技術の進歩や流通手段の発展は、便利で有益なモノを大量に産み出し、人々に多くのモノ3)を所有する機会を与え、物質的な豊かさをもたらした。いわゆる“大量生産・大量消費社会”の到来である。しかしながら“ポスト大量消費社会”といわれる時代を迎えた今、我々の周囲は多くのモノであふれ返り、収集したモノを有効活用できない、あるいは溜め込む一方で片付けられない、捨てられないといった、モノがもたらす新たな弊害が、社会的にも学術的にも注目され始めている(Frost & Steketee, 2010)。学術的には、こうしたモノの溜め込み行為は「ホーディング」(hoarding)、また溜め込む人は「ホーダー」(hoarder)として概念化されており、1990年頃から米国の臨床心理学や精神医学の領域を中心に、実際的な問題解決を目指して研究が着手されている。事実、米国では人口の2~5%もの人が後述するような深刻なホーディングで苦しんだり、ホーディングがもたらす諸問題に悩まされたりしていることが報告されている(Frost & Steketee, 2010)。
ホーディングとは、臨床的には「他の人にとってほとんど価値がないと思われるモノを大量に溜め込み、処分できない行為」と定義されている(e.g., Frost & Gross, 1993; Neziroglu, Bubrick, & Yaryura-Tobias, 2004)。ホーディングの程度は様々であるが、溜め込みが深刻な精神的苦痛をもたらし、自分自身や周囲の人々の日常生活に大きな支障をきたすようになると、それは単なるホーディングを超えた、より病的な「強迫性ホーディング」(compulsive hoarding)となる。ホーディングのもたらす心理的・社会的問題に早くから注目していたFrost, R. O.によると、「強迫性ホーディング」は、以下の3点を包含する行為として特徴づけられている。1)ほとんどあるいは全く価値のなさそうな大量の所有物を収集し、捨てることができないこと、2)生活空間があまりに散らかっているため、本来意図されたような空間の活用ができないこと、3)ホーディングによって深刻な苦痛や機能不全が生じること(Frost & Hartl, 1996)。また、ホーディングの対象としては、古新聞や雑誌、郵便物、衣類、食品のパック、紙袋など多岐にわたっているが、シャンプーや石鹸などの日用品においても、必要以上にストックを保持しているのが特徴である。
ホーディングはなぜ起こるのかそれでは人はなぜ必要以上にモノを溜め込むのだろうか。こうしたホーディングの規定因を探求した研究の大半は、上記の強迫性ホーディングを前提としたものである。例えば臨床心理学や精神医学の領域では、ホーディングは長い間、不快な強迫観念に悩まされる「強迫性障害」(obsessive compulsive disorder; OCD)や、完全主義や優柔不断を特徴とする「強迫性パーソナリティ障害」(obsessive–compulsive personality disorder; OCPD)の一症状であり、それらに起因するものとして考えられていた。実際、OCD患者のうち何らかのホーディングを発症する人の割合は、概ね20%(Rasmussen & Eisen, 1992)から31%(Frost, Krause, & Steketee, 1996)であると報告されている。しかしその一方で、ホーダーの中でOCDに罹患している人は4分の1にも満たなかったり、OCDにはない特有の特徴が見られたりすることから、最近では、強迫性ホーディングはOCDとは異なる単独の疾患との見方が主流を占めている(American Psychiatric Association, 2013; Frost & Steketee, 2010; Pertusa, Frost, Fullana, Samuels, Steketee, Tolin, Saxena, Leckman, & Mataix-Cols, 2010)4)。
このようにホーディングの規定因については、病的で強迫的なものを対象とした研究が大半であるなか、人は少なからずモノを溜め込む傾向があるとして、誰しもに共通する心理的側面からの説明も試みられている。例えばNeziroglu et al.(2004)は、一般的に人がモノを溜め込む心理的な理由として次の3つのパターンを挙げている。1)感情的溜め込み(sentimental saving:思い出や感情が湧き起こり、捨てることができない状態)、2)道具的溜め込み(instrumental saving:いつか使う時がくるかもしれないという思いから捨てることができない状態)、3)美的価値ゆえの溜め込み(saving for aesthetic value:モノそのものに芸術性を感じて捨てることができない状態)。Warren & Ostrom(1988)も同様にホーディングの心理的理由として、1)いつか必要なときがくると思うから、2)捨てるには惜しいほど良いモノであるから、3)いまだに何らかの価値がある、あるいは将来価値が高まるときがくると思うから、4)情緒的な愛着があるから、といった4つの観点から整理している。
また、ホーディングの生起について、モノに対する過剰な意味づけや強烈な愛情といった認知や信念の歪みからも説明がなされている。例えばモノを溜め込みやすい人は、自身の所有物を「拡張自己」(extended self)や自己の一部としてみなしたり(Belk, 1988)、不安や寂しさを軽減する乳幼児期の「移行対象」(transitional object)的な存在として捉えたり(Frankenburg, 1984)、自分自身を保護してくれる「安全信号」(safety signals)として位置づけたり(Rachman, 1983)というように、モノに対する独特の認知傾向を強く示すことが指摘されている。また、ホーダーがモノを捨てられない理由は、モノをあたかも人のようにみなす「人格化」傾向が強いことに一因があるとも考えられている(Warren & Ostrom, 1988)。実際、池内(2010)の調査においても、モノを擬人化する傾向の強い人ほど、モノを処分することに抵抗を感じることが示唆されている。
本研究における概念規定とホーディング傾向の測定上述したようにホーディング自体は、精神医学的診断がつかない正常な人にも見られるものであり(仙波,2007)、事実、Kingston(1999)によると、多くの人は持っている服のおよそ20%しか着用しておらず、数々の死蔵品に囲まれて日々悩みながら生活していることが報告されている。そこで本研究では、重篤なホーディング(臨床群)ではなく、あくまで日常的なレベルで生じるホーディング(非臨床群)を研究対象として取り上げ、実態的、心理的側面から検討する。既述したようにFrost, R. O.は、強迫的なホーディングの重要な特徴として、「他の人にとっては全く価値がないモノを、生活空間を侵食するほどに大量に溜め込む行為」を挙げている(Frost & Hartl, 1996)。しかし、本論ではより日常的なホーディングに焦点を当てるため、生活に支障をきたすほどの溜め込みに限定せず、量よりも質的な結びつきを強調した定義、すなわち「何らかの主観的な意味を付与しているために、モノを溜め込み、処分できない性向」をホーディング傾向として規定する。
