抄録
細菌が感染したと思われるカイコ幼虫において、囲心細胞や周気管腺などが茶褐色に着色する現象が見いだされた。この現象について明らかにする目的で実験を行った。まず、Bacillus thuringiensis (B.t)を5齢カイコ幼虫に注射すると、1日後にカイコは死亡したが、致死直前の幼虫に囲心細胞などの着色は見られなかった。次に、多量のB.t.の加熱死菌を注射した結果でも変化は観察されなかった。投与する菌として大腸菌Escherichia coliを用いると上記とは異なる結果となった。すなわち、加熱大腸菌の注射1日後に、囲心細胞、周気管腺、食道下体は茶褐色になっており、著しい着色がみられる場合には血液自体にメラノーシスが生じていた。また、投与5日後に観察した結果、死亡個体があり、対照区と比べ体重が減少していた。しかし、生存個体の囲心細胞などの着色は注射1日後に比べ、薄れる傾向が認められた。以上から、体腔内への細菌の侵入によって、血液のProphenoloxidase系が活性化し、体腔内にメラノーシスが生起し、生じたメラニンを取り込んで囲心細胞や周気管腺が着色するものと推測された。