抄録
水銀は,金属元素の中で唯一常温· 常圧で液体として存在し,その特異な性質のために,古くからヒト
の生活に有用な金属として重宝されてきた.しかしながら,水銀化合物の一つであるメチル水銀は水俣
病に代表される健康被害の原因物質としてその毒性が広く認識されている.また,金属水銀は常温で一
部は気化するため,大気環境中へ一旦放出されると,放出源から遠く離れた場所まで輸送されてしまう.
このような背景から水銀は地球規模の環境汚染物質としても認識されており,国際条約化による対策が
行われている.しかしながら,現在でも人間活動による水銀の利用は止むことがなく,とりわけ金の採
掘に使用される水銀の環境汚染やヒトへの健康被害が問題となっている.本報では,金採掘を中心にそ
の水銀使用による汚染の現状と課題について概説する.