社会心理学研究
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原著論文
集団と個人の地位が社会的支配志向性に及ぼす影響
杉浦 仁美坂田 桐子清水 裕士
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2014 年 30 巻 2 号 p. 75-85

詳細

問題

差別や偏見など集団間で生じる葛藤は、地位格差のある集団間で生じることが多い。たとえ、それが直接的な集団間葛藤の原因でなかったとしても、地位格差の存在によって葛藤が激化したり、問題の解決が困難になることもある。すなわち、集団間葛藤を解決するためには、その原因や調整要因となる、集団間の地位格差(集団レベルの不平等な階層構造)が維持・縮小されるメカニズムを明らかにする必要がある。本研究では、集団間の地位差が人々の階層に関する志向性にどのように影響を及ぼすのかを明らかにすることを目的とする。

社会的支配理論と社会的支配志向性(SDO)

この問題の解明に取り組んだ先行研究に、社会的支配理論(Social Dominance Theory; Sidanius & Pratto, 1999)がある。社会的支配理論では、集団間の平等または階層的な関係性についての個人の志向性を社会的支配志向性(Social Dominance Orientation:以下、SDO; Pratto, Sidanius, Stallwarth, & Malle, 1994; Sidanius & Pratto, 2011)と呼ぶ。Sidaniusらの一連の研究では、SDOが高い人ほど階層的な社会の構造を好み受け入れやすいことが示されており、階層維持メカニズムを説明する上での中心的な概念としてSDOが位置付けられている。

社会的支配理論によれば、階層構造が維持されるためには、SDOだけでなく不平等を促進する“人々に共有された集合的なイデオロギー(正当化神話)”の影響が大きいと言う。例えば、人種主義や性差別主義などのイデオロギーがこれに相当する。このようなイデオロギーは、集団間の不平等に対して、道徳的で知的な正当化を与える働きをしている。つまり、社会的支配理論の基本的な考えをまとめると、SDOの高い者は不平等な集団間関係の維持を望み、階層の拡大を支持するイデオロギーを形成する。そして、このイデオロギーにより、その意図に沿った社会制度や組織が作られる。逆に、SDOの低い者は、平等的な関係を望み、階層の縮小を支持するイデオロギーを形成して、このイデオロギーの意図に沿った制度や組織を作る。さらに、これらの要因は相互に影響し合っており、現在の不平等な状態を維持、強化したいという動機が原因となって、SDOが高くなることもある。このように、社会的支配理論は不平等の維持メカニズムに対して、個人、集団、社会という、マルチレベルな相互作用の過程を提唱している点に特色がある。

社会的文脈によるSDOの変化

社会的支配理論の中でも、特にSDOについては、内集団バイアスや政治的態度など、不平等が原因で生じる様々な集団間態度を予測する変数として、多くの研究が蓄積されている(Pratto et al., 1994; Pratto, Stallworth, Sidanius, & Siers, 1997; Sidanius, Henry, Pratto, & Levin, 2004; Sidanius, Sinclair, & Pratto, 2006)。しかし、このSDOが、特性的なものであるのか、それとも状態的なものであるのかは、理論の中で詳しく言及されておらず、研究者の解釈に委ねられている。もし、SDOが変化するのであれば、どのような文脈の影響を受けるのだろうか。

現実集団を対象とした調査では、集団間地位によりSDOに差が見られることが明らかとなっており、ヨーロッパ系アメリカ人や男性など、支配的な立場にいる者(高地位集団)は、アフリカ系アメリカ人や女性など、被支配的な立場にいる者よりもSDOが高いという安定的な結果が見られている(Pratto, Sidanius, & Levin, 2006; Sidanius, 1993; Sidanius, Levin, Liu, & Pratto, 2000; Sidanius, Pratto, & Bobo, 1994; Sidanius, Pratto, & Brief, 1995)。これは、個人レベルの要因と集団レベルの要因が、相互に影響し合うという社会的支配理論の仮説と一致した結果であり、SDOが社会的文脈によって規定される可能性を示唆した結果であると言える。

しかし、これらの結果はいずれも、性別や人種、民族など、集団の地位が固定している集団間状況を暗黙に想定した結果である。つまり、ある程度の期間、地位の恩恵や特権を受けたことで、現状の地位を維持したいという動機が高まり、高地位集団メンバーのSDOが高まったと考えられる。ただし、集団間の地位関係は、必ずしも固定的であるとは限らない。例えば、日本では学歴が階層として機能するという議論がある(池上,2012)。大学は数多くあって入学偏差値によってランキングされている。そのため、自分の所属大学よりも偏差値が上の大学と比較すれば自分たちは低地位集団、下の大学と比較すれば高地位集団となる。集団間格差維持・縮小メカニズムを明らかにするためには、SDOがこのような相対的な地位関係においても異なるのかどうかを明らかにする必要がある。