また、ホーディングの尺度は、これまでOCDの診断尺度の一部として提唱されることが多かった。例えば、Foa, Huppert, Leiberg, Langner, Kichic, Hajcak, & Salkovskis(2002)は、“Obsessive-Compulsive Inventory”(OCI)として「洗浄恐怖」(washing)や「確認恐怖」(checking)などの6つの症状を測る18項目を提唱し、そのうち5項目をホーディングの測定項目として挙げている(項目例「大量のモノが散らかっているせいで、私の部屋は使いにくくなっている」「私は普通の人が捨てられるようなごく普通のモノでも、捨てにくいと感じる」等)。また、ホーディングのみに焦点を当てた尺度化も若干ではあるが試みられており、先駆的なものにFrost & Gross(1993)の“Hoarding Scale”(21項目)がある5)。この尺度は、処分抵抗や室内の散乱といったホーダーに認められる様々な特徴を測っており、総得点が高いほど重篤なホーディングとして捉えている。しかし、多面的な側面を測っておきながら一次元としている点や、内的整合性が検討されていない点など、尺度としての問題点も指摘されうる。その後、下位尺度を備えたFrost, Steketee, & Grisham(2004)の“Saving Inventory-Revised”(SI-R)や、Steketee, Frost, & Kyrios(2003)の“the Saving Cognition Inventory”(SCI)などが提唱される。前者は23項目からなり、「モノの散乱具合」「処分困難傾向」「モノの獲得傾向」の3つの下位尺度によって、また後者は24項目からなり、「モノへの情緒的愛着」「モノに対する記憶」「モノに対する支配感」「モノへの責任感」の4つの下位尺度によって構成されている。これらの尺度は、ホーディングが重篤になるほど、各下位尺度の特徴がより強く現れることを示唆している。
なお、Frost et al.(2004)やSteketee et al.(2003)の尺度は、いずれもホーダーのモノに対する認知や感情、行動的側面といった態度特性を多面的に測定しているものの、前者はやや行動的側面に偏った項目群(項目例「私にとって持ち物を捨てることは難しい」「私の部屋は持ち物で散らかっている」等)、後者はやや認知的側面に偏った項目群(項目例「持ち物を捨てることは私の一部を捨てることに等しい」「私の持ち物は、私の気持ちを落ち着かせてくれる」等)で構成されている。それゆえ下位尺度も異なっており、いずれの尺度も完全にはホーディングの特徴を網羅できていないと思われる。
本研究の目的本研究では、まずこれら既存尺度の項目を基に、モノに対するより包括的で多面的な視点から「ホーディング傾向尺度」(Hoarding Tendency Scale)の作成を試み、ホーディング傾向の強い人のモノに対する態度特性について明らかにすることを第一の目的とする。なお、既存のホーディング尺度は、いずれも強迫性ホーディングで悩むOCD患者等を対象としている一方で、コントロール群として一般の人々にも調査をしている。例えばSteketee et al.(2003)の調査では、ホーダー群(強迫性ホーディングを発症している人)、OCD群(OCDの兆候はあるがホーディングの症状は見られない人)、コントロール群の3群でSCI得点を比較した結果、ホーダー群は4つの下位尺度すべてにおいて有意に得点が高くなったが、ホーディングとの関連が強く指摘されてきたOCD群とコントロール群の間では有意差は見られなかった。また、3群の中では概してコントロール群の得点の標準偏差が大きいことから、コントロール群の中でもホーディングの特徴を強く持つ人とそうでない人が混在していることが分かる。したがってこれらの項目を、一般の人々を対象としたホーディング傾向尺度を作成するにあたって、参考項目として用いることは問題ないといえる。
また、上述したようにホーディングの原因については様々な要因が考えられるが、本論においては、Warren & Ostrom(1988)の主張に基づき、モノの人格化に焦点を当てる。具体的には、モノの人格化をアニミズム的思考の一側面として捉え、アニミズム的思考とホーディングとの関連性について検討する。「アニミズム」(animism)とは、主に文化人類学や宗教学の領域と心理学の領域において研究されてきた概念であるが、本研究では池内(2010)に基づき、「実際に生を認めているわけではないが、無生物に対して神性や生命の存在を感じる現象」として規定する。日本の伝統宗教である神道においては、「八百万(やおよろず)の神」という語が示すように、人間が何らかの霊を祭ったときに、それはすべて神になる。武光(2003)によると、こうした神道的な考えが基となり、日本人は「画家が魂をふきこんだ名画」や「職人が精魂を込めて作り上げた道具」など、物的なモノにも生命が宿ると考え、モノを大切に扱ってきたという。したがってこうしたアニミズム的な思考を強く抱いている人ほど、モノを処分することへの抵抗が大きいと考えられる。そこで「アニミズム的思考の強い人は弱い人に比べてホーディング傾向が強い」という仮説を立て、その検証を第二の目的とする。
本論は、これらの研究目的に従い、2つの部分から構成される。まず研究1では、「ホーディング傾向尺度」の作成を試み、その信頼性と妥当性を検討する。研究2では、研究1で作成した尺度を基に、主にアニミズムとの関連性を検討する。さらに、本研究では非臨床群を研究対象とするため、日常レベルでのホーディング傾向についてより具体的に把握するには、溜め込みの実態を検討することが非常に有益であると思われる。そこで研究2では、溜め込んでいるモノの種類や溜め込みの理由といった、ホーディングの質的・実態的な側面からも検討を試みる。
「ホーディング傾向尺度」の作成を試み、その信頼性と妥当性を検討する。本研究では、より多面的な態度特性からホーディング傾向を測定するため、Foa et al.(2002)のOCI 5項目、Frost et al.(2004)のSI-R 23項目、Steketee et al.(2003)のSCI 24項目の計52項目を基に尺度の作成を行う。なお、信頼性は内的整合性の指標である信頼性係数(クロンバックのα係数)によって、妥当性は外的基準との相関を基に評価される基準関連妥当性(併存的妥当性)によって検討する。その際、外的基準としては、既にホーディングとの強い関連性が確認されている「強迫性購買」(compulsive buying)、すなわち理性を失ったコントロール不能の購買傾向を用いる(Frost et al. 1998)。Frost et al.(1998)は、ホーダー群は非ホーダー群に比べ強迫性購買得点が有意に高くなることを見いだしており、溜め込みが買い過ぎによって促されることを示唆している。
