2025 年 2 巻 p. 44-55
本研究は、ろう者の姉をもち、手話と日本語の2言語環境の家庭で育つ聞こえるバイモーダル児(1歳8ヶ月~3歳9ヶ月)の言語発達、特に身体的コミュニケーションの発達についての縦断的ケーススタディーである。結果、音声言語の発達は日本語モノリンガル児と比して、大きな差は見られなかった。身体的コミュニケーションについては、単語の表出量自体は少ないものの、手話単語の表出の割合が一時的に減り、象徴的ジェスチャーが増加するといった状況が見られ、手話環境で育つろう児の身体的コミュニケーションの発達と類似していた。また、指さしの機能についても日本語モノリンガル児に見られる指さしの機能と同様の発達に伴う変化が観察され、3歳頃からは指さしの代名詞的活用や動作主の人称に応じた文末の指さし等の手話の文法的機能をもつ指さしも観察されるようになった。本研究から、バイモーダル児は手話にふれる時間は音声日本語に比して僅少であるにも関わらず、手話単語や象徴的ジェスチャー、指さしといった身体的コミュニケーションの発達において、ろう児や日本語モノリンガル児と類似性が示唆される。