抄録
家蚕の4・5齢幼虫の造血器官に重イオンビームを局部的に高線量照射しても、その後の発育過程で再生することがこれまでの実験で明らかになっている。そこで演者らは、重イオン照射造血器官の再生には、体液中を循環している血球が関与しているのではないかと考え、器官培養系を用いて再生機構の一端を追究した。家蚕幼虫の体液を 10 __%__加えた Grace の培養液で造血器官(5齢 day 0)を培養すると器官外に血球を多数遊離するが、1Gy 以上の重イオン照射器官を培養した場合はほとんど遊離しなかった。100Gy 照射後 6 日間培養した造血器官を Hoechst 及び TUNEL 法で染色すると、照射造血器官内に多数のアポトーシス小体様の小球が観察され、細胞の多くは死んでいるものと判断された。一方、重イオンを局部照射後 6 日間発育させた幼虫から造血器官を取り出して同様の染色を施したところ、造血器官内の細胞の形態はほぼ正常であることが分かった。 再生過程の器官内には貪食している顆粒細胞等が観察されることから、再生には、重イオンによって損傷を受けた細胞が器官内に進入した循環血球によって貪食・排除される過程が重要と考えられた。