この点に関して、先行研究では、一時的に顕現化した社会的文脈であっても、SDOが変化しうることが示されている(Guimond, Chatard, Martinot, Crisp, & Redersdorff, 2006; Huang & Liu, 2005; Pratto et al., 2006; Schmitt, Branscombe, & Kappen, 2003)。Pratto et al.(2006)によれば、Levin(1996)は、ユダヤ系イスラエル人を参加者とした実験で、地位差のある二つのユダヤ民族間での比較をプライミングした場合にはその民族間でSDOに差が見られるが、イスラエル国内のアラブ人との比較をプライミングした場合には、この差が見られなくなることを示している1)。これは、ユダヤ民族間で比較した場合には、民族間の地位差がそのままSDOに反映したが、ユダヤ対アラブの比較の場合には、両ユダヤ民族とも自分たちのほうがアラブ人よりも地位が上であると認識したため、SDOに差が見られなくなったことが原因であると考えられる。すなわち、同一の集団であっても、比較する外集団の地位によってSDOが異なるということである。これらの研究を踏まえると、SDOは、たとえそれが相対的な地位であったとしても、集団の地位によって変化すると考えることが妥当である。では、なぜこのような変化が見られたのだろうか。

Morrison & Ybarra(2008)の研究では、SDOは、集団の地位が脅威状況にある場合に変化することが示されている。具体的には、多数派である高地位集団のメンバーで内集団に高く同一視している者は、少数派の低地位集団によって、自分たちの集団の地位が脅かされるような情報を呈示されると、一時的にSDOが高くなる傾向がある2)Morrison & Ybarra, 2008)。この結果は、高地位集団のメンバーにとっては、集団の地位が自己高揚の源泉であるため、地位が逆転する可能性を脅威づけられると、現状の地位差の維持への動機が高まり、その結果、SDOが上がったと解釈することが可能である。Morrison & Ybarra(2008)の研究では直接検討されていないが、低地位集団においても、自己高揚の観点から同様に、集団の地位により自己価値が脅かされるような状況では、集団の地位を改善することが動機づけられ、積極的に格差を否定し、SDOが下がるというメカニズムが考えられる。このように、本研究では、SDOは、集団の地位の維持や改善の動機が反映した状態的なものと捉え、比較対象となる集団の地位によって変化する概念であると考える。

SDOの2因子仮説

これを実証するために考慮すべき点は、SDO尺度の一次元性の問題である。上記の議論から言えば、低地位集団のメンバーは、集団間格差を維持する志向性が低くなるというよりも、集団の地位を改善するために、集団間格差を縮小する志向性が強くなると考えるほうが妥当だと考えられる。しかし、SDO尺度は、一次元として作られたためにこの点は測定できない。

近年では、SDOが「集団支配志向性」と「反平等主義志向性」の2因子に分けられること(Ho, Sidanius, Pratto, Levin, Thomsen, Kteily, & Sheehy-Skeffington, 2012; Jost & Thompson, 2000; Kugler, Cooper, & Nosek, 2010)、また、これら二つの因子は、それぞれ異なる集団間態度や行動を予測することが示されている(Jost & Thompson, 2000)。集団支配志向性因子は、支配的な階層構造に対する支持の程度を表し、反平等主義志向性因子は、平等な集団間構造に反対する程度を表している。なお、反平等主義志向性因子は、SDO尺度の逆転項目として設定されていた「平等を支持する」意味合いの項目群から構成されているが、SDO尺度は階層構造を支持する程度を測定するための尺度であることから、先行研究では、「反平等主義志向性」を表すように得点を逆転して用いられてきた。しかし、低地位集団の「集団間格差縮小の志向性」を測定するためには、むしろ「平等主義志向性」を表す尺度のほうが適切である。そのため、本研究では、SDOを1因子ではなく2因子として捉えると共に、先行研究で得点を逆転して用いられてきた「反平等主義志向性」を、得点を逆転せずに「平等主義志向性」として用いる。

SDOに対する集団内地位の効果

もし、内集団の地位の維持・改善を動機づけられることによって、状況依存的にSDOが変化するのであれば、集団内においても、この動機を強くもつ者において、集団間地位の影響が強く見られると考えられる。いくつかの先行研究で、集団の地位だけでなく集団内の個人の地位も集団の評価や集団間行動に影響を及ぼすことが示されていることから(e.g., Branscombe, Spears, Ellemers, & Doosje, 2002; Seta & Seta, 1996)、同じ集団の中でも集団内の地位によって集団間地位差の維持・縮小動機が異なる可能性があると考え、本研究では、集団内地位に着目する。社会的支配理論がこれまで焦点を当てていなかった集団内地位の効果を検討することには、集団間地位差の維持・縮小メカニズムに関する新たな知見を加える意義があると考えられる。

