堆積学研究
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研究報告
北太平洋中央部シャツキーライズから採取されたコア堆積物の底生·浮遊性有孔虫の放射性炭素年代差
大串 健一内田 昌男柴田 康行
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2017 年 76 巻 1 号 p. 17-27

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抄録

深海堆積物の同一層準における浮遊性有孔虫と底生有孔虫の放射性炭素年代差は最終氷期から完新世にかけての海洋循環速度を示す深層水の年齢を推定するための有効な古環境指標となる.しかし,炭酸塩の保存性が悪い太平洋の深海底では,深層水の年齢復元に適する海底堆積物コアを得ることは非常に難しい.北太平洋の中央部に位置するシャツキーライズは,有孔虫殻からなる炭酸塩物質を多く含む深海堆積物が堆積する数少ない場所である.本研究ではシャツキーライズから得られた2本の海底コア試料(コアNGC102とコアNGC108)の底生·浮遊性有孔虫の放射性炭素年代差を分析した.本コアは生物攪拌を受けた石灰質軟泥である.堆積速度は,コアNGC102(水深2612m)で1.4-5.3cm/kyrであり,コアNGC108(水深3390m)で2.3-6.6cm/kyrであった.底生·浮遊性年代差は,コアNGC102で7010年〜180年,コアNGC108で2730年〜580年を示した.コアNGC102において,海底面下の堆積物混合層で得られた大きな底生·浮遊性年代差(平均で6440年)は報告されている現代の北太平洋深海水の年齢よりもおよそ4700年大きい.この底生·浮遊性年代差が実際の深層水の年齢から大きくずれたのは,堆積速度が遅いため生物による堆積物の鉛直混合(生物攪拌)の影響を受けて,古い層準の底生有孔虫個体が上方移動したことが底生·浮遊性年代差に反映された結果と考察した.一方,深さ14-16cmでは年代差2470年とおおよそ現代の深層水の年齢に近くなるが,22-28cmでは180〜220年と小さすぎる年代差である.コアNGC108は,コアNGC102より堆積速度が速く,底生有孔虫,浮遊性有孔虫の産出個体数変動パターンが類似しており,底生·浮遊性年代差への生物攪拌の影響が比較的小さいと考えられる.15700年前の底生·浮遊性年代差の値(990±200年)は,現代の深層水の年齢より760年小さい.この小さい年代差は,ハインリッヒ寒冷イベント1の間に北太平洋で深層水が形成され,その影響下にコアNGC108地点があった可能性を示す.しかし生物攪拌や大気放射性炭素濃度の減少による見かけ上の効果を反映するかの検討が今後の課題である.

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© 2018 日本堆積学会
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