土と微生物
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水田土壌の鉄還元菌のもう一つの顔―窒素肥沃度を支えるキープレーヤー―
増田 曜子
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2018 年 72 巻 1 号 p. 7-13

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抄録

 水田では畑と異なり、無窒素施肥でも高い作物(水稲)収量が得られる。このことは、水田土壌における自律的な窒素肥沃度維持システムの存在を意味している。そのシステムの一つとして、硝酸や窒素ガスをアンモニアに変換するDNRAや窒素固定反応が考えられ、これらを駆動する微生物群の解明は土壌微生物学の重要課題である。しかし、水田土壌においてDNRA反応を駆動する微生物群集は未解明であった。また、窒素固定反応はCyanobacteriaが主に行っていると長らく考えられてきた。筆者らが行なった新潟水田土壌のメタトランスクリプトーム解析において、Deltaproteobacteria綱のAnaeromyxobacter属、 Geobacter属細菌由来のDNRAならびに窒素固定遺伝子の転写産物が高頻度に検出された。両属の細菌は鉄還元菌として有名であり、世界各地の水田土壌にユビキタスに存在していることが知られている。筆者らは、各種土壌のメタゲノム解析から、水田土壌のみならず広く還元環境下の土壌においてこれら鉄還元菌と鉄還元菌由来のDNRA・窒素固定遺伝子が優占していることを明らかにした。筆者らの発見は、「鉄還元菌による窒素供給」が水田土壌だけでなく還元的環境下の土壌における普遍的事象である可能性を示唆し、窒素供給を支えるキープレーヤーとしての鉄還元菌の重要性を提唱するものである。

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