集団間の地位と集団内の地位を同時に考慮した場合、どのような予測が可能だろうか。近年、集団内での比較のほうが、集団間比較よりも自己評価に大きな影響を及ぼすことが示唆されている(Zell & Alicke, 2009)。そこで、自己評価の観点から次のように予測する。

高地位集団にとっては、低地位集団は内集団の地位を逆転する可能性のある脅威となる集団である。特に、高地位集団の低地位者は、個人の地位が低いため、自己評価を高く保つためには集団の地位を自己評価の源泉とする必要がある。よって、高地位集団の低地位者は、高地位者に比べて集団への同一視が強くなり、集団の地位を維持することに強く動機づけられると考えられる。そのため、高地位集団では、集団内の地位が高い者よりも、低い者のほうが集団支配志向性が高いと予測される。

低地位集団の高地位者は、低地位者に比べて肯定的な自己評価を達成しているが、集団間比較をする場合にはその肯定的な自己評価が脅威を受けることになる。言い換えると、本人の自己評価は高いにもかかわらず、内集団の評価が低いことから、他者から不当に評価される可能性を常に脅威としてもっている。この脅威を回避するために、高地位集団への移動が可能であれば、個人移動を選択すると考えられるが、個人移動が不可能な場合は、集団の地位の改善に強く動機づけられる(e.g., Branscombe et al., 2002)。よって、低地位集団には、「集団の地位を改善する」というインセンティブがあることから、高地位集団よりも集団間比較を行いやすく、集団の地位の改善を動機づけられると考えられる。一方、低地位集団の低地位者は、集団内比較でも集団間比較でも肯定的自己評価が達成できないため、所属集団に対して同一視をしない状態になり、低地位集団の高地位者ほどには集団の地位を改善することに動機づけられないと考えられる。本研究では、高地位集団への個人移動が非常に難しい集団状況(大学)を想定するため、低地位集団では、集団内の地位が低い者よりも高い者のほうが、集団の地位の改善を動機づけられ、平等主義志向性が高いと予測される。

本研究の概要

以上のことから、本研究では、大学という集団を対象として、SDOが集団状況によって変化するかどうかを検討するとともに、集団内地位によっても変化するかどうかを検討する。これまでの議論から、以下の二つの仮説を検討する。

研究1

研究1では、仮説1、2の検討を行う。同一の集団に所属する参加者に対して、比較対象となる集団の地位を変えることで、集団間地位の操作を行い、SDOに変化が見られるかを検討する。なお、本研究では大学という実在集団を用いるため、外集団との接触の影響を考慮する。外集団との接触は、外集団に対するネガティブなイメージを払拭し、良好な集団間関係を構築する機会を与えるため、集団間関係に大きな影響を及ぼす要因と考えられている(接触仮説:Allport, 1954)。そこで、外集団の知り合いの有無を要因に加え、探索的に検討を行う。

方法

実験参加者

国立A大学の学生113名(男性72名、女性41名、M=19.25歳、SD=2.64)であった。

手続き

“大学間の社会的評価の違いが、学生に及ぼす影響を検討する”という偽の教示を行い、質問紙に回答を求めた。まず、集団間地位の操作のため、今回の研究は他大学との共同研究であり、学部間3)で比較を行う予定であると告げた。

その後、外集団となるB大学を呈示した。B大学には、A大学と学部の構成が似ていることを条件に、2010年度、A大学の入試偏差値を基準として、偏差値のやや高い大学と、やや低い大学の、二つの国立大学を選出した。偏差値の高い大学と比較する条件を「低地位集団条件」、低い大学と比較する条件を「高地位集団条件」とした。

次に、操作チェックとして、「世間から見た時に、A大学とB大学ではどちらの大学のほうが社会的な地位が高いと思いますか」と尋ねた(“1. B大学のほうが上”から“5. A大学のほうが上”)。同時に、集団間の地位の正当性(「大学間の社会的な地位の高さはどのくらい正当なものであると思いますか」)、集団間の地位の変動可能性(「大学間の社会的な地位の高さは、今後、変化するものであると思いますか」)、集団間の移動可能性(「B大学に編入することは、簡単だと思いますか、それとも難しいと思いますか」)を、それぞれ7件法で尋ねた。

知り合いの有無については、「あなたの知り合いにB大学に所属する人はいますか」と尋ね、“いる”か“いない”で回答を求めた。「いる」と答えた者については、知り合いの人数についても尋ねた。

つづいて、集団内地位として“大学内の他のメンバーはあなたの考えや行動をどのくらい尊重していると思うか”、“大学内の他のメンバーから尊敬されていると感じることがあるか”の2項目を、7件法で尋ねた(r=.58, p<.001)4)

