抄録
1991年のフィリピン・ピナツボ火山の火山噴火と継続するラハール(火山泥流)災害によって,火山周辺の農耕地は大きな被害を受けた。本稿では,植生(主に野生サトウキビ)の回復レベルが異なるラハール堆積物の化学的特性と堆積物中で形成される微生物フロラについて分析した結果を述べ,植生の自然回復と微生物フロラの連関について考察した。ラハール堆積物の化学的特徴は,全炭素,全窒素量が低く,硫黄化合物含量が高い点であった。植生の回復レベルにかかわらず,堆積物中の細菌フロラでは,高G+Cグラム陽性菌が主要な細菌グループであったが,その菌種構成は,植生回復レベルの違いによって大きく異なった。すなわち,植生の自然回復が認められなかった地点ではNocardioidesとTerrabacterが主要なグラム陽性菌種であり,野生サトウキビがスポット状に生育していた地点ではそれらに代わってStreptomycesが優勢であった。同様に,グラム陰性菌の菌種構成も,β-プロテオバクテリアのグループであるRalstoniaからα-プロテオバクテリアのBradyrhizobium/Rhizobiumへシフトした。以上の結果をもとに,植生の自然回復と連関する二つの微生物生態系を考察した。