抄録
安全保障政策に関する3文書において,偽情報拡散等を含めた認知領域における情報戦への対応能力の強化が求めれている.情報操作により認知領域へ影響を与える行為は新しい脅威ではないものの,サイバー空間を経由することで,その脅威は有事から平時へ,局所からグローバルへと影響範囲が拡大した.情報操作型サイバー攻撃は,意図する真の目的を円滑に達成するための醸成活動の一つとして行われ,社会の構成員である国民が社会に混乱を引き起こす要員として利用されてしまう.認知領域の脅威には,偽・誤情報を真実であると誤って解釈するだけでなく,ナラティブによって偏った認知が形成され,真実を偽・誤情報だとみなして訂正を拒絶するようになることも含まれる.透明で健全な情報空間を促進するために,信頼できる情報へのアクセス,情報の完全性によるトラスト形成,透明性を高めるデータガバナンスが求められる.