教科書にかかわる論争が確認される.それは「直観主義」に対する「数え主義」の図式が存在している.しかしその一方で,その対立においては子どもに提示される掛図,すなわち実物として動きが表現されない教具に対して自由に操作できうる実物といった教具,それぞれ二種の異なる具体物の捉え方の相違が背景にあると考えられる.

     本稿では,藤澤利喜太郎(1986)の『數學教授法講義筆記』を辿り,第一期国定算術教科書における「数え主義」において利用されたと考えられる具体物に焦点を当て,「数え主義」にかかわる具体物として数図を取り上げ,現在使用されている教科書において掲載されている数図に対して,心理学的な側面から検討していく.

  • ―プログラミング教育に関する文献レビューを通して―
    板橋 克美
    2023 年 37 巻 5 号 p. 29-34
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    理科でのプログラミング教育(PG教育)の現状を考慮し,その有用性を確認するために文献調査を行った.まず,近年のPG教育ではComputational Thinking(CT)の評価方法において質問紙調査や自動診断ツールなどの定量的評価法が開発されており,その概要について報告する.また,それらを用いた定量的評価から,Scratch等を活用したPG教育がCTの育成に有効であることが数多く報告されている.次に,理科教育でのPG教育を調査し,学習指導要領に例示されている分野以外でも,様々な分野でPG教育が実践されていることを報告する.それらの実践では,科学的概念の獲得および内容の理解度向上も報告され,CTの育成とともに学習者の資質・能力の育成にプログラミング学習が有用であることが示されている.これらのレビューを通した,本研究における中学校理科でのPG教育の方向性についても報告する.

  • 動機づけとCTに着目して
    木原 智裕, 久保田 善彦, 今井 勉
    2023 年 37 巻 5 号 p. 35-40
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    小学校第5学年の総合的な学習の時間において, 社会科の農業学習の発展学習としてプログラミングを導入した農業DX学習を実践した. その評価を小学校プログラミング教育の手引きに示されるプログラミング教育のねらいに沿って検討した. ねらいの1つの「プログラミング的思考」を評価するために, 小学生版Computational Thinking尺度を開発した. 実践によって,以下の成果が得られた. ①本質的な問いの結果から, 教科の学びの質が高まる効果が示された. ②プログラミングに関する動機づけの結果から, プログラミングへの興味が高まる効果が示された. 併せてプログラミングを問題解決に有効と感じつつも自分の能力不足をメタ認知することが示唆された. ③CTの結果から, もともとあるCTの意識が高い児童ほど, 実践を通して自己評価を厳しくすることが示唆された. そして, 開発した小学生版Computational Thinking尺度が, 児童のCTの意識を測定できることが明らかになった.

  • 伊藤 大貴, 池 恩燮, 中原 久志
    2023 年 37 巻 5 号 p. 41-44
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究の目的は,時間的・空間的制約に影響を受けない統計分析の学習活動や,生徒自身による探究的な統計分析を可能とするWebアプリケーションを開発し,試行的な実践授業を通して,情報リテラシーの育成について具体的な方略を検討することである.具体的には,PythonのStreamlitライブラリを用いて,1人1台端末で動作し,統計を実践的に学ぶことが可能なWebアプリケーションを開発した.Webアプリケーションの機能として,検定,表作成,解釈の補助を実装した.試行的な授業実践後に質問紙調査を用いて学習効果を測定した.その結果,開発した教材を取り扱った実験群の生徒は,統制群の生徒と比べ,コンピュテーショナル・シンキング尺度の「論理的思考」と「批判的思考」,また統計的リテラシーにおける批判的思考尺度の「数値やデータへの関心」,「懐疑的・複眼的な考え方」,「他者との関わり」の因子平均値が有意に高くなった.

  • 島田 直季, 中原 久志
    2023 年 37 巻 5 号 p. 45-48
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究の目的は,小学校の授業や家庭学習等の学習活動において,教員や児童が効果的に動画教材を活用するための基礎的知見を収集することである.小学校教員と児童を対象に,動画教材やICT機器等の利用状況やその意識に関する実態について探索的調査を行った.その結果,ほとんどの教員が授業等において動画教材を用いることに肯定的であり,学習者である児童も日常生活の中で動画を視聴する機会を有していた.動画教材を活用することに関する問題等はないものの,教員の一定数にICT機器の操作に困りを抱えていることが把握された.また,教員と児童それぞれに同内容の質問を行った項目に関して比較を行ったところ,教員と児童の意識には少なからず差異が認められた.動画として取り扱う教科についても教員と児童間に差異が見られ,教員は児童が苦手な教科を選択しているのに対し,児童は自分が得意な教科や楽しい教科を選択する傾向があることが把握された.

