2022 年 76 巻 1 号 p. 12-15
世界の総作物生産量のうち,20 ~ 40% は作物の病気や虫の被害によって失われており,作物の病虫害を克服すること は人類の将来を考える上で非常に重要である.様々な病害の中でも,土壌伝染性病害は病原菌が土壌深くに存在し,被害が長期間継続するなど防除が困難である場合が多い.この対策として農薬や土壌くん蒸消毒といった化学的防除法が一般的であるが,環境保全型農業推進の観点から,化学物質を使用しない防除技術が求められている.本稿では環境負荷の少ない土壌微生物を用いた防除法のうち,土壌還元消毒法と生物防除エージェントについて紹介する.土壌還元消毒は土着の微生物の力を利用した方法で,近年様々な地域で導入が広がっている.また生物防除エージェントは土壌から分離した有用な微生物を利用する方法で,世界的にもその需要が高まっており,2025 年には116 百万米ドルと,年間14% もの成長率を記録すると予測されている.また今後の微生物を用いた病害防除の可能性についても述べる.