これらに回答した後、従属変数として、SDO6尺度(Sidanius & Pratto, 1999:16項目、7件法)5)の日本語版(黒石・森口,2003)に回答を求めた。SDOを測定するこの尺度は、共感性や攻撃性など複数の個人特性と関連があることが報告されており、安定的な個人特性を測定するものであると捉えられていた(Pratto et al., 1994)。しかし、序論で述べたように、SDOが回答時に顕現化した社会的文脈の影響を受けるという複数の報告が見られたことから、提唱者を含む研究チームによる近年のレビューでは、「SDOは、全般的な志向性―様々な文化の社会集団に対する異なるタイプの偏見と関連するという意味で―と、社会的文脈に対する反応であるという両方の実証がある」と述べられている。つまり、この尺度で測定されるSDOは、階層全般に対する志向性としての特性的な性質と、そのときに顕現化した社会的文脈に反応する状態的な性質の両方を反映している可能性がある(Pratto et al., 2006)。そのため、本研究では、この尺度をそのまま用いても地位環境による変化を測定することは可能であると判断し、先行研究と同様にSDO6尺度を用いて検討する。

因子分析の結果、SDOは、集団支配志向性(8項目,α=.83)と平等主義志向性(8項目、α=.77)の2因子構造であることが示され、因子間相関はr=−.34であった。分析には、各因子の尺度項目の平均点を算出し、従属変数として用いた。また、個人特性として、特性自尊心(Rosenberg, 1965:10項目、5件法)を尋ね、質問紙の提出時にディブリーフィングを行い、データ使用に関する同意を得た。

結果

操作チェック 操作チェック項目を従属変数とし、集団間地位を独立変数としたt検定を実施した。集団間地位の主効果が有意であり(t(111)=15.10, p<.001)、高地位集団条件(M=5.59, SD=1.01)のほうが低地位集団条件(M=2.38, SD=1.24)より得点が高いことが示されたため、操作は成功したと判断した。

地位環境によるSDOの変化 集団支配志向性を目的変数とし、Step 1に統制変数として性別、特性自尊心、集団間地位の正当性、説明変数として、集団間地位、集団内地位、知り合いの有無、Step 2にすべての2要因の交互作用項、Step 3に3要因の交互作用項を投入した階層的重回帰分析を実施した6)

知り合いの有無については、1=“いない”、2=“いる”に、集団間地位については、1=“低地位集団”、2=“高地位集団”にコード化を行った。ただし、分析では、知り合いの有無についていずれの交互作用も有意ではなかったため要因から除き、集団間地位と集団内地位の2要因の交互作用モデルで再度分析を行った。その結果、Step 2において、モデルは有意ではないことが示され、集団間地位と集団内地位の交互作用項(Figure 1; ΔR2=.01, n.s.; β=.09, t(105)=0.97, n.s.)も有意ではなかった。平等主義志向性についても同様の分析を実施したが、有意な交互作用は見られず、集団間地位と集団内地位の交互作用項も有意ではなかった(Figure 2; ΔR2=.02, n.s.; β=−.13, t(106)=1.35, n.s.)。

Figure 1 ‌集団支配志向性に対する集団間地位×集団内地位の交互作用
Figure 2 平等主義志向性に対する集団間地位×集団内地位の交互作用

考察

研究1の結果、SDOに対して、集団間地位と集団内地位による影響は見られなかった。この理由として、SDO尺度の妥当性に問題があった可能性が考えられる。SDO6尺度の中でも、特に集団支配志向性因子の項目は、階層の支配的で抑圧的な側面が強調されている。例えば、「欲しいものを手に入れるためならば、他の集団をねじふせることも必要である」など、よりあからさまではっきりとした集団間の優劣や支配的関係を肯定する態度を反映する項目で構成されている。また、表現が差別的であるために、社会的望ましさを喚起し、素直な回答が得られないことが危惧される項目(「ある集団の人々は、他の集団の人々よりも明らかに劣っている」等)も含まれている。少なくとも大学間においては、SDO6尺度をそのまま翻訳した項目が社会的に望ましくない内容を意味するものと受け取られた可能性がある。「問題」部分で述べたように、社会的支配理論では、SDOが集合的イデオロギーによって正当化される過程を想定している。この点を考慮すると、SDO尺度項目の内容は、回答者にとって正当化が可能なものでなければ、単に「社会的に望ましくない志向性」として否定される可能性が高いであろう。

階層を肯定するイデオロギーの中には、階層の比較的ポジティブで機能的な側面が含まれているものも存在する。例えば、パターナリズムやリーダーシップなど、階層や序列が社会全体の福祉に寄与することを主張するイデオロギーは、支配的・抑圧的なイデオロギーよりも社会的望ましさが高く、平等と同様に、人々に受け入れられやすいイデオロギーであると考えられる。そのため、このような受け入れられやすいイデオロギーと関連すると思われる項目をSDO尺度に含めるとともに、差別的と受け取られかねない項目の表現を修正する(例えば、「劣った集団」を「実力のない集団」に修正する)こととした。