方法調査対象者および調査方法Ipsos株式会社のインターネットパネルデータベース(全国で336万人登録)から、首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)と関西圏(大阪府、兵庫県、奈良県、京都府)の414名のモニターを性・年齢が大きく偏らないように抽出し、web調査を実施した。より具体的には、上記データベースの登録者に調査協力をメールにて依頼し、協力に同意したモニターには、質問紙が掲載されたHPにアクセスして回答してもらった。予算の都合上、最低400名を回収の目途としたが、その際、年代(20代、30代、40代、50代以上)×性別の各カテゴリーが40名を大きく下回らないよう可能な限り均等回収を試みた。すべてのセルに約40名集まった時点でサンプリングを停止したが、その際、人数が40名を超えたカテゴリーについては、先着順に回答を採用した。また、上記地域外の人、およびOCDやホーディングでの通院歴のある人は、回答を始める前に調査対象外となるよう設定した。なお、これらの地域に限定した理由は、モノに対する価値観やモノの入手のしやすさに関する格差を極力抑えるためである。回答数414名のうち4名は回答内容が不完全であったため、無効回答として処理した(有効回収率:99.0%)。有効回収率が高くなった一因としては、回答者側に自主的に調査協力をしたことによる責任感や、謝礼の授受による返報性の規範が生じたことなどが考えられる。性別構成は、男性160名(39.0%)、女性250名(61.0%)であり、平均年齢は41.78歳(SD=12.87、年齢幅20~69)であった6)。また調査時期は、2012年10月下旬であった。
調査項目1. ホーディング傾向項目群:Foa et al.(2002)の“Obsessive–Compulsive Inventory”(OCI)からホーディングに関する5項目、Frost et al.(2004)の“Saving Inventory-Revised”(SI-R)23項目(下位尺度は「モノの散乱具合」「処分困難傾向」「モノの獲得傾向」)、Steketee et al.(2003)の“the Saving Cognition Inventory”(SCI)24項目(下位尺度は「モノへの情緒的愛着」「モノに対する記憶」「モノに対する支配感」「モノへの責任感」)の計52項目からなる予備項目群を作成した。回答者は各項目に対して「全くあてはまらない」(1点)~「非常にあてはまる」(5点)の5件法にて評定を行った(質問項目はTable 1を参照のこと)。これらの尺度の日本語訳においては、調査者と研究協力者が翻訳したものを、英語が母国語であり日本語も堪能である英語教師がより適切なものに修正した。
項目 | 物質多量 | 処分回避 | 拡張自己 | 対物責任 | 対物管理 | 記憶補助 | h2 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
SIR12 | 10)私の家の各部屋は、大量の持ちモノが散乱しているために使いにくくなっている | .928 | −.049 | .042 | −.011 | −.021 | −.018 | .835 |
SIR13 | 14)家の中が大量の持ちモノで散らかっているために苦痛を感じている | .887 | .005 | −.060 | .009 | .091 | −.042 | .751 |
SIR7 | 7)家の中に大量の持ちモノが散乱しているため、仕事や日常生活が妨げられていると感じることがある | .883 | .075 | −.099 | −.056 | .014 | .054 | .791 |
SIR20 | 24)家の中が大量の持ちモノで散らかっているために、各部屋を本来の目的どおりに使用できなくなっている | .843 | .002 | −.010 | .037 | −.025 | −.005 | .705 |
SIR6 | 4)私の生活スペースは、持ちモノで散らかっている | .841 | −.093 | .116 | −.051 | .012 | .031 | .757 |
SIR14 | 17)家の中が大量の持ちモノで散らかっているために、人が来るのを拒むことがある | .832 | .035 | .025 | −.012 | .027 | −.048 | .711 |
SIR18 | 20)家の中が大量の持ちモノで散らかっているために、歩きにくくなっている | .806 | .054 | .005 | .030 | −.020 | −.018 | .687 |
SIR21 | 27)あまりに持ちモノが散乱しすぎていて、もはや自分では管理できないと感じている | .710 | .038 | .071 | .016 | −.107 | .107 | .650 |
SIR16 | 16)使わないであろう持ちモノでも、とっておきたいと思うほうだ | .072 | .904 | −.049 | −.018 | −.021 | −.047 | .757 |
OCI1 | 2)普通の人なら捨ててしまうようなモノでも、何かに備えてとっておくほうだ | .035 | .833 | −.065 | .068 | −.007 | −.027 | .701 |
SIR23 | 22)捨てたほうがいいと思う持ちモノでも捨てられないことがある | .034 | .761 | −.094 | .140 | .061 | .083 | .601 |
SIR2 | 1)私にとって持ちモノを捨てることは苦痛だ | .032 | .634 | .318 | −.178 | −.071 | .069 | .735 |
SCI1 | 5)持ちモノを捨てることは、私にとって耐えられないことである※ | −.097 | .603 | .350 | −.085 | .027 | .073 | .662 |
OCI3 | 9)不要なモノとわかっていても、集めてしまうことがある※ | .061 | .554 | −.069 | .226 | .030 | −.081 | .451 |
SCI3 | 15)持ちモノを捨てることは、私の一部を捨ててしまうことに等しい | −.019 | .015 | .891 | −.010 | −.034 | −.007 | .764 |
SCI9 | 25)持ちモノを捨てることは、私の人生の一部をなくすことに等しい | .004 | −.006 | .827 | .044 | .052 | −.058 | .701 |
SCI16 | 28)持ちモノを捨てるということは、自分の一部を失うような感じである | .119 | −.101 | .747 | .043 | .045 | −.013 | .605 |