  • 孕石 泰孝
    2023 年 37 巻 5 号 p. 49-52
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    児童が一人一台端末を持つようになり,実験のまとめは必ずしもノートではなく,端末でも行えるようになった.端末でまとめを行えば,どのアプリケーションを使うかによって様々なまとめ方ができる.主なまとめ方としては,スライド形式,動画形式,デジタルブック形式となるが,児童にどの形式でまとめるか,自由に選択させると,最も多いのがスライド形式,続いて動画形式,デジタルブック形式となることが分かった.そして,その選択の基準は「操作性」に関することが最も多く,「機能」に関することがそれに続いた.また,それらのまとめ方を選択する基準として,「分かりやすくするため」等の「目的」は,「操作性」や「機能」よりも少ないが,簡単な言葉がけなどがあれば,「目的」を選択の基準として意識させることも十分可能であることが明らかとなった.

  • 小林 菜々香, 山本 朋弘, 山本 真優
    2023 年 37 巻 5 号 p. 53-56
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究では,小学校音楽科の授業において,1人1台の情報端末とWebアプリの有効な活用方法を検討することを目的とし,Webアプリを活用した旋律づくりの授業を対面型とオンライン型で実践し,教育効果を比較検証した.授業後の児童向けアンケートを分析した結果,曲作りのやりやすさと活動の楽しさ,活動意欲の3項目において,対面型の授業の方がオンライン型の授業より,有意に高い結果となった.自由記述をテキスト分析した結果,対面型の授業では教師への質問しやすさ,オンライン型の授業ではWeb上で友達の作品を聞くことができるよさを感じていることが分かった.Webアプリを用いたオンライン型の授業では,作成した旋律をクラウド上で共有する支援が必要であることを明らかにした.

  • 舟生 日出男, 松峯 笑子, 久保田 善彦, 鈴木 栄幸
    2023 年 37 巻 5 号 p. 57-60
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究では,近年の大学生が個々の授業について深く学ぼうとせず,単位を取ることだけに止まり,学修が不確かなものとなることについて,学生が安直に正解を求めようとする姿勢と,他者と協力したり助力を求めたりせずに独力で取り組む姿勢,という2つの負の特徴に着目した.そこで,1)コンセプトマップを活用すること,2)コンセプトマップを学習共同体の中で相互に参照し合うことを促すこと,によってそうした姿勢を改善することを目的として,学習共同体における構造的読解と相互参照を促すための可視化・共有手法を提案するとともに,それらを実装した支援ツールを開発した.

  • 現象学的アプローチによる経験の語りとは
    吉田 実久
    2023 年 37 巻 5 号 p. 61-64
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    ディープ・アクティブラーニングの導入に伴う新しい学習観への変革に対し,現象学の可能性を論じた.現象学とは,現象を認識することから本質を捉えることが出来ると考え,体験した当事者の声をそのまま聴くことを重要視する.科学教育と現象学の研究はすでに蓄積があるが,科学教育研究者自身の位置づけについての議論は十分ではない.先行研究から,1) 科学教育の現象学,2) 科学教育における現象学,3) 現象学と科学教育の統合という種類があることが示されている.本稿では,当事者研究の枠組みから科学教育における現象学の有用性を述べた.現象学のアプローチは,科学教育における多様な人々それぞれの体験の語りを集めることにより,科学教育に関わる人々の学習観の変革をもたらすことが出来る可能性が示された.

  • 松原 憲治
    2023 年 37 巻 5 号 p. 65-70
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本報告では,教師が探究活動を理解するための視点や,カリキュラム上でどのような探究活動を行うかを検討する際の視点として,探究の質に関する簡易的な枠組みを検討することを目的とした.特に,Banchi & Bell (2008) の探究レベルのモデルに対し,日本のカリキュラムと関連させて検討した.また,米国におけるこれまでの探究レベルに関する一連の研究を整理し,探究活動の質の議論におけるその基準と範囲を明らかにした.それらを基に,教科等横断的な視点から探究レベルの枠組みに学問領域を加えることで,探究レベルの拡張について予備的な考察を行った.

