外科と代謝・栄養
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アミノ酸学会ジョイントシンポジウム
網羅的プロテオミクスによるアミノ酸輸送システム及びその関連シグナルの全体像解明
永森 收志
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2017 年 51 巻 3 号 p. 62

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抄録

 アミノ酸は、タンパク質の部品としてだけではなく、生体反応を制御するシグナル因子として重要で ある。例えば、ロイシン(Leu)はmTOR(mammalian target of rapamycin)シグナル系を駆動し、 多彩な代謝制御に関わる。アミノ酸の細胞への取り込みを担うアミノ酸トランスポーターは、非常に多 様性に富み、ヒトでは約60 分子が報告されているが、分子の検出が容易でないため、その全体像の把 握は困難である。アミノ酸の取り込みは、がん細胞においてはその急速な細胞増殖を保証するため、よ り亢進しているが、がん細胞株における網羅的なアミノ酸輸送系の解析も進んでいなかった。我々は、 生化学的手法による生体膜調整法と定量質量分析によるプロテオミクスを組み合わせることで、アミノ 酸トランスポーターを含む膜タンパク質を網羅的に定量する系を構築し、それを用いて30 種類以上の がん細胞株に対して網羅的比較定量プロテオミクスを行い、アミノ酸トランスポーターの発現プロファ イルを明らかにした。アミノ酸トランスポーターL-type amino acid transporter 1(LAT1/SLC7A5)は、 Leu を含む多くの必須アミノ酸を取り込むトランスポーターである。LAT1 は、がん細胞特異的に高発 現し、その発現はがんの悪性度と相関していること、またLAT1 の抑制は抗がん効果を示すことが明 らかにされつつある。網羅的解析の結果、LAT1 はほぼすべての細胞株に存在し、輸送活性解析と合わ せた結果から、LAT1 はがん細胞におけるLeu 輸送の主要な経路であることが示された。そこで次に、 リン酸化プロテオミクスにより、LAT1 を介して細胞内に取り込まれたLeu によるシグナル制御と細 胞機能制御の実態を網羅的に解析した。Leu により、細胞成長・増殖経路が活性化されることが確認さ れ、さらに細胞組織化、細胞間相互作用、細胞周期や脂質代謝も、LAT1 により取り込まれたLeu に より制御を受けていた。がん細胞におけるアミノ酸輸送システムの全体像が明らかになり、また細胞外 から取り込まれたアミノ酸(Leu)により応答するシグナルの全体像も示された。これによって、がん の代謝制御におけるアミノ酸の役割を解明するための基盤情報が得られ、さらに同様の手法を用いるこ とにより他の疾患、病態におけるアミノ酸の役割の解明も可能になったと考えられる。

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