SCI6 | 21)持ちモノをなくすことは、私にとって、友だちをなくすことに等しい | .028 | .002 | .695 | .027 | .054 | −.022 | .534 |
SCI11 | 3)私には自分の持ちモノを幸福にする責任があると思う | −.016 | .075 | .036 | .764 | −.067 | −.092 | .570 |
SCI12 | 18)もし私の持ちモノを他の誰かが使用するならば、私にはそのモノを彼らから守る責任があると思う※ | −.014 | .074 | .030 | .708 | .044 | −.053 | .570 |
SCI15 | 11)私には持ちモノの使い道を探す責任があると思う | −.020 | −.041 | .001 | .580 | .051 | .151 | .425 |
OCI4 | 13)誰かに持ちモノの置き場所を勝手に変えられると、苛立ちを覚える | .078 | .072 | −.044 | −.066 | .798 | −.133 | .581 |
OCI2 | 26)持ちモノがあるべき所にないと戸惑ってしまう | −.050 | −.003 | .156 | .053 | .594 | −.024 | .443 |
SCI19 | 19)必要なときに必要なモノを持っていないと恥ずかしく思う※ | −.050 | .001 | −.023 | .055 | .470 | .207 | .336 |
SCI18 | 6)自分の持ちモノは自分だけで管理したい | −.030 | −.082 | .078 | .004 | .440 | .149 | .254 |
SCI20 | 23)もし持ちモノを捨てたとすると、私はそのモノについて何も思い出せないだろう | .023 | −.017 | −.149 | −.101 | .171 | .746 | .540 |
SCI17 | 12)持ちモノを整理整頓してしまうと、私はそのモノの存在を完全に忘れてしまうだろう | .002 | .029 | .061 | .014 | −.095 | .694 | .507 |
SCI14 | 8)私は記憶力が悪いため、身の回りに持ちモノをおいておかなければそのモノの存在を忘れてしまう | .124 | .009 | .063 | .232 | −.044 | .421 | .411 |
因子間相関 | 物質多量因子(α=.955):大量のモノで生活環境に支障が生じている傾向 | .452 | .487 | .208 | .208 | .464 | ||
処分回避因子(α=.891):モノを捨てることに抵抗を感じる傾向 | .571 | .248 | .357 | .366 | ||||
拡張自己因子(α=.877):モノが自分の一部であると感じる傾向 | .572 | .350 | .508 | |||||
対物責任因子(α=.750):モノに対して所有者としての責任を感じる傾向 | .405 | .419 | ||||||
対物管理因子(α=.696):自分のモノは自分自身で管理したいという傾向 | .341 | |||||||
記憶補助因子(α=.698):モノの存在を忘れないために、そのモノ自体を保持し続ける傾向 |
注1:SIR→“Saving Inventory-Revised”、OCI→“Obsessive-Compulsive Inventory”、SCI→“the Saving Cognition Inventory”。注2:※の付いた4項目(5),9),18),19))は、研究2の分析において省いた項目である。
2. 強迫性購買尺度:基準関連妥当性の検討のために、本研究ではEdwards(1993)の13項目からなる「強迫性購買尺度」を用いた。本尺度は、必要以上にモノを購入する傾向を測る「浪費性向」、買い物に対する否定的な感情を測る「購買感情」、金銭的に余裕がなくてもモノを購入する傾向を測る「機能障害的浪費」、購買後に生じる嫌な気持ちを測る「購買後罪悪感」の4つの下位尺度からなっている。回答者は、「買い物をし過ぎてしまうことがある」「何も必要でないときでさえ、モノを買ってしまう」等の項目に対し、「全くあてはまらない」(1点)~「非常にあてはまる」(5点)の5件法にて評定を行った。本尺度の翻訳においても、ホーディング傾向尺度と同様の過程を経て適切なものに修正された。
結果と考察ホーディング傾向項目群の因子分析結果まず、「ホーディング傾向尺度」の予備項目群として選定された52項目すべてを用いて因子分析を行った(主因子法、プロマックス回転)。分析の過程でOCIの1項目、SI-Rの12項目、SCIの11項目において因子負荷量や共通性が低くなったため、これらの項目を順次省きながら再分析を行ったところ、最終的に固有値の順次変化および因子の解釈可能性から、ホーディング傾向尺度として28項目からなる6因子が抽出された(Table 1参照)。各因子に高い因子負荷量を示した項目内容から、第Ⅰ因子「物質多量因子」、第Ⅱ因子「処分回避因子」、第Ⅲ因子「拡張自己因子」、第Ⅳ因子「対物責任因子」、第Ⅴ因子「対物管理因子」、第Ⅵ因子「記憶補助因子」と命名できる。各因子の下位尺度得点(各下位尺度に含まれる項目平均値)については、順にM=2.53(SD=.99)、M=3.12(SD=1.00)、M=2.31(SD=.74)、M=2.50(SD=.80)、M=3.40(SD=.79)、M=2.53(SD=.80)となった。一般の人を対象としているために、得点は全体的に低かったが、フロア効果を生じた項目はなかったので、28項目すべてを尺度項目として用いることにした。また、各因子の信頼性を検討するために、クロンバックのα係数を算出したところ、.696~.955となった。最後の対物管理因子と記憶補助因子は若干低い値ではあるが、全体的には本尺度の信頼性(内的整合性)は、十分な値が得られたといえる。
強迫性購買尺度との関連性Edwards(1993)の「強迫性購買尺度」においては、すでに信頼性と妥当性が報告されていることから、オリジナルの下位尺度に基づいて下位尺度得点を算出した。その結果、「浪費性向」M=2.35(SD=.83)、「購買感情」M=2.01(SD=.82)、「機能障害的浪費」M=2.18(SD=1.02)、「購買後罪悪感」M=2.27(SD=.97)となり、クロンバックのα係数は順に.893、.861、.853、.807であった。非常に高い信頼性(内的整合性)が認められたことから、オリジナルの下位尺度に基づいて分析を行うことに問題はないといえる。そこで、これら4因子の下位尺度得点とホーディング傾向尺度の6因子の下位尺度得点間で相関分析を行ったところ、対物管理と購買感情との関係を除くすべての関係において、有意な正の相関が見いだされた(Table 2参照)。これは、概してホーディング傾向が強い人ほど購買の際に理性を失いがちであることを示唆している。したがって、本研究で作成したホーディング傾向尺度は、基準関連妥当性の中の併存的妥当性においても十分な値が認められたといえる。なお、これらの結果は、ホーディングを抑制するには、買い物の仕方や衝動性の観点から見直す必要があることを示唆していると思われる。