また、平等主義志向性因子、集団支配志向性因子のいずれについても、語尾に「~するべきだ」といった断定的な強い信念を表す項目が多いという特徴がある。この点が回答者のリアクタンスを喚起する可能性を考慮して、断定的な表現ではなく、「~は良いことだ」「~は必要だ」といった形に統一することとした。

以上を踏まえ、研究2では、SDO尺度の改訂版を作成し、再度、集団間地位と集団内地位によるSDOへの影響を検討する。

研究2

研究2では、研究1と同様の手続きを用いて、2つの仮説の再検討を行う。

方法

実験参加者

国立A大学の学生238名(男性130名、女性108名、M=19.30歳、SD=1.82)を対象とした。

手続き

おおむね研究1と同様の手続きで行ったが、以下の3点を大きく変更した。まず、従属変数として、新たに22項目のSDO改訂版尺度を作成した。変更した内容は、研究1の考察で述べたとおりである。2点目は、集団間地位に関する一連の項目のうち、5件法のものを6件法に変更した。また、集団間地位に関する項目と集団内地位に関する項目の回答の順序について、参加者間でカウンタバランスをとった。さらに、3点目として、外集団の知り合いの有無の割合が等しくなるよう、偏差値の差はできるだけ変えずに、より地理的に近い大学をB大学として設定した。

結果

操作チェック

操作チェック項目を従属変数とし、集団間地位を独立変数としたt検定を実施した。集団間地位の主効果が有意であり(t(235)=−30.21, p<.001)、内集団を外集団より社会的地位が高いと評価する程度は、高地位集団条件(M=5.06, SD=0.82)のほうが、低地位集団条件(M=1.82, SD=0.83)より高いことが示され、操作は成功したと判断した。

因子分析

SDO改訂版尺度の各項目について、極端な回答の偏りは認められなかった。そのため、全22項目を用いて最尤法プロマックス回転による因子分析を行い、固有値の減衰率から2因子解を採用した(Table 1)。

Table 1 SDO改訂版尺度の因子構造(最尤法、プロマックス回転)
項目第1因子第2因子共通性
第1因子:平等主義志向性(α=.87)集団同士の関係は平等であるほうが望ましい.760−.027.591
良好な集団間の関係を築くためには、集団間が対等な立場であることが必要だ.751.034.549
集団間が平等であるのはよいことだ.712−.052.532
特定の集団を特別扱いすることをせず、どんな集団に対しても平等に接することはよいことだ.653.069.403
平等な社会を実現するために努力をすることはよいことだ.630.013.393
集団間の関係は平等であるほうが、たいてい世の中はうまくいく.620.080.360
どんな集団の人に対しても、平等に接するのはよいことだ.576.058.315
地位に関わらず、すべての集団に平等な権利が与えられるのは当然だ.559−.054.334
特定の集団に利益が独占されることなく、集団間で利益が均等になるような社会が望ましい.556−.152.384
不平等が存在することは、たとえどんな理由であっても不当である.477−.236.352
地位の低い集団にも、地位の高い集団と同等に成功のチャンスが与えられることが望ましい.462.267.209
第2因子:集団支配志向性(α=.82)上に立つ集団に、より多くの成功のチャンスが巡ってくるのは当然のことだ.042.715.495
上に立つ集団が、他の集団に比べて結果的に多くの利益を得ることは自然だ.017.668.439
優秀な集団は上に立って、他の集団を導くほうがよい.131.627.361
上に立つ集団に、他の集団より多くの権利が与えられるのは、しかたがないことだ−.066.613.405
社会の秩序を保つためには、優れた集団が他の集団を統制することが必要だ.015.575.325
特定の優れた集団がリーダーシップを取るほうが、世の中はうまくいく−.066.549.328
特定の集団が社会の上層にいられるのは、それだけの正当な理由がある.107.541.269
良い社会を実現するためには、上に立つ集団が下に立つ集団に対して強硬な姿勢をとることも、時には必要だ−.006.540.294
ある集団が上に立って、他の集団を支配することも、時には必要だ.037.524.264
能力の低い集団は、自分たちの立場をわきまえたほうがよい−.171.342.182
実力のない集団は、不遇な状況に置かれていてもしかたがない−.223.295.177
寄与率4.7033.999
因子間相関−.306

