外科と代謝・栄養
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特別講演2
SL-2 アディポネクチンの新しい側面
下村 伊一郎
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2018 年 52 巻 3 号 p. 52

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抄録

 私達は、内臓脂肪蓄積が種々の生活習慣病・老化性疾患の上流にあること、脂肪組織が種々の生理活性因子(アディポサイトカイン)を産生分泌し、肥満時のアディポサイトカイン産生異常がこれら疾患の上流に存在することを示した。そのなかで、アディポネクチン(APN)はヒト脂肪組織発現遺伝子解析(Body Mapプロジェクト)により同定した脂肪細胞特異的分泌蛋白で、特に多量体APNは多彩な臓器細胞保護作用を有し、肥満時の低APN血症が慢性臓器障害の上流となる。
 最近、私達は、多量体APNが細胞膜GPIアンカー蛋白であるT-cadherin(T-cad)への結合を介して抗動脈硬化作用を発揮することを示し(Sci. Rep 2014, Endocrinology 2015, FASEB J 2017)、またGWAS解析によりT-cad遺伝子近傍SNPsが血中APN濃度や心血管疾患など多くの疾患と強く相関することが示された(Diabetes 2011他)。APN/T-cad結合について検討した結果、KD=1nMという高い親和性を示し、多量体APNは血清中に存在するT-cad主要結合蛋白であった(Fukuda, JBC 2017)。APNが通常のホルモンやサイトカインの103~106倍高濃度で血中に存在していることより、一般的なシグナル伝達機構とは異なる機序が想定され、最近、APN/T-cadによるエクソソーム産生を介した細胞外への不要物排出促進作用を見いだした(Obata, JCI insight 2018)。すなわち、APNとT-cadは細胞表面から内部に取り込まれ、エクソソーム産生の場である多胞体(MVB)に集積し、エクソソーム構成蛋白として再分泌されること、またMVBでのエクソソーム生合成を促進させ、血中エクソソーム量をも規定すること、さらにこの作用によりセラミドのエクソソーム排出促進を介して細胞内セラミドを低下させること、が示された。エクソソームは細胞間情報伝達作用に加え、古典的な作用として不要物排出作用が言われている。
 APN/T-cadは細胞表面保護に加え、エクソソーム産生・分泌促進を介して様々な不要物や有害物の細胞外排出を促進し、細胞保護・恒常性維持に働いていることが示唆され、APNの多彩な臓器保護作用を説明しうる可能性が考えられる。

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© 2018 日本外科代謝栄養学会
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