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ホーディング傾向尺度 | 1. 物質多量 | — | .451*** | .478*** | .188*** | .208*** | .437*** | .277*** | .207*** | .298*** | .297*** |
2. 処分回避 | — | .559*** | .250*** | .362*** | .309*** | .399*** | .117* | .277*** | .226*** | ||
3. 拡張自己 | — | .523*** | .351*** | .465*** | .321*** | .232*** | .239*** | .249*** | |||
4. 対物責任 | — | .344*** | .373*** | .295*** | .112* | .232*** | .225*** | ||||
5. 対物管理 | — | .325*** | .291*** | −.004 | .238*** | .267*** | |||||
6. 記憶補助 | — | .315*** | .207*** | .296*** | .246*** | ||||||
強迫性購買尺度 | 7. 浪費性向 | — | −.088 | .820*** | .376*** | ||||||
8. 購買感情 | — | −.012 | .156** | ||||||||
9. 機能障害的浪費 | — | .422*** | |||||||||
10. 購買後罪悪感 | — |
注:* p<.05, ** p<.01, *** p<.001
研究2では、一般の人々における日常レベルでのホーディングの現状を把握するために、溜め込んでいるモノの種類や溜め込みの理由について調べ、質的な側面から分析を行う。そして、研究1で作成されたホーディング傾向尺度を用いて、ホーディングの規定因としてアニミズムに着目し、その関連性を実証する。
方法調査対象者および調査方法研究1同様、Ipsos株式会社のインターネットパネルデータベースから、首都圏と関西圏の234名のモニターを性・年齢が大きく偏らないように抽出し、web調査を実施した。具体的な方法は研究1に準ずるが、ここでは200名を最低回収数とし、年代×性別の各カテゴリーが20名を下回らないよう可能な限り均等回収を試みた。また研究1の設定条件に加え、研究1の回答者も調査対象者から省くように設定した。データクリーニングの結果、不完全な回答は見受けられなかったので、234名すべてを有効回答とした。性別構成は、男性93名(39.7%)、女性141名(60.3%)であり、平均年齢は42.10歳(SD=13.15、年齢幅20~69)であった7)。また調査時期は、2012年12月中旬であった。
調査項目1. ホーディングの実態に関する項目:1)捨てられずに溜め込んでいるモノの有無、2)溜め込んでいるモノの種類(自由記述:複数ある人は主なモノを1つだけ回答)、3)溜め込みの期間、4)なぜ捨てられないのか(自由記述:複数ある人は主な理由を1つだけ回答)、5)溜め込んでいるモノに対する愛着度(100点満点で評定)、6)モノが捨てられず、モノの量が多くて困っている程度(100点満点で評定)の6項目にて構成され、2)~6)は1)で溜め込んでいるモノが「ある」と回答した人のみが対象となった。なお、質問の際は、回答者がイメージしやすいように「溜め込み」という表現を使用した。
2. ホーディング傾向尺度:研究1で作成したホーディング傾向尺度28項目に対して、回答者は「全くあてはまらない」(1点)~「非常にあてはまる」(5点)の5件法にて評定を行った(具体的な質問項目はTable 1を参照のこと)。
3. アニミズム尺度:本研究では、Warren & Ostrom(1988)の主張を基に、池内(2010)が作成した「成人用アニミズム尺度」を使用した。この尺度は「自然物の神格化」「所有者の分身化」「所有物の擬人化」の3つの下位概念(11項目)で構成されている(詳細はTable 3を参照のこと)。評定方法は、「全くあてはまらない」(1点)~「非常にあてはまる」(5点)の5段階であり、得点が高いほど各概念の傾向が強いことになる。
下位概念 | 項目 |
---|---|
自然物の神格化――自然物に神が宿っているとみなす思考形態 | ・大木を人間の都合で切り倒すとたたりが起こると思う |
・海には海の、山には山の神が存在すると思う | |
・自然界の巨岩や大木には、神が宿っていると思う | |
所有者の分身化――モノを現在の所有者や過去の所有者の分身とみなす思考形態 | ・古着や古道具には以前の所有者の心が宿っているような気がする |
・手作りのモノには作り手の心が宿っている気がする | |
・長く愛用しているモノを、自分の分身のように感じることがある | |
・形見や遺品には使っていた人の心が宿っているような気がする | |
所有物の擬人化――所有物に対して人間と同じような感情を抱く思考形態 | ・身の回りのモノに名前をつけることがある |
・身の回りのモノに、人に対するような愛着を感じることがある | |
・長く愛用していたものを捨てるときに、可哀想に思うことがある | |
・身の回りのモノにも、人間のような心があると思う |
「溜め込みの有無」について尋ねたところ、捨てられずに溜め込んでいるモノがある人は184名(78.6%)、ない人は50名(21.4%)であり、約8割近い人が何らかの溜め込みをしていることが見いだされた。また実際に溜め込んでいるモノの種類を尋ねたところ、「衣服・服飾品等」と答えた人が全体の約40%と際立って多く、「紙袋・空き箱等」「本・雑誌・資料等」が同等程度で続いていた(Table 4参照)。溜め込みの理由に関しては、様々な回答が生じたため、調査者と研究協力者である学生の2人で分類を行った(一致率92.5%、なお意見の分かれた回答においては、相談の上いずれかのカテゴリーに分類した)。その結果、「必要になるかもしれないから」が全体の約4分の1の24.6%を占め、つづいて「もったいないから」(19.1%)、「思い出のモノだから」(18.0%)の回答が多かった。溜め込みを始めてからの期間は平均128.9カ月(SD=111.3、回答幅4~500)であり、回答の分散は非常に大きいものの、平均すると約2年ほど経過していることが見いだされた。また、捨てられないモノへの愛着度および捨てられなくて大量のモノに困っている程度(困惑度)については、100点満点で評定を求めたところ、愛着度は平均60.7点(SD=21.4、回答幅0~100)、困惑度は平均58.7点(SD=31.5、回答幅0~100)となった。
人数 | % | ||
---|---|---|---|
モノの種類 | 衣類・服飾品等 | 78 | 42.6 |
紙袋・空き箱等 | 22 | 12.0 | |