因子項目の内容から、第1因子は平等主義志向性にあたる因子、第2因子は集団支配志向性にあたる因子であると判断した。

下位尺度の信頼性を検討するため、Cronbachのα係数を算出したところ、集団支配志向性が.82、平等主義志向性が.87と、いずれの因子も十分に高い値を示した。なお、因子間相関はr=−.30であった。研究1と同様に、分析には、各因子の尺度項目の平均点を算出し、従属変数として用いた。

集団支配志向性

集団支配志向性を目的変数とし、研究1と同様に、Step 1に統制変数として性別、特性自尊心、および集団間地位の正当性を、説明変数として集団間地位、集団内地位、および知り合いの有無を、Step 2にすべての2要因の交互作用項を、Step 3に3要因の交互作用項を投入した階層的重回帰分析を実施した7)

その結果、Step 3のモデル(ΔR2=.05, p<.001)、3要因の交互作用項が有意であった(Figure 3; β=.23, t(221)=3.56, p<.001)8)。また、外集団に知り合いがいないとき、集団間地位×集団内地位の交互作用項が有意(β=−.49, t(221)=−3.32, p<.001)であることが示された。単純傾斜分析の結果、集団間地位が高いとき、集団内地位の傾きが有意であった(β=−.27, t(221)=−2.16, p<.05)。この結果は、高地位集団では、集団内地位が低いほど集団支配志向性が高いことを示しており、仮説1を一部支持する結果である。また、集団間地位が低いときも、集団内地位の傾きが有意であることが示された(β=.40, t(221)=2.44, p<.05)。これは、低地位集団では、集団内地位が高いほど集団支配志向性が高いことを示しており、予測していない結果であった。一方、外集団に知り合いがいるときは、集団間地位×集団内地位の交互作用項は有意ではなかった(β=.19, t(221)=1.51, n.s.9)

Figure 3 集団支配志向性に対する集団間地位×集団内地位×知り合いの有無の交互作用

平等主義志向性

平等主義志向性を目的変数とし、集団支配志向性と同様の階層的重回帰分析を行った。その結果、Step 2においてモデルが有意であり(ΔR2=.04, p<.05)、集団内地位の主効果(β=.15, t(222)=2.08, p<.05)と集団間地位×集団内地位の交互作用項が有意であることが示された(Figure 4; β=−.15, t(222)=−2.33, p<.05)10)。単純傾斜分析の結果、集団間地位が低いとき、集団内地位の傾きが有意であった(β=.29, t(221)=2.95, p<.01)。これは、低地位集団では、集団内地位が高いほど、平等主義志向性が高いことを示しており、仮説2を支持する結果である。

Figure 4 ‌平等主義志向性に対する集団間地位×集団内地位の交互作用

各分析において、従属変数に用いていないもう片方の志向性を統制変数に入れても、同様の結果が得られた。

考察

研究2では、SDO尺度を改善し、集団間と集団内の地位がSDOに及ぼす影響を検討した。その結果、予測したとおり、高地位集団では、集団内地位を低く認識するほど集団支配志向性が高いことが示された。ただし、この傾向は、外集団に知り合いがいない場合のみで見られたため、仮説1は一部支持であった。また、低地位集団では、外集団の知り合いの有無にかかわらず、集団内地位を高く認識するほど平等主義志向性が高いことが明らかとなった。よって、仮説2は支持された。

ただし、いずれの志向性の結果も、研究2で集団間地位と集団内地位の交互作用が有意になった理由に、サンプルサイズが大きくなったことによる影響の可能性も考えられる。しかし、2要因の交互作用項のη2値を比較しても(集団支配志向性11);η2=.00→.05、平等主義志向性;η2=.01→.02、それぞれ研究1→研究2)、効果量が大きくなっていることから、SDOの改良による効果も相応にあると考えられる。

仮説1が、外集団に知り合いがいるときでは支持されなかった理由として、研究1の冒頭で述べた接触の影響が考えられる。平等主義は、性差別主義などの階層を拡大するイデオロギーと比べて多くの国で規範的とされているが(Inglehart, Norris, & Welzel, 2002)、逆に、集団支配志向性は、尺度の改訂によって社会的望ましさの影響が抑えられてもなお、反社会的で攻撃的な志向性であると認識された可能性がある。研究1の冒頭で述べたように、外集団との接触は、外集団に対するネガティブなイメージを払拭し、良好な集団間関係を構築する機会を与える。つまり、知り合いがいる状態で、集団支配志向性を高めることは、知り合いを含む外集団メンバーに対する反社会的な心理反応ということになり、抵抗が生じて抑制された可能性が考えられる。知り合いがいない場合には、この抵抗が生じなかったため、集団間地位、集団内地位による仮説とおりの影響が見られたと考えられる。