  • ~炭酸水素ナトリウムの熱分解の授業を事例に教師の支援の違いに着目して~
    谷本 薫彦, 松原 憲治
    2023 年 37 巻 5 号 p. 71-74
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本報告では,炭酸水素ナトリウムを題材として用いてBanchi & Bell(2008)の探究レベル別に,どのような探究活動が計画できるか具体的な授業場面をデザインした.また,教師の支援について特徴的な展開を描き,各レベルで育成が期待される力について検討した.加えて,そこでの問いの特徴と教師の支援について議論した.教科内容を含む具体的な授業場面を検討することで,確認としての探究では体験的な科学的知識の習得,構造化された探究では知識を見いだして理解する力,導かれた探究では見通しをもって解決する方法を立案する力,開いた探究では見いだした関係性や傾向から,課題を設定する力の育成が期待されることを示した.また,教師の支援については,問いによって取り組む探究の構造を生徒に示すことから,問いの着想を得るための文脈を提示することに変わることを示した.

  • 口羽 駿平, 山口 悦司, 坂本 美紀, 山本 智一, 原 愛佳, 近江戸 伸子, 俣野 源晃, 澁野 哲
    2023 年 37 巻 5 号 p. 75-78
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    科学技術の社会問題(Socio-Scientific Issues)とは,科学と技術的・手続的・概念的に関連し,論争を呼び起こす社会問題のことである.これまでに,国内外において,科学技術の社会問題を取り上げた教育プログラムが開発・評価されている.筆者らはこれまで,小学生を対象とし,スギ花粉米を題材とした教育プログラムの開発と評価を行ってきたが,新たなトピックを題材とした教育プログラムの開発はまだ行っていない.そこで,本研究では,科学技術の社会問題の新たなトピックとして,ゲノム編集を題材とした教育プログラムの開発を試みた.本稿では,そのプログラムの概要として,学習活動と教材について報告する.

  • ―第4学年「人の体のつくりと運動」における腕と頭蓋の比較―
    松山 友香, 山本 智一
    2023 年 37 巻 5 号 p. 79-84
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究では,McKibben型ゴム人工筋肉を腕部や頭蓋部の模型に装着し,児童による学習内容の理解度や模型教材の使用感という観点から,教材の効果を明らかにした.人工筋肉を着脱できる腕部と頭蓋部の模型教材を作製し,第4学年理科「人の体のつくりと運動」の学習に導入した.ワークシートの記述や質問紙調査によって,児童の学習内容の理解度と模型教材の使用感を調べた結果,腕部と同等の効果が頭蓋部の模型によっても得られた.学習内容に関しては,「体を動かす時の筋肉のつき方」と「強い力を出す時の筋肉の様子」についての理解を促し,模型教材の使用感に関しては,「操作性」以外の「理解」「生体との対応」「試行錯誤の促進」について腕部と同等の効果が認められた.これらの結果から,頭蓋部の模型教材によって,腕部における「骨と筋肉のしくみと働き」の知識を頭蓋部へ拡張し,体を動かすしくみの理解を可能にすることが明らかとなった.

  • 堀舘 秀一, 舟生 日出男, 清水 由朗
    2023 年 37 巻 5 号 p. 85-90
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究の目的は,児童・生徒が岩絵具についてコンピュータ画面上で擬似的に体験するためのSTEAM教育用デジタル教材としてのデジタル岩絵具描画ツールを開発することを目指し,岩絵具の質感をパターンタイル化する手法を検討するとともに,既存の描画用アプリを用いた評価実験を通して,デジタル岩絵具描画ツールに実装すべき機能を洗い出すことである.岩絵具の質感を知覚できるようなテクスチャとしての特徴を際立たせた岩絵具パターンタイルについて,手法を検討しながら天然岩絵具を中心に123種類について作成した.パターンタイルを用いた描画では,塗り絵の要領で塗りつぶす方法をとるため,その活動に適した画像イメージを選定し作成した.またSTEAM教育を実現する図工・美術の学習方法を提案するために,それらを使用した評価実験を通して,アプリの操作性をはじめ,その学習効果や実際の教材化に向けた工夫や改善点についての検討を行う.

  • 豊田 花恵, 井口 直子, 宮城 一菜, 吉田 安規良
    2023 年 37 巻 5 号 p. 91-96
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    生活科の目標に食育の視点を位置付けた学級担任による授業実践に第一筆者が栄養教諭として調整段階から関わり,生活科における食育の在り方を研究した.栄養教諭が学習について事前の素地づくりや事後の積み重ねや発展まで意識した食育をデザイン,計画する形で学級担任の実践を支援することで,児童は学習後の実生活に学んだことを継続・発展させることができた.栄養教諭が食に関連する教科等と自身の特質や傾向を理解した上で,教科の学びを抜け落とさずに食育の視点を取り入れたつながりのある教科等横断的な学習計画を用意し,教諭と連携・協働しながら,児童生徒や学校・地域の実態に合わせて実践することで,生活の中に溶け込んだ学びを継続的に意識させ,主体的に学習に向かわせることが可能だと示唆された.