本・雑誌・資料等 | 21 | 11.5 | |
手紙・はがき・写真等 | 13 | 7.1 | |
切手等の収集品 | 11 | 6.0 | |
CD・DVD等 | 10 | 5.5 | |
ぬいぐるみ・飾り物等 | 6 | 3.3 | |
子どもの作品類 | 6 | 3.3 | |
明細書・レシート類 | 3 | 1.6 | |
タオル・ハンカチ等 | 3 | 1.6 | |
家電・電子機器等 | 3 | 1.6 | |
その他 | 7 | 3.8 | |
183 | 100.0 | ||
溜め込みの理由 | 必要になるかもしれないから | 45 | 24.6 |
もったいないから | 35 | 19.1 | |
思い出のモノだから | 33 | 18.0 | |
気に入っているから | 18 | 9.8 | |
捨てるのが面倒/捨てるタイミングが分からないから | 13 | 7.1 | |
価値があるから | 13 | 7.1 | |
必要だから | 8 | 4.4 | |
まだ使えるから | 7 | 3.8 | |
ずっと溜めているから | 5 | 2.7 | |
その他 | 6 | 3.3 | |
183 | 100.0 |
さらに、溜め込んでいるモノと溜め込みの理由との関係を視覚的に把握するために、両変数間のクロス集計表を基にコレスポンデンス分析(数量化Ⅲ類)を行った。分析の結果、第一次元の説明量は31.2%、第二次元の説明量は22.6%となり、基データの関係性は二次元で約5割強が再現されているのが分かる。そこで二次元空間に各項目をプロットし、さらにより客観的に対応関係を見るために、各次元得点を用いて階層クラスタ分析(平方ユークリッド距離によるWard法)を行った結果、Figure 1のようになった。この図は、近距離に布置されている項目間には強い関連性があること、またこれらの項目を分類すると5つのクラスタに分かれることを示唆している。この布置関係より、「衣服・服飾品等」は“もったいないから”、「紙袋・空き箱等」は“必要になるかもしれないから”、「手紙・はがき・写真等」は“思い出のモノだから”、「本・雑誌・資料等」は“面倒だから”捨てられないというように、モノによって溜め込みの理由が質的に異なることが示された。
研究1で作成された「ホーディング傾向尺度」の6因子構造を確認するため、確証的因子分析を実施した。各適合度指標は、GFI=.868、AGFI=.824、RMSEA=.063、AIC=583.3、χ2(335)=457.3、p=.000であった。GFIおよびAGFIともに、採用の基準とされている.90をやや下回っているため、本調査のデータは想定した因子構造に完全には適合していないことが分かる。標準化推定値をみると28項目中4項目は.45以下であり、他の項目の推定値がすべて.50以上であるのに比べて若干低くなっていたため、これら4項目を省いて再度確証的因子分析を行った(項目番号5)の推定値=.44、9)の推定値=.45, 18)の推定値=.45, 19)の推定値=.44、項目番号はTable 1を参照のこと)。その結果、各適合度指標は、GFI=.938、AGFI=.909、RMSEA=.001、AIC=376.0、χ2(237)=186.0、p=.826となり、安定した因子構造が得られた。したがって研究2では、「物質多量因子」8項目、「処分回避因子」4項目、「拡張自己因子」4項目、「対物責任因子」2項目、「対物管理因子」3項目、「記憶補助因子」3項目を基に以後の分析を行うことにする8)。
ホーディング傾向尺度とアニミズムとの関連性池内(2010)の「成人用アニミズム尺度」においては、信頼性(内的整合性)と基準関連妥当性が報告されていることから、オリジナルの下位尺度に基づいて下位尺度得点を算出した。その結果、「自然物の神格化」M=3.12(SD=1.04)、「所有者の分身化」M=3.13(SD=.88)、「所有物の擬人化」M=2.67(SD=.80)となり、クロンバックのα係数は順に.846、.797、.764であった。総じて高い信頼性が認められたことから、オリジナルの下位尺度に基づいて分析を行うことで問題はないといえる。そこで、これら3つの下位尺度得点を基に階層クラスタ分析を行った(平方ユークリッド距離によるWard法)。その結果、各クラスタの相対的距離と解釈可能性から、クラスタの結合距離10を境として3つのクラスタへの分類が妥当と判断した。各クラスタに含まれる人のアニミズム的思考を比較するために、クラスタごとにアニミズム尺度の各因子の下位尺度得点を算出したところTable 5のような結果となった。また、これらクラスタを独立変数、上記の下位尺度得点を従属変数として一要因の分散分析を行ったところ、すべての分析においてクラスタの主効果が有意となった。そこでTukeyの多重比較を行ったところ、アニミズム尺度の各下位得点はクラスタ1(CL1)>クラスタ2(CL2)>クラスタ3(CL3)となることが認められた。したがって、クラスタ1はアニミズム高群、クラスタ2はアニミズム中群、クラスタ3はアニミズム低群とみなすことができる。
下位因子(従属変数) | 下位因子の平均値(SD) | F値 | p値 | ||
---|---|---|---|---|---|
CL1 (n=88) | CL2 (n=102) | CL3 (n=44) | |||
自然物の神格化 | 4.05 (.05) | 3.01 (.05) | 1.50 (.08) | F(2, 231)=392.73 | p<.001 |
所有者の分身化 | 3.81 (.62) | 2.95 (.61) | 2.17 (.76) | F(2, 231)=100.90 | p<.001 |
所有物の擬人化 | 3.36 (.60) | 2.47 (.50) | 1.80 (.59) | F(2, 231)=128.40 | p<.001 |
注:Tukeyの多重比較の結果、全分析でCL1>CL2>CL3となった(p<.05、順にMSe=.25, MSe=.42, MSe=.31)。
次にこれらクラスタを独立変数、ホーディング傾向尺度の各下位因子の下位尺度得点を従属変数として一要因の分散分析をしたところ、「物質多量因子」以外はすべて有意差が見られ、概してアニミズム的思考の強い人はホーディング傾向も強いことが確かめられた(Table 6参照)。またアニミズムとホーディングとの関連をより詳細に検討するために、下位概念間で相関分析を行った。その結果、ホーディング傾向にはアニミズム尺度の中でも特に「所有者の分身化」と「所有物の擬人化」が強く関連していることが見いだされた(Table 7参照)。ただし、ホーディング傾向の中の「物質多量」と「記憶補助」には、アニミズム的思考はほとんど関連がないことが示唆された。
下位因子(従属変数) | 下位因子の平均値(SD) | F値 | p値 | Tukeyの多重比較(α=.05) | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