さらに、低地位集団において、外集団に知り合いがいないとき、集団内地位が高いほど集団支配志向性が高いという予測していない結果が得られた。この理由として、今回、相対的な地位を扱ったことで、教示した2集団ではなく、自分たちよりも下位に位置する集団を思い浮かべ、下方比較を行ったメンバーがいた可能性が考えられる。高地位集団と低地位集団の中間に位置する集団を対象とした研究では、内集団の地位が脅威にさらされる状況では、集団の地位を守ることに焦点が当てられ、低地位集団に対する内集団バイアスが増加することが報告されている(Caricati & Monacelli, 2010)。このように、内集団を中心として、上だけでなく下にも集団が存在する状況では、比較対象を低地位集団へと向けることで、肯定的なアイデンティティを維持することも可能である。例えば、序論で述べたように、低地位集団の高地位者は、自己評価に見合うような肯定的な社会的アイデンティティの獲得を動機づけられた状態であると言える。この際に、上位集団との地位差を低減するために平等を志向するのとは別に、下位集団との地位差を維持・拡大するために、集団支配的な志向性を高めた可能性も考えられる。

また、なぜ外集団に知り合いのいない条件のみにおいてこの傾向が見られたのかについても、疑問が残る。一つの可能性として、呈示した大学に知り合いがいるような参加者は、同じように、下方比較するような外集団にも知り合いがいる可能性が考えられ、高地位集団の低地位者の場合と同様に、集団支配志向性が抑制された可能性がある。ただし、これらの考察は本研究のデータからは直接確かめることができないので、複数の集団が存在した場合に、人がどのように比較対象を変更するのかについては、今後さらに検討する必要がある。

総合考察

本研究の目的は、自分の所属する集団の地位や、集団内の個人の地位によって、SDOがどのように変化するのかを明らかにすることであった。その結果、研究1において、地位環境によるSDOの変化は見られないことが示された。しかし、研究2においてSDO尺度に改良を加えたところ、高地位集団では外集団の知り合いがいない場合、集団内地位が低いほど集団支配志向性が高いことが明らかになった。これは、仮説1を一部支持する結果であった。また、低地位集団では、外集団の知り合いの有無にかかわらず、集団内地位が高いほど平等主義志向性が高いことが示された。これは、仮説2を支持する結果であった。以上の結果から、同じ集団であっても、比較対象となる外集団が異なることによって、集団間地位差を維持・縮小する動機が変化すること、また、集団間地位だけでなく集団内地位も、集団間地位差を維持・縮小する動機を規定することが示された。後者について具体的に述べると、高地位集団では、集団内地位が低いほど集団の地位を維持する動機が高まり、SDOの集団支配志向性が高くなる一方、低地位集団では、集団内地位が高い者ほど集団の地位を改善する動機が高まり、平等主義志向性が高くなるという予測がそれぞれ支持される結果が得られた。なお、予測していなかった結果として、低地位集団では高地位者ほど集団支配志向性が高まることも示された。

本研究の貢献は、以下の3点である。1点目は、集団状況によってSDOが変化しうることを実証したことである。一時的に顕現した社会的文脈によってSDOが変化することを示した先行研究はいくつか存在するが、長期的に安定した社会的文脈の効果を示した先行研究に比べて、その数は決して多くはない。本研究はそのような研究に一つの新たな証拠を提供したと考えられる。

2点目は、SDOに対して集団間の地位だけでなく、集団内の地位が影響を及ぼすことを明らかにしたことである。社会的支配理論に依拠した先行研究において集団内要因に着目した研究が見当たらないだけでなく、集団間態度に対する集団内要因の影響を指摘した研究そのものも、あまり多くない。しかし、集団内のどのようなメンバーが、外集団に対する否定的態度を強めるのかを明らかにすることは、集団間葛藤解消のアプローチにおいて、重要な意味をもつと考えられる。現実的には、ある集団のメンバー全員が一様に外集団に対する否定的態度を有するわけではなく、一部のメンバーが特に否定的な態度や過激な行動を示すことによって、集団間葛藤が激化することが多いと考えられる。このような問題に対し、本研究では、集団内の地位という社会的な要因を考慮することで、一つの説明ができる可能性を示唆したと言える。

3点目に、SDOを2因子に分け、集団間地位差の維持を支持する程度(集団支配志向因子)だけでなく積極的に縮小を志向する程度(平等主義志向因子)を測定したことにより、集団間地位差の縮小動機の変化のメカニズムを明確にした点が挙げられる。本研究において、低地位集団の高地位者は、集団支配志向性が低いわけではなく、平等主義志向性が高いことが明らかになった。これは、集団支配志向性と平等主義志向性を同時に測定しなければ明らかにならなかった点であり、社会的支配理論の拡張に貢献する知見であると考えられる。集団支配志向性が古典的人種主義や、ゼロサム競争の認知などの攻撃的な集団間理論の支持や行動と関連することはすでに明らかになっているが(Ho et al., 2012)、もし、平等主義の支持への背景に、地位を改善したい、もしくは逆転したいという個人の欲求があるのであれば、平等主義のようなイデオロギーが建前として使われ、外集団に対する反抗や攻撃行動につながる可能性も考えられる。ただし、SDO尺度改訂版に関して集団支配志向性の中に、因子負荷量が.30以下であり、かつ平等主義志向性因子にも同程度の負荷量を示している項目が見られた(「実力のない集団は、不遇な状況に置かれていてもしかたがない」)。本研究では、この項目を除いても結果は変わらなかったため、分析に含めたが、尺度の因子構造の安定性について、異なるデータサンプルを用いて確認する必要がある。