  • 武田 義明, 溝口 博, 楠 房子, 舟生 日出男, 杉本 雅則, 山口 悦司, 稲垣 成哲
    2023 年 37 巻 5 号 p. 97-102
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    人類の生存の基盤としての自然環境やその変化,生物多様性の保全について体験的かつ実感的に学習する必要性が指摘されてきている.その最適な教材の一つは,日本においては里山である.里山における人間とのインタラクションによる変化・移行(遷移)を可視化できる教材の開発とそれを効果的に利用した教育プログラムの提案が求められている.本研究の目的は,ITによる里山管理ゲーム教材の開発及びそれを統合した里山環境保全教育プログラムを提案することであった.4年間の研究を通して,日本の代表的な里山としての西日本地域の六甲山や南九州の宮崎をコンテンツとする里山管理ゲームを完成させるとともに,ゲームを統合した里山環境保全教育プログラムを提案することができた.

  • 田中 達也, 山口 悦司, 小林 和奏, 青木 良太, 武田 義明, 溝口 博, 楠 房子, 舟生 日出男, 杉本 雅則, 稲垣 成哲
    2023 年 37 巻 5 号 p. 103-106
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究の目的は,「里山管理に関する知識獲得を支援するためのツール」として開発された「里山管理ゲーム」を小学校理科授業に導入し,生物多様性を豊かにするための人と環境との関わりを捉えることを目指した小学校理科授業の単元をデザインすることであった.本研究で導入された「里山管理ゲーム」は,学習者が里山の管理人となり,1ゲームで10ターン(約150年間)の里山管理を体験することができるものであった.本研究でデザインされた授業の単元は,小学校第6学年理科の内容B生命「(3)生物と環境」であった.本単元の内容は,「生命」についての基本的な内容のうちの「生物と環境の関わり」に関わるものであり,中学校第2分野「生物と環境」,「自然環境の保全と科学技術の利用」の学習につながるものであった.開発された単元では,「里山管理ゲーム」を活用した授業を単元導入として実施した.これにより,単元全体を通して,人の生活と持続可能な環境との関わり方としての「保全」の視点を児童が意識できるようにした.

  • シカ駆除の必要性に関する知識獲得過程の相互行為分析
    小林 和奏, 山口 悦司, 青木 良太, 武田 義明, 溝口 博, 楠 房子, 舟生 日出男, 杉本 雅則, 田中 達也, 稲垣 成哲
    2023 年 37 巻 5 号 p. 107-110
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    里山における生物多様性や環境保全の学習支援を目指して,武田ほか(印刷中)は「里山管理ゲーム」を開発してきた.本ゲームではプレイヤーが里山の管理人となり,約150年間の里山管理を体験できる.この体験を通して,里山の生物多様性や環境保全に関する知識獲得が期待されている.しかし,これまで小学校の授業実践における本ゲームの活用とその学習支援上の有効性の検討はされていない.本研究では里山管理ゲームを用いた小学校理科の授業を行い,ゲームプレイ中の相互行為分析を通したシカ駆除の知識獲得過程の事例的検討を行った.その結果,シカ駆除の必要性に関する知識を獲得できていたペアでは,長期的に見てシカを駆除すべきであるということへの気付きが達成されていたことがわかった.一方,シカ駆除の必要性に関する知識を獲得できていなかった児童を含むペアでは,長期的に見てシカを駆除すべきであるということへの気付きが達成されていなかったことが明らかとなった.

  • 住田 遥, 谷田 親彦
    2023 年 37 巻 5 号 p. 111-114
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    高等学校情報科の共通必履修科目として設定された「情報Ⅰ」では,これまでの情報科において履修されることが少なかった教育内容が含まれている.これらの教育内容については,授業実践や指導方法の蓄積が少なく,よりよい学習指導の在り方を検討して「情報Ⅰ」の実践を充実させる必要がある.本稿では,高等学校「情報Ⅰ」の「モデル化とシミュレーション」の学習について,学習指導要領の変化,教科書の記載事項及び先行研究から,「①現実的な問題とその解決」をテーマとして,「②問題の状況を想定したモデル化とシミュレーション」を行う授業の必要性を指摘し,これを実現するための8時間の授業を立案した.

  • 坂田 雪菜, 山本 朋弘
    2023 年 37 巻 5 号 p. 115-120
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究では,家庭に情報端末(以下:端末)を持ち帰って自主的な学習をどのように進めるかを明らかにするため,教員養成課程の大学生を対象に端末持ち帰りによる家庭学習に関する意識調査を実施した.そして,家庭での端末の活用状況に対して,過去の自主的学びの経験が影響するかどうかを検討した.その結果,自主的学びの経験高群が低群に比べて,端末を用いた多様な学習方法を認識しており,学校内と保護者との共通理解,支援や指導,教育的必要性の項目で有意な差が見られた.育成される能力については,高群と低群ともに,情報活用能力や自主的・主体的な学習姿勢に関する記述が見られたが,高群は家庭学習について多様な方法と能力を挙げていた.

  • 有村 美英, 山本 朋弘
    2023 年 37 巻 5 号 p. 121-126
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究では,ドローン等の新たなテクノロジーを教育現場でどのように活用すればよいかを明らかにすることを目的として,小学校においてドローンを活用した授業を実践した.また,児童が操作する方法として,コントローラ操作とプログラミング操作の2つを取り上げ,異なる学習効果が見られるかを検討した.コントローラ操作とプログラミング操作の違いによる検証授業での児童向けアンケートでは,操作の難易度や思考の度合い等の質問項目で有意な差が見られた.プログラミング操作がコントローラ操作と比較して,難易度を高く感じており,児童が試行錯誤しながら活動したことが示された.また,児童は,プログラミング操作がコントローラ操作と比較して,思考の度合いが深いと感じていることが示された.

  • ―アンモニアソーダ法の授業へと適用するための試案―
    下川 瑞貴, 江頭 孝幸, 野口 大介
    2023 年 37 巻 5 号 p. 127-130
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
    研究報告書・技術報告書 フリー

    「炭酸アンモニウム」は不安定な物質であり,市販品は炭酸水素アンモニウムとカルバミン酸アンモニウムの混合物とされる.炭酸水素アンモニウムとカルバミン酸アンモニウムには結晶構造が知られており,最近では炭酸アンモニウムについても一水和物の結晶構造が報告された.こうした結晶構造データを効果的に用いれば,高校化学の無機物質分野におけるより魅力的な授業を展開できるかもしれない.すなわち,簡易型アンモニアソーダ法の生徒実験を湯煎および氷冷による二通りで実施すれば,高温と低温で生じる違いを事前に予想させつつ,観察に目的意識を持たせることができる.そして反応温度により生成物が異なることに気づかせ,思考を深めさせることも期待できる.結晶構造を立体的に表示すれば,視覚的理解に基づくさらに発展的な学習も可能だろう.

  • ―防災の文脈での第5学年「流れる水のはたらき」の事例から―
    安影 亜紀, 中山 迅
    2023 年 37 巻 5 号 p. 131-134
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
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    STEAM教育の土台として,小学校でのプログラミング教育の充実に努める重要性が謳われている.小学校第5学年理科「流れる水のはたらき」の終盤で,対象校の校区内で発生した水害をもとに,「災害が起こる前に,地域住民にいちはやく危険を知らせる」ためのプログラミング体験を取り入れた理科学習を実施した.授業後,児童に面接調査を実施したところ,プログラミング体験を取り入れた理科学習を経て,今後プログラミングで実現したい事項として,防災だけにとどまらず,危険場面の回避や現代社会の課題解決への応用を考えており,科学の有用性を実感していたことが示唆された.

  • 中島 康, チャトリー ファイクハムタ
    2023 年 37 巻 5 号 p. 135-140
    発行日: 2023/02/23
    公開日: 2023/02/21
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    タイ国の小学校初年度科学教育における科学学習のためのスキルの導入について調査したところ,次の3 点が明らかになった.1)タイ国の小学校科学教育では14種類の科学のプロセススキルと6種類の21世紀スキルの合計20種類の科学学習スキルの習得が明示的な目標として設定されている. 2) 小学校初年度の科学学習においては17個のアクティビティが準備されているが,そのすべてに『観察』・『コラボレーション』スキルの実践が含まれている.加えて,『コミュニケーション』スキルの実践は16個のアクティビティに含まれ,『推論』スキルの実践も14個のアクティビティに含まれている.3)2)の4種類のスキル以外にも8種類のスキルの実践がアクティビティに含まれ,合計12種類のスキルの実践がタイ国の小学校初年度の科学学習には含まれている.

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