CL1 (n=88) | CL2 (n=102) | CL3 (n=44) | |||||
物質多量因子 | 2.56 (1.19) | 2.56 (.97) | 2.50 (1.05) | F(2, 231)=.06 | n.s. | MSe=1.15 | CL1=CL2=CL3 |
処分回避因子 | 3.29 (.82) | 3.04 (.95) | 2.99 (.92) | F(2, 231)=2.93 | p<.05 | MSe=.79 | CL1>CL3 |
拡張自己因子 | 2.30 (.86) | 1.97 (.78) | 1.77 (.75) | F(2, 231)=7.31 | p<.001 | MSe=.65 | CL1>CL2>CL3 |
対物責任因子 | 3.01 (.78) | 2.67 (.90) | 2.60 (.87) | F(2, 231)=5.90 | p<.01 | MSe=5.90 | CL1>CL3 |
対物管理因子 | 3.56 (.08) | 3.32 (1.12) | 3.26 (.08) | F(2, 231)=3.73 | p<.05 | MSe=.62 | CL1>CL3 |
記憶補助因子 | 2.59 (.78) | 2.56 (.84) | 2.32 (.72) | F(2, 231)=3.34 | p<.05 | MSe=3.34 | CL1>CL3 |
ホーディング傾向尺度 | 物質多量 | 処分回避 | 拡張自己 | 対物責任 | 対物管理 | 記憶補助 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
アニミズム尺度 | 自然物の神格化 | .038 | .095 | .183** | .088 | .092 | .013 |
所有者の分身化 | .048 | .251*** | .277*** | .215*** | .280*** | .053 | |
所有物の擬人化 | .020 | .222*** | .358*** | .298*** | .234** | .103 |
注:** p<.01, *** p<.001
研究1では、一般の人々を対象とした「ホーディング傾向尺度」の作成を試み、研究2では、ホーディングの規定因として「アニミズム」に着目し、ホーディング傾向との関連性を検討した。ここでは、仮説の検証および主な結果について総合的な視点から考察する。
ホーディング傾向尺度の開発:人はなぜモノの処分を回避するのか研究1では、ホーディングに関する既存尺度の問題点を踏まえ、既存の尺度項目を整理してより包括的な視点から、新たに「ホーディング傾向尺度」の作成を試みた。その結果、下位尺度として、「物質多量因子」、「処分回避因子」、「拡張自己因子」、「対物責任因子」、「対物管理因子」、「記憶補助因子」の6つのモノに対する態度特性が見いだされた。このうち「物質多量因子」と「処分回避因子」は、Frost et al.(2004)のSI-Rの下位尺度である「モノの散乱具合」や「処分困難傾向」とほぼ同義といえ、態度特性の中でも主に行動的側面を測る尺度となっている。また、「拡張自己因子」「対物責任因子」「対物管理因子」「記憶補助因子」は、Steketee et al.(2003)のSCIの下位尺度である「モノへの情緒的愛着」「モノへの責任感」「モノに対する支配感」「モノに対する記憶」にそれぞれ該当し、態度特性の中でも主に感情や認知的側面を測る尺度といえる。信頼性(内的整合性)と基準関連妥当性も高水準で認められ、本研究で提唱された「ホーディング傾向尺度」は、非臨床群である一般の人々の溜め込み傾向を測定する尺度として適したものといえる。
また、これら6因子の下位尺度得点に着目すると、研究1、2ともに、「拡張自己因子」以外は概ね2.50~3.50の値を示している。これは仙波(2007)の“ホーディングは精神医学的診断がつかない正常な人にも見られる”といった主張を示唆する結果といえよう。なかでも「対物管理」と「処分回避」の得点が高く、これらが日常レベルでのホーディングの主たる態度特性を構成しているといえる。特に「回避」は、Frost & Gross(1993)やFrost & Hartl(1996)においても、ホーディングの重要な特性の1つとして挙げられている。
それでは人はなぜモノの処分を回避するのだろうか。使用しないモノに貴重な住空間を割いて保持し続けることは、非常に不合理的な行為ともいえる。こうした人の不合理的な行為に関しては、行動経済学の「保有効果」の観点から説明できる。「保有効果」(endowment effect)とは、心理的バイアスの一種であり、自分が所有しているモノに高い価値を感じ、手放したくないと感じる現象のことをいう(Motterlini, 2006 泉訳2008)。こうした保有効果の作用により、人はいざモノを捨てたり、手放したりするとなると、急にそのモノの価値が高く感じられ、結果的に処分回避に至ると考えられる。しかし、研究2の「溜め込んでいるモノに対する愛着度」を見る限り、分散は大きいものの得点自体はそれほど高くなかった。したがって、この場合の保有効果は、一時的な愛着に基づくものといえる。さらにMotterlini(2006 泉訳2008)は、人は一般的にお金に関する選択をする際、現状を変えることによる不利益は利益よりも大きく見積もることから、現状を維持するほうを選ぶ傾向にあると唱えている。これは「現状維持バイアス」と呼ばれ、こうした心理的バイアスの観点からも、処分回避の理由を説明することができる。つまり、モノを処分するということは現状を変えることになり、大きな不利益をもたらす可能性があることから、結果的にモノの処分を回避するといえる。
ホーディングの規定因:ホーディング傾向とアニミズムとの関連性強迫性ホーディングの規定因については、これまで様々な病的疾患との関連性が唱えられているが、本研究では一般的な人を対象としたホーディングを取り上げるため、日本人全般に強く根ざすとされる「アニミズム」に着目した。その際、「アニミズム的思考の強い人は弱い人に比べてホーディング傾向が強い」といった仮説を立てた。検討の結果、アニミズム的思考の強い人は、「物質多量因子」を除くすべての因子において有意に高い得点を示したことから、ホーディング傾向も強いことが認められた。したがって概ね仮説は支持され、Warren & Ostrom(1988)の主張や池内(2010)の研究とも一致することが示唆された。しかし、物質多量因子においてのみ、アニミズム的思考との関連性が見られなかったことは、むしろ興味深いことといえる。この結果は、ホーディング傾向尺度の中の他の因子、例えばモノを捨てる際に感じる抵抗感(処分回避因子)やモノを自分の一部とみなす感覚(拡張自己因子)などは、少なからずアニミズム的思考に起因するが、物質多量因子はアニミズム的思考の影響を受けないことを示唆している。つまり生活に支障をきたすほどの大量のモノや散乱状態は、アニミズム以外の何らかの要因によってもたらされる部分が大きく、その一因として考えられるのが、OCDなどの病的疾患であるといえよう。この考えに基づくと、物質多量因子こそが、強迫的なホーディングと日常レベルでのホーディングとを分ける1つの重要な分類視点になり、本研究におけるホーディング傾向の定義が妥当であったことを裏づけるものといえる。