平等を支持するのか、それとも階層的関係を支持するのかという、階層間での価値観の衝突は、現実社会でもよく見られる問題である。集団間階層に対する志向性の違いが地位によって規定されている可能性や、一時的に顕現化した集団の地位によって異なる志向性が高まる可能性を明らかにしたことは、集団間葛藤の生起メカニズムの解明に貢献する結果であると考えられる。

本研究の課題と展望

最後に、本研究の課題と展望として、以下の4点が挙げられる。まず、一つ目に、改良したSDO尺度が、オリジナルのSDO尺度と全く同じ志向性を測定しているのかを確認する必要がある。研究2でSDO尺度改訂版を作成したことにより、集団支配志向性得点の平均値は7件法でM=4.61とかなり高い数値になったことを考えると、少なくとも回答者の社会的望ましさ喚起は避けられたものと考えられる。しかし一方で、受け入れられやすい正当化イデオロギーと関連しそうな項目をこの尺度に含めたことにより、集団間地位差を支持する志向性や動機というよりも、正当化イデオロギーの採用度に近い概念を測定する尺度になった可能性は否定できない。オリジナルのSDO尺度の中に特性的な性質と状態的な性質が混在していることは方法部分でも述べたが、修正によって、状態的な性質をより強く反映する尺度となった可能性がある。ただし、改良した集団支配志向性尺度の中で、正当化イデオロギーと関連する項目として新たに含めた項目は4項目12)に過ぎないこと、平等主義志向性については語尾の断定的表現を緩和しただけで項目そのものの内容は変えていないことを考慮すると、オリジナルのSDO尺度と劇的に意味合いが異なるとは考えにくい。いずれにせよ、SDO尺度改訂版については、構成概念妥当性をさらに確認する必要がある。今後、集団間の地位差に対する人々の心理的反応を詳細に検討するためには、集団間地位差に対する志向性と、その後に続く正当化イデオロギーの採用とを別々に測定し、その関連を明らかにすることも必要となるであろう。

2点目に、集団内地位に関する問題が挙げられる。本研究では集団間地位の相対性に焦点を当てていたため、集団内地位については操作を行わず、主観的指標を用いた。大学という現実集団を用いた以上、現実場面での影響を超えて操作を行うことは容易ではないが、集団内地位の相対性についても集団間地位と同様に影響する可能性が考えられるため、今後は集団間地位と集団内地位を同時に操作した検討も必要である。

また、本研究では、大学内の他者からの尊重の程度を集団内地位の指標として用いたが、この質問で得られる回答は大学という集団ではなく友人集団の序列を示している可能性が考えられる。ただし、尊重されているかどうかの知覚は、「意見を聞いてもらえる」などの行為によって感じられることが証明されており(Tyler & Blader, 2001)、友人集団との相互作用だけでなく教員からの扱いや、学部や大学での行事の際に自分の意見が反映されるかどうかといった体験も含む可能性がある。よって、本研究で用いた質問方法でも、大学の集団内地位として妥当であると考えられるが、友人集団の序列である可能性は排除できないため、今後、集団内地位の測定法について妥当性を確認する必要がある。

3点目は、集団間葛藤問題への応用に関する課題である。本研究では、集団間と集団内の地位によりSDOが変化することが示された。しかし、地位環境によって変化した志向性が、実際に外集団卑下や攻撃行動につながっているかどうかは明らかではない。今後、外集団に対する印象や攻撃行動を測定して、地位やSDOとの関連を検討することが求められる。

4点目として、研究2において、低地位集団の高地位者は、平等主義志向性だけでなく集団支配志向性も高めていた。その理由として、研究2の考察で述べたように、高地位の集団との比較を求めたにもかかわらず、自分たちより低地位の集団との比較を行った人がいた可能性がある。このような相反する志向性が同時に高まる現象は先行研究でこれまで明らかにされておらず、非常に興味深い現象であるが、この現象がどれだけ普遍的なのかを今後検討する必要があるとともに、低地位集団の高地位者がどのような集団間比較を行っているのかも検討する必要がある。

References
 
© 2014 日本社会心理学会
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