さらに、アニミズムとホーディングとの関連性をより詳細に検討するために、下位概念間で相関分析を行ったところ、ホーディング傾向にはアニミズム尺度の中でも、特に「所有者の分身化」と「所有物の擬人化」が強く関連していることが見いだされた。それではなぜモノを分身化、擬人化しやすい人ほど、ホーディング傾向が強いのであろうか。“モノを分身化、擬人化する”とは、頭の中でモノに生命を吹き込むことを意味する。そうした人たちにとって、モノは時にかけがえのない家族であったり、大切な友人であったりするため、モノに過剰に感情移入し、それらの処分に抵抗を感じたり、所有者としての責任を感じたりするのも納得できる。事実、ホーダーの中には、モノを捨てることを家族や自分自身の死として捉えるため(Frost & Steketee, 2010)、それらを失うことにより、まるで世界が空っぽになるかのように感じる人もいるという(Frost et al., 1995)。しかし、心理学の領域ではアニミズム反応やアニミズム的な錯誤は、知的能力が低い人や教育歴の短い人において、より顕著に現れることが示唆されている(Dennis & Mallinger, 1949)。また、女性は男性に比べてアニミズム的思考が強いことも見いだされている(市川,1977)。こうした知見を鑑みると、アニミズムはあくまで調整変数や媒介変数であって、ホーディング傾向にはもっと根本的な他の変数が強く影響している可能性も考えられる。したがって今後はアニミズムを調整変数として捉え、性別や知的能力などの変数とホーディング傾向との関連性について検討することも、興味深いアプローチといえる。
本研究の貢献と今後の課題本研究の貢献としては、まず日常的なホーディングに陥りやすい人の、モノに対する態度特性を測る「ホーディング傾向尺度」を作成したことが挙げられる。本尺度は、下位尺度を想定していることや、多面的な態度特性から測定しているため、既存尺度に対する問題点は解消されているといえる。さらに、他の性格特性や行動特性との関連性を検討することにより、ホーディングの予防や対策に一助を与えることが期待できる。例えば強迫性ホーディングは、優柔不断や完全主義といった性格特性との関連性が示唆されているが(Frost & Gross, 1993)、ホーディング傾向の強い非臨床群においても、こうした特性を持ち得ているのか否かを検討することは、日常レベルでのホーディングの予防や対策を考えるうえで、重要な知見を提供するものと思われる。
また、社会心理学や消費者行動研究の領域において、新たな研究視点をもたらした点も1つの貢献といえる。社会心理学の領域では、池内・藤原・土肥(2000)が対人関係ならぬ「対物関係」研究の可能性について唱え、モノに対する価値観や心情の違いは、人々の社会的態度や行動の一側面を説明するのに有益な示唆を与えてくれると述べている。本研究では、モノへの主観的な意味づけがホーディング傾向につながることが示唆されたが、こうした人とモノとの関係性に着目した本研究は、社会心理学における「対物関係」研究にも、少なからず新たな研究視点をもたらすものと思われる。
一方、消費者行動研究の領域では、これまでブランド選択などの購買行動が中心的な課題であったが、成熟化した社会ではそれでは不十分であり、とりわけ購買後行動(所有、廃棄など)に注目することの重要性が唱えられている。それゆえホーディングに注目した本研究は、消費者行動研究でほぼ等閑視されてきた所有や廃棄の課題において、新たな研究視点をもたらしたといえる。特に、ホーディングは家庭内での過剰ストックにつながる可能性も唱えられているため(Frost & Steketee, 2010)、ホーディングの視点から死蔵やストック、さらには食品ロスという問題に接近することは非常に興味深いことといえる。
本研究の重要な課題としては、ホーディングのもたらす諸問題の検討が挙げられる。ホーディングは一見個人の問題のように見えるが、対人関係の崩壊や生活環境の悪化といった社会的な問題に発展する可能性が極めて高い。モノを捨てることを避けていると、やがてモノが室内にあふれ返り、生活スペースを侵害したり、家具本来の機能を奪ったりするといった事態を招くこともあろう。そうなると個人の問題が家庭内の問題へと発展し、やがては家族の崩壊をもたらすことにもなりかねない。事実、ホーダーはモノが原因で円満な家庭生活を送ることが困難になるため、離婚経験者や独身者が多いことが認められている (e.g., Frost & Gross, 1993; Frost & Steketee, 2010)。また、ホーダーは人よりもモノと一緒にいるほうが居心地良く感じるため、他者と深い関係を築こうとせず、引きこもりがちになるといった主張もある(Fromm, 1947 谷口・早坂訳1955)。これらの主張に基づくと、ホーディングが重篤になると「社会的孤立」に至る可能性も考えられる。したがって、このようなホーディングがもたらす諸問題について、物理的・精神的・社会的側面からより深く探求することも重要な課題の1つといえる。
さらに本研究では、あくまで日常レベルのホーディングを取り上げたが、この日常レベルの延長線上に病的なホーディングがあるのか否かも検討の余地がある。問題の箇所でも言及したように、ホーディングはこれまでOCDの一症状として取り上げられていたが、臨床領域においてはDSM-5からは独立した障害として掲載されている。したがって、そもそもホーディング傾向のある人が何らかの“きっかけ”を基に病的なホーダーへと進行するのか、あるいは日常レベルのホーダーと病的なホーダーは根本的に独立した関係にあるのかについて、ホーディング傾向尺度の適用範囲を限定するためにも、今後検討する必要がある。ちなみに本論では、日常レベルのホーダーと病的なホーダーの分類視点として「物質多量因子」(大量のモノの存在や散乱状態)が重要であると考察したが、この真偽についても確かめる必要があろう。また、ホーディングの“きっかけ”の解明自体も重要な研究対象といえる。ホーディングを始めたきっかけは、もちろん物質的な欠乏体験によるところが大きい。しかし、それ以上に幼い頃の家庭生活における愛情不足や、大切な人々の喪失体験なども重要視されており(Frost & Steketee, 2010)、今のところ明確なきっかけは明らかではない。それゆえホーディングのきっかけや動機に関する検討も課題の1つであり、きっかけが明確になると、ホーディングからの脱出に一助を与えることが期待できる。いずれにせよ、モノを所有するということは、モノの獲得、使用、管理、保管、そして処分に至るまでの全責任を負うことを意味する。モノの所有に苦痛を感じている人は、新たなモノを入手する際に、まずはこのことを意識する必